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連載
カインとアイン5
しおりを挟む「む」
「あ」
悩んでいる様子のカインと、いつも通りのアイン。
それに如何にも不機嫌そうなツヴァイを加えた一行が出会ったのは、露店の前で揚げ串を店主から受け取っていた一人の女騎士である。
最近クロと名乗り始めた彼女は、いつも通りの黒い鎧に安物の剣、そして背中には相当な業物と思われる黄金の槍を背負っている。
出来る女騎士、といった風体のクロが揚げ串を買っている姿は良い意味でミスマッチで、さながら「堅物のあの人の意外な休日」といったところだろうか、とカインは考えながら頷く。
「……別に堅物のつもりはないんだが」
「えっ」
「よくイメージに合わないと言われるからな。そいつ等と同じ目をしている」
そう言うとクロは、手元の揚げ串を軽く振ってみせる。
「それに、この揚げ串は素晴らしい。揚げたてのうちに食わんと味が落ちるのが難点だが、その儚さもまた素晴らしさに拍車をかけている」
クロが持っている揚げ串は何かの肉と野菜、キノコが交互に刺さったもののようで、一般的な組み合わせである。
値段としては決して安くは無いが、手軽で少し贅沢な一品だ。
ちなみに儚さを感じるかどうかは個人差である。
「そ、そうなんですね」
「ああ」
短く答えると、クロはザクッという音を立てて串揚げを口に含む。
油でしっかりと揚げた肉の風味を堪能して飲み込むと、思い出したかのようにクロは屋台の前からどく。
「ああ、すまんな。買うんだろう?」
「え、あ、いや。そういうわけじゃないんです」
「そうか」
特に気にした様子もなく二口目にいこうとしたクロは、そこでピタリと動きを止めて串を口元から遠ざける。
「そういえばお前達、そろそろ帰るんだったか?」
「あ、はい。明日の朝にでも出ようかと」
「そうか。今なら途中の道も安全だろう。人通りも多いらしいからな」
宿場町の復興も計画されているらしいぞ……と言いながら、クロはキノコをほうばる。
幸せそうな顔をしていたクロは、ごくりと喉を鳴らしてキノコを飲み込む。
「で、明日出るなら……こんな所で何をしている?」
「えーっと……地元の友人にお土産を」
「こいつと特に仲の良い女友達への土産を探している。何か知っていたら教えてやってほしい」
カインの台詞に被せるようにアインが説明すると、クロはきょとんとした顔をする。
「そんなもの、選び放題じゃないか? 過去最高の品揃えらしいぞ?」
「うーん……だから、なんだよなあ」
「どういう意味だ?」
カインの呟きを耳聡く拾ったクロが聞き返すと、カインは困ったような顔で後ろ頭を掻く。
「つまり、ですね。なんていうか……「どこで買っても同じ物」しかないんですよ」
そう、「どの国のどの街で買っても同じ物が手に入るだろう」というものしか店には並んではいない。
そしてこれは、ここ数日に始まった話ではない。
そもそもキャナル王国は、これといった特産品が存在しない国だ。
それはたとえば宝飾品といった分野でもそうであり、そうしたものが発達する土壌も無い。
故に、出回るものは基本的に他国の物が出たり入ったりを繰り返す「中継地点」としての役割を果たしてきていた。
つまり、キャナル王国では「あらゆる国の品が大体手に入るが、此処でしか無いというものは基本的には無い」のである。
それ故に、カインは悩んでいたのだ。
「ふむ」
うーん、と唸るカインを見て、クロは何かを考えるような表情を見せる。
しかしすぐに串揚げに齧りつき……最後まで食べて串を屋台に返すと、今度は果汁ジュースの屋台でジュースを買ってくる。
「……思ったんだが」
「はあ」
「その女友達とやらは、冒険者か何かか?」
言われてカインは、三人のことを思い返す。
シャロンとセイラは、冒険者といってもいいだろう。
エリア王女は……それとは程遠い。
「一人を除けば、そう言えると思います」
「そうか。なら、魔法についてはどうだ」
そこまで言われて、アインはああと声を上げる。
「なるほど、杖か」
「そういうことだ。まあ、喜ぶかは知らんがな」
ジュースを飲み干すと、クロは身を翻す。
「では、な。また会う事があるかは知らんが、無事くらいは祈っておこう」
「あ、ありがとうございます!」
カインは歩き去っていくクロに頭を下げ……今の提案を真剣に考え始める。
「杖、か……そうか、そういえばこの国って魔法王国だもんな」
特産品など何もないキャナル王国ではあるが、その唯一の特徴が「魔法」である。
賢者テリアを筆頭とする優秀な魔法使いを生み出してきたキャナル王国には当然ではあるが、高性能な魔法使い関連の品が集まる。
その最たるものは杖であり、これに関しては「大体の物が集まる」キャナル王国で購入しようという者も多い。
「となると、短杖か? 邪魔にならないしな」
「いっそ、デザインに拘るのもいいかもしれんぞ。すでに自分に合うのは持っているだろうしな」
カインとアインはそんな会話をしながら、ふと全く会話に参加してこない者がいるのに気付いて振り返る。
するとそこには、あらぬ方向を向いていたツヴァイの姿がある。
「おい、何をしている」
「あ、いや……」
アインに小突かれて、ツヴァイは言葉を濁す。
「なんだ。何か珍しい物でもあったか?」
「ん、ああ。いや……たぶん、気のせいだろう」
ラクターに後姿がそっくりな誰かが居た気がする。
そう言おうとして「ありえない」と言葉を飲み込んだツヴァイは、もう一度振り返る。
「おい、ツヴァイ。何してる……行くぞ」
「あ、ああ」
アインに呼ばれ、ツヴァイはもう一度振り返る。
そこには行き交う普通の人々の姿があるだけで……ラクターそっくりの男の後姿など、何処にもありはしなかった。
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