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連載
とある小さな物語
しおりを挟む「……ったく、面倒くせぇなあ」
ザダーク王国の誇る南方将たるラクターは、エルアークの街中でそう呟いた。
ラクターがこんな所にいるのは、当然ではあるが魔王ヴェルムドールの命令によるものである。
キャナル王国の支援計画において、ジオル森王国と同様に「一時的な防衛力の支援」が必要かどうかを検討する為の話し合いが必要だったのだが……それにあたり、キャナル王国の防衛大臣とやらが出席すると伝えてきたのが原因である。
本来であればキャナル王国からはエルアーク守備騎士団の副団長と光剣騎士団の団長補佐役、そしてザダーク王国からは派遣予定である東方軍から副官と現場の部隊長を一人……という予定だったのだ。
あくまで気軽に意見を交換し合い、次回以降の話し合いに繋げる……という形だったはずなのだが、そんな人物が前日になって突然「私も参加しましょう。大事な話し合いだ」などときてしまっては、ザダーク王国側としてもそれなりの立場の人物を出さねばならない。
しかし困ったことに、東方将のファイネルは勿論アルテジオもサンクリードも、更にゴーディも手が放せない状態にあり、丁度暇をしているのがラクターしか居ないという状況であった。
とはいえ、ラクターはファイネルと違ってバカではない。
きちんと難しい話を理解する能力はあるし、賢者と称されていただけの知性もある。
伊達に最古クラスの魔族ではないわけだが……基本的にやる気に欠けている。
なので、「ヴェルムドールからの命令」という形でやる気を補填し場に臨む事になったわけである。
しかし実際の話し合いになって防衛大臣とやらを名乗った狸のような男が部屋に入ってラクターを見た瞬間に歯を打楽器のようにリズミカルに鳴らしながら盛大な汗を掻き、案内してきた騎士の肩を叩いて「申し訳ありませんが私でなければ処理できぬ急な案件が……なあ、君!」などと言いながら逃げてしまっては「俺は何をしに来たんだ」というものだ。
流石にそれはないだろうということで一度中断し、「大臣の用件を早急に片付けて」からの再開となったわけである。
大臣を片付けたほうが早いんじゃないかと言わなかった辺り、ラクターを選んで正解だったというところだろうか。
ファイネルならば確実に言っている。
というよりは、その大臣とやらが参加を決めたのは「東方軍」だと聞いたからだろうな……とラクターは推測している。
ジオル森王国のパーティで「東方将」として紹介されたファイネルの絵はジオル森王国内でそれなりに広まっており、あの好色そうな男がそれを手に入れて、「一目見たい」と画策していたとしても不思議ではない。
ラクターの趣味とは外れているが、ファイネルはかなり美人の部類に入るからだ。
……まあ、そんなわけで翌日からとなった会談までの間、暇になってしまったという訳であり……暇つぶしにラクターはエルアークの街中をぶらついているというわけだ。
幸いにも、あちこちから来た冒険者でエルアークは賑わっている。
その中にはかなりの巨体の冒険者も結構いる為、威圧感を極力抑えたラクターは「思い切り目立つ」という程ではない。
まあ、それでもそれなりに目立つのだが……冒険者が「大きければ強い」というわけではないのを知っている者達からしてみれば、それなり程度の目立ち具合でしかない。
巨漢が見せびらかす槌や大剣などを持っておらず、素手に見えるのも一因かもしれない。
前にファイネルから散々「クッキー」とやらを自慢されたラクターとしては、それを山のように買って帰って見せびらかしてやろうなどと考えていたのだが、どうにも露店で売っているものではないらしい。
というよりも、完全に区画整理されたザダーク王国の街並を見ているラクターからすれば、どうにもごちゃごちゃしているという印象が拭えない。
まあ、そもそも簡易店舗である「露店」の存在しないザダーク王国に暮らしていれば当然の反応なのだが、それはさておき。
「……どうしたもんかね」
「おっ、そこの旦那! ちょっとこの店を見ていきません!?」
「あ?」
かけられた声に振り向けば、樽に武器を色々と挿して並べた露店の店主が愛想笑いを浮かべている。
「あっしには分かる! 旦那は今、長く世話になった相棒を失って新たな出会いを求めてる……ってね! だがもう安心です! ご覧あれ、このガタックの集めた珠玉の武器の数々! たとえばこれ、ドラゴンを正面から叩き潰す事も不可能ではないかもしれないと言われた、あの噂の大槌デガルトン! なんと知る人ぞ知る重緑銅を使用することで安心の重量感を実現した逸品ですぜ!」
「ほお」
ガタックとやらの後ろに置いてある大振りの槌を見て、ラクターはつまらなそうに目を細める。
重緑銅といえば、確か重たいしか能の無い金属であったはずだ。
武器に使うには硬さが足りず、人類領域では訓練用の器具に使う金属として一部で使われていると聞いている。
南方軍でも一時輸入を検討したものの、あまり需要がないと見送った経緯がある。
「ご覧あれ、この妖しい緑の輝きを! これこそまさに旦那を栄光へと導く一品!」
金属に詳しく無さそうな冒険者をカモろうとでも思ったのか、あるいはこの男も仕入れの際に騙されたのか。
後者だとすれば哀れなもんだとガタックの弁舌に適当に相槌をうっていたラクターだが、ふとガタックの瞳に宿る侮蔑の色を見て前者だと悟る。
「どうですかい、旦那! 旦那もお困りでしょうし、今この瞬間なら……大金貨三枚相当のこの品ですが……ぬう、ううー!」
如何にも苦悩している風の男だが、実際に値段に換算すれば大銀貨三枚の価値があるかも不明だ。
まあ、変な趣味を持った者が珍奇な美術品として買う可能性があるかもしれないが……それにしては芸術性のない造形だ。
大銀貨一枚で叩き売られた挙句に別の物に加工しなおされるのが関の山だろうか。
「よし……よし、あっしも冒険者の皆様の味方を公言してきた男だ! 小金貨一枚で如何です!? ……って、ありゃ? 旦那?」
男が一瞬演技で目を瞑った瞬間に、ラクターの姿はそこから消えていた。
単純にこれ以上見ていたらぶん殴りそうだったから立ち去ったのだが、ガタックは気付かずに「あれえ」などと言って辺りを見回している。
そのラクター本人は、近くの路地裏に入り込んで何処かああいうアホのいない店のありそうな場所まで行ってみよう……などと考えていたのだが。
「……あうっ!」
息を切らせた一人の女がラクターの胸に飛び込んできたのは、その次の瞬間のことであった。
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