勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
341 / 681
連載

ミキシングメモリー2

しおりを挟む

「まあ、それはさておきまして」

 ルルガルの視線を受け流しながら、ルモンは静かに言葉を紡ぐ。

「例の件のほうは、進展がありましたか?」
「ええ、勿論です。鼠共の巣……とりあえず一つ、見つけました」
「そうですか。流石ですね、ルルガルさん」

 そう言って微笑むとルモンは椅子から立ち上がり、立てかけていた剣を手に取る。

「それじゃあ、今日はちょっと早退させていただいて」

 言いかけた直後、ガンという音を立てて扉が開かれる。

「ルモン!」
「ルモン隊長、失礼しますっ!」

 壊れそうな勢いで開かれた扉から飛び込んできたのは、フーリィとゲルダの二人だ。
 
「げっ」
「チッ」
「げっ、とはなんだ!」
「フーリィさん、あの人チッて言いましたよ!?」

 途端に騒がしくなる隊長室であるが、とりあえずルモンはいつも通りの笑みを浮かべてみせる。

「えっと……どうしましたお二人とも?」

 ルモンが手に持っている剣……黒剣ヴェルガンに視線を固定していた二人は、すぐに満面の笑みを浮かべる。

「どうしたルモン。暇なのか?」
「へ?」
「じ、実はですね。追加の書類がいっぱい……いーっぱい届きましてっ! 今日中の処理を希望されてるのでお願いしますっ」
「今日って……え?」

 言われてルモンがゲルダの手元を見てみると……なるほど、山のような書類がある。

「それから……ルルガル。お前も随分暇そうじゃないか」
「貴女に呼び捨てられる謂れは無いわよ、小娘」
「私が小娘ならお前は何だ。干物か?」

 睨みあいを始めたルルガルとフーリィを見て、ルモンは困ったように笑う。
 ルルガルは最近は控えているが、来たばかりの頃はスキンシップが過剰で……それ以降「ルルガルが来る」となると、どうにも誰かが突撃してくるようになってしまったのだ。

「……」

 睨み合うルルガルとフーリィ。
 更にその後ろで負けじとルルガルを睨んでいるゲルダをそのままに、ルモンはそっと部屋の窓を開ける。
 そのまま気付かれないように……などということは無く。
 窓に手をかけながら、ルモンは爽やかに笑う。

「皆さん! 僕、今日少しばかり体調が悪いので早退させていただきます。後の業務は副隊長のフーリィさんと……ついでにルルガルさんにお任せしますので、仲良くしてくださいねっ!」

 そう言い残して、ルモンは窓からひらりと飛び出……そうとして。
 その動きが、ピタリと止まる。

「おい、ルモン! 逃げようったってそうは……」

 慌てて駆け寄ってきたフーリィがルモンの肩を掴み……ルモンの視線の先にあるものに気付き、同じように動きを止める。

「おい、あれは……」
「……」

 顔面を蒼白にしたフーリィがルモンの肩を掴む力を強くする。
 ルモンは答えず……ただ、窓の外を凝視する。
 そんな二人の様子をおかしいと感じたのか、ルルガルとゲルダもやってきて窓の外を見る。

「……変な奴ですね」
「お知り合いですか?」

 窓の外の「それ」を見て、ルルガルとゲルダはそんな感想を漏らす。
 それもそうだろう。
 その時は、二人とも居なかったのだから。
 窓の外にいる黒い騎士のことなど、知るはずも無い。
 だが、ありえないのだ。
 あの黒い騎士がこの場にいることなど、有り得ない。
 あの黒い騎士は、確かにファイネルによって殺されたのだから。

「……フーリィさん」
「嫌だ」
「すぐに救援要請を」
「嫌だ!」

 ルモンの言葉を遮るようにして、フーリィが叫ぶ。

「アレはアイツだろう! あの時のアイツだ! ファイネル様に聞いたぞ、お前アイツと戦って死に掛けたんだろう!? 今度こそ死ぬかもしれないんだぞ!」
「え……っ」

 フーリィの言葉にゲルダが反応し、ルルガルは小さく眉を動かす。

「私は今度こそ逃げないぞ、ルモン。今度こそ、私はお前と……!」
「盛り上がってるとこ申し訳ないですけど、どいてくださる?」

 わざわざルモンとフーリィの間にぐいと身体を押し込んだルルガルが、窓の外へと身を乗り出す。
 そして自分達をじっと見上げている黒い鎧の騎士に軽く手を振る。

「もしもーし、そこの馬鹿みたいな全身鎧。もし中身があるなら答えなさい? どんな御用かしら」
「お、おい……!」
 
 全力で馬鹿にしたような言葉を投げかけるルルガルにフーリィが慌てたように声をかけ……ルルガルは、そんなフーリィをぐいと部屋の中へと押し返す。

「……」

 ルルガルをじっと見ていた黒い鎧の騎士は、そのまま兜の奥の視線をルモンへと向ける。

「俺の剣を、返して貰いにきた。出してもらおうか」
「残念ですが、この剣はもう僕のものです。それに……貴方の手には、もう随分と立派な剣があるでしょう?」

 言われて、黒い鎧の騎士は手元の剣に視線を落とす。
 銀色の、トゲトゲしく凶悪な印象を持つ長剣。

「これか……。これは所詮借り物だ。そんなことよりも、交渉決裂だと判断して構わんのだな?」
「ルルガル」
「仰せのままに」

 ルルガルの目が、緑色の輝きを放つ。
 緑の魔眼。
 植物を操り急成長させるその輝きによって、黒い鎧の騎士の足元から太い根が飛び出し縛り上げようとする。

「……っ!」

 黒い鎧の騎士はそれをとっさの反応で切り裂き、手近な枝へと飛び移ろうとし……その枝が、鞭のようにしなって黒い鎧の騎士を叩き落す。

「ぐはっ……」
「あら無様」

 くすくすと笑うルルガルの眼下で、地面の下から伸びてきた根が黒い鎧の騎士を拘束する。

「お、おお……」
「これは……凄いな」

 あまりにも圧倒的な光景にゲルダとフーリィが驚いていると、ルルガルがくすくすと笑ってみせる。

「どこの誰だか知りませんが、私の森で調子にのってるんですもの。ちょっとくらいの無様じゃ許しませんわよ?」

 文字通りの「見下す」言葉に、ゆらりと黒い鎧の騎士から魔力が漏れ出す。

「……なめるな」

 みしみしと、自分を拘束する根を引きちぎりながら黒い鎧の騎士は立ち上がる。

「俺はクロード。偉大なるお方に仕えし騎士だ」

 黒い鎧の騎士……クロードは兜の奥の眼光を輝かせ、ルモンの方へと剣を突きつける。

「そこから降りて来い。来ないのならば、この場で貴様の」

 クロードが何かを言い出したその瞬間に、ルモンは窓から飛び出す。

形態変化トランス投擲剣ブーメランブレード

 ルモンの声と同時に黒剣ヴェルガンへと魔力が流れ込み、その姿を大きく変化させる。
 一瞬の後に両翼を広げた鳥のような形の巨大な黒刃へと変化を遂げた剣を振りかぶり、ルモンは落下しながら投擲する。
 ゴウ、という音を立てて飛翔する黒刃は風を切り裂く音を立てながらクロードへと迫り……銀色の剣によって弾かれルモンの手元へと戻っていく。

形態変化トランス連結鎖剣ウィップブレード

 着地する間際にルモンの手元に現れた剣は手を振ると共に鎖のような音を立てながら細かい刃に分割され、文字通り鞭のようにしなりながら伸びていく。

「小技を……闇撃アタックダーク!」

 クロードの放った闇撃アタックダークがルモンの剣を弾き、剣はルモンの手首のスナップで再び元の剣の姿へと戻っていく。

「……東方軍、ルルガルの森担当部隊部隊長、ルモンです」
「黒騎士クロード」

 それは、いつかの光景の焼き直しにも思えただろうか。
 二人の剣士は、剣を構えなおし……同時に、地を蹴った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。