勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
328 / 681
連載

カインとアイン4

しおりを挟む

「……まあ、いい。荷物も粗方纏め終わっただろう。どうするんだ、すぐに出発するのか?」
「ん、んんー……」

 ツヴァイの問いにカインが悩むような様子を見せると、アインは素早く纏められた荷物の山へと視線を走らせる。
 そこにあるのは、衣類などの必要最低限の荷物。
 幾らか捨てて買いなおしたものもあるが、冒険者らしい「最低限」で纏められている。

「ああ、そうか。食糧か?」

 そこに無いもの……しかし、旅には確実に必要になるものを見てアインは気付く。
 転移魔法のある魔族には欠落しがちな視点だが、旅とは基本的に歩くものである。
 馬や馬車を使う手もあるにはあるのだが、内戦の傷跡から復興途中のキャナル王国には中々「町の外」に回す余力が無い。
 長い内戦を終えたキャナル王国では様々な物資……特に閉塞感から逃れた人々による嗜好品の需要が激増している。
 それは一般庶民もだが、貴族も「祝い事」などと称して宝石だの皿だのといったものを買うのに熱心である。
 そうなると商人側としても「ここぞ」とばかりに売り込むチャンスだ。
 商会による現地の店舗への運搬隊は勿論、行商人等も選りすぐりの商品を持ってキャナル王国の各都市へと向かうことになる。

 そして、そうした商隊が通るとなると……残念なことに、盗賊が発生する。
 それは地元の者であったり、あるいはわざわざ遠くからやってきた者であったりする。
 盗賊は漏れなく死罪とされても尚そうした者達が発生するのは、金というものの持つ妖しき魅力故なのだろうか。
 無論それだけではなくゴブリンやビスティア、時としてオウガの襲撃もあるが故に、護衛を雇うことは欠かせない。
 こうした場合に護衛として雇われるのは冒険者だが、キャナル王国に冒険者ギルド本部が再移転したこと、そしてキャナル王国の内戦終了に伴う依頼の需要の増加を見込んで「片道」契約で護衛となる者も少なくない。
 無論隊商側としても金をどっさり積んだ帰り道で護衛がいなくなっては何の意味もない。
 そこで往路での護衛契約をする冒険者を雇ったりするのだが……そうなると、一つの隊商に大袈裟なくらいの人数が護衛についたりすることもある。
 更には途中で「同行」する冒険者が合流したりすると、その辺の盗賊では手も出せない。
 ゴブリンは底無しの阿呆なので向かってくるが、そのくらいのものだろう。

 さて、そうなると地元のにわか盗賊は「割に合わない」ということを早々に理解するのだが、美味しい話を夢見て遠くからやってきた盗賊団はそうはいかない。
 ここまで来てタダで帰れるものか、という安っぽいプライドが邪魔をするのである。
 そうなると実に本末転倒なもので、少しでも人数が少なくて金を持っていそうな者を襲うことになる。
 その基準が、「馬」や「馬車」というわけだ。
 馬に乗っているということはそれなりの金は確実に持っているし、馬を混乱させれば奇襲もしやすい。
 馬車に乗っているということはお宝を積んでいるかもしれないし、場合によってはそれ以外のお楽しみもあるかもしれない。
 欲を言えば、馬も手に入れば使うにしろ売るにしろ損が無い。
 そんな狙わない理由の方が少ない馬に少人数で乗るのは余程自信があるか、騎士くらいのものだ。
 
 というわけで、旅とは基本的に歩きである。
 特に国境を越えるような長旅で必要なのは、その長い期間に耐えうる食糧である。
 基本と言われるのは干し肉、干し芋、そして浄化の魔法のかかった水袋である。
 この三点があれば「とりあえず大丈夫」とされており、ちょっと余裕があれば干し野菜に干し果物、堅焼パンにチーズ等々、財布と相談しながら揃えていく。
 そしてこうしたものは出発の直前に買い揃えるのが普通であるとされていた。

「あ、うん。それもそうなんだけど」
「他に何か……ああ、土産か」

 即座に看破するアインから、カインはふいと視線をそらす。
 そう、先程の本はシャロンへの土産だ。
 ついついノリで色々と購入してしまったが、それだけだと帰った時に間違いなくセイラの機嫌が悪くなる。
 エリア王女は流石に……と思いたいが、意外に妙な所で機嫌を悪くすることもある。
 何かは用意しておいたほうが無難だと、カインの勘が囁いていた。

「だが、何を買うつもりだ?」
「……それなんだよね」

 正直、高価なアクセサリーを買うのは簡単だ。
 しかし、「高価」だとか「綺麗」だとか「最新」だとかで喜んでくれるような女性陣ではない。
 何しろ高価なものなど飽きるほど見ているエリア王女を筆頭に、最高位の貴族の娘に目利きに長けた大商会の娘である。
 そんな「如何にも」なもので機嫌が良くなってくれるなら、カインは毎日苦労していない。
 求められているのは、たとえばシャロンとセイラは「心の篭ったもの」だろう。
 カインが二人の為にとしっかり選べば、それを悟って喜んでくれるだろう。
 しかし問題はエリア王女である。
 王族に渡す以上は「それなり」を超える物を渡す必要があるのだが、一人だけ高い物を渡すというわけにもいかないだろう。
 一般的な礼儀としてはそれでいいのだが、困ったことにシャロン、セイラ、エリア王女の三人はカインを中心とした友人関係なのである。
 そうした「友情」に幻想にも近い憧れを抱くエリア王女がそれを知れば「王女だからとカインからまで特別扱いされた」と落ち込むだろうし、シャロンとセイラからの目も怖い。

「女たらしのクズが」
「……言われる度弁解してるけど、一応友人関係のつもりなんだけどな」
「クズは皆そう言うんだ」
「コラ、やめろ」

 ツヴァイの頭を平手で少し強めに叩くと、アインはふむと頷く。

「だがその条件で言えば、今は然程難しくないのではないか?」

 そう、今は各地からの商人によりエルアークには様々な高級品が溢れている。
 どんなものであろうと、探すのは難しくないはずだ。

「うーん……」

 悩むカインの腕を引くと、アインは扉の外へぽいと放り出す。

「悩む前に行動しろ。私も手伝ってやる」
「おい、アイン」
「お前もだ、ツヴァイ。私よりはそういうのに興味があるだろう」

 ツヴァイの耳を引っ張り、アインは扉の外へと出て行く。
 目指すは、商業区画である。
************************************************
どうでもいい情報:アインが休日にザダーク王国を歩く際の普段着は、ツヴァイが選んだものを大体着ています。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。