勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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外交狂想曲4

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「わざわざ俺をからかいに来たわけでもなかろう。何の用だ?」
「あら、つれないわね」

 くすくすと笑うイクスラースはわざとらしく顔を赤らめてみせると、頬に手をあてて恥らう乙女のようなポーズをとる。

「……私だって、何も思わないわけじゃないのよ?」
「そうだな。面白くてたまらないとか思っていそうだ」
「あら、よく分かってるじゃない」

 あっさりと素に戻ったイクスラースをヴェルムドールは軽く睨み付ける。

「で、用事はなんだ?」
「シロノスから届け物よ」
「シロノスから……?」

 シロノスは現在、ザダーク王国とキャナル王国を繋ぐ外交官としてキャナル王国に派遣されている。
 中々頑張っているらしいという報告は聞いているが……このタイミングでの届け物という言葉に、ヴェルムドールは少しばかり嫌な予感がする。

「ほら、貴方達。持ってきて頂戴」

 イクスラースがパチンと指を鳴らすと、魔操鎧達が次々と何かを部屋に運び入れてくる。
 結構な数があるそれ等を見て、ヴェルムドールの気分は急下降していく。

「……一応聞くが、それはなんだ?」
「肖像画よ」
「だろうな」

 部屋の片隅に並べるように置かれた様々な女性の肖像画。
 それらの搬入がひと段落着くと、今度は大きな木箱が運ばれてくる。
 ヴェルムドールの横に置かれたその箱の蓋をイクスラースが開けると、そこには封蝋のされた手紙が山のように入っている。
 封蝋どころか一枚紙の形で届けられてきたジオル森王国のものに比べると、如何にも「貴族らしい」手紙といえるだろう。

「……一応聞くが」
「婚約の申込みよ」
「だろうな」

 早くも疲れた顔のヴェルムドールはそのうちの一枚を取り出して開封する。
 すると当然のようにイクスラースも背後に回って開いた手紙を覗き始める。
 読み始めてすぐにヴェルムドールは溜息をつき始め、イクスラースは面白そうに読み上げる。

「ふふっ……えー、と? 我が娘パトシリアはシュタイア大陸全土でも並ぶ者がそうは居ないと自負しており?」
「やめろ、読み上げるな。頭痛がする」
「そうは居ないって辺りに微妙な自信の無さが伺えるわね。あの肖像画の中のどれかしら?」

 言われてヴェルムドールは立てかけられた肖像画に視線を送る。
 肖像画に描かれた女達はどれも精緻に描かれており……しかし、実際がどの程度であるかは少しばかり疑問の余地があるだろう。
 こうしたものは露骨でない範囲内で本人より多少美しく描くのが鉄則のようなところがあるが、別人じゃないかと苦情が出る域に描くのもまた手ではあるのだ。
 体験する気もないが、それの言い訳も中々にもっともらしいものが聞けることだろう。

「あの絵なんか凄いわよ。明らかに子供じゃない。何考えてるのかしら」
 
 まだ元気盛りに見える少女の描かれた肖像画を見て笑っているイクスラース。
 その指先の示す肖像画をじっくりと見てから、ヴェルムドールはゆっくりとイクスラースへ視線を移動させる。
 そうしてから再び肖像画へと視線を移動させ、またイクスラースに視線を戻した所でイクスラースに両頬をがっしりと掴まれる。

「……言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいな」
「何も無い」
「嘘おっしゃい」
「何も無い」

 ヴェルムドールの頭を叩くと、イクスラースは不機嫌そうに肖像画を抱えて壁際に並べ始める。
 そうすると結構な数がある為に隠れていた肖像画も見えるようになり、無数の「笑顔」がヴェルムドールを取り囲むように三方の壁に並べられる。

「おい、やめろ。何か悪い夢を見そうだ」
「見ればいいじゃない、このバカ。バーカ」

 並べられた肖像画はどれも笑顔だが、その裏にあるものが分かっているだけに不気味な笑顔に見えてしまう。
 一転して呪いの美術館になってしまった執務室の様子に溜息をつきながらも、仕方ないとヴェルムドールは一枚一枚の絵を眺める。
 正直な話、この絵の姿を覚えたところで本人にどれだけ似ているかは不明なのだが、一応見ておかなければ非礼に当たる。
 そうしたどうでもいい所から足をすくわれるわけにはいかない。
 そう考えて……ふと、一枚の絵に視線がとまる。
 それは、並んだ絵の中では相当に特殊な絵だった。
 技巧こそ素晴らしいが特殊な画材を使っているわけでもない。
 しかしそれでいて、絵に込められた心が伝わってくるかのようだ。
 描かれてる女性は、少し意匠の古い服を着ているが純朴そうな笑顔を浮かべた美人だ。
 というか、魔絵画のモカである。

「……おい」
「てへっ」

 絵の中のモカはそう言って笑うと、にゅっと絵の中から出てくる。
 モカの出てきた後の絵には背景しか残ってはいないが、モカがトンと叩くとモカの中に光の粒子となって吸い込まれていく。

「いやあ、魔王様をちょっとした冗談で癒してあげて欲しいって頼まれまして」

 どうですか、などと問いかけるモカにヴェルムドールは更なる疲れを感じつつも曖昧に笑う。

「ああ、とても面白かったよ。一応聞くが、他にも同族が紛れ込んでたりはしないな?」
「え? いやあ、此処にあるのは全部普通の絵ですよ? まあ、結構どす黒いものは感じますけど。正直、オエッて感じですね」

 吐き気を抑えるような仕草をしてみせるモカに、ヴェルムドールは曖昧な笑顔すら消えてしまう。

「……そうか。あまり聞きたくは無かったな」

 癒しというのは、どんな意味だったか。
 そんな事を考えながら、ヴェルムドールは天井を見上げた。
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