勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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ミキシングメモリー6

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 魔王城のイクスラースの部屋。
 何処かの姫の部屋か、あるいは女王の部屋か。
 レースで彩られた部屋にはいつも通りの格好のイクスラースと、魔人化した魔操鎧用の軍服を着込んだルモンがいた。

「……そう。事情は理解したわ。貴方が会ったのが、本物のクロードかもしれないってこともね」
「まだ疑いが?」

 ベッドに腰掛けたイクスラースに、椅子すら勧められずに立ったままのルモンが少し不満そうに問う。
 対するイクスラースは、悩むような不機嫌なような……そんな表情を浮かべる。

「当然でしょう? クロードは死んだ。ファイネルが確実に殺した。それは疑いようもない事実よ。怪我の治療とか、そういうレベルで済む傷だったかどうかは他ならぬ貴方も知っているはずよ」
「ええ、そうですね。ファイネル様が確実に殺した。それは間違いないでしょう。でも、最近では……死んだから二度と会わないというわけでもない」
「……そうね。確かに近頃は、死者が出歩いてる例が幾つかあるわ。貴方のところのルルガルとかいう女関連の話も含めてね」

 一番新しい例では、前魔王軍の幹部ベルディアの件がある。
 クロードが蘇ったと聞いたところで、その一例に過ぎない。
 過ぎない、のだが。

「私が疑っている点は、まず一つ。私の所ではなく、貴方の所に行った理由よ」
「貴女を誘き出す為だったと理解していますが?」

 疑問符を浮かべるルモンに、イクスラースは足を組んで膝に手をのせる。

「そこよ。私を誘き出すだけなら、私の前に現れればいい。一番確実なその方法をとらなかったのは何故?」

 そう、わざわざルモンの前に姿を現し、何かをするという胡乱な方法をとる必要はない。
 それは返り討ちのリスクは勿論、再びファイネルが現れるリスクをも孕んでいる。
 普段はああではあるが、ファイネルは間違いなく最強の一角であり……ルモンを不意をついて倒した「奥の手」らしきものも、恐らくファイネル相手では効果を然程発揮しないだろう。
 勿論、それで打倒できると考え、ファイネルを誘き出し倒す為にクロードが来た可能性もある。
 
「でも、それは現実的じゃないわ」
「はい。それであれば、あそこで撤退する理由が無い」

 つまり、ファイネルではない誰かに「自分の存在」を示す為であったと考えるのが一番しっくりくる。
 そして、それは誰かを考えた時……そこには、確かにイクスラースしか残らない。
 残らない、のだが……やはり、疑問は残る。
 それしかない。
 それしかないのだが、胡乱に過ぎる。
 幾らでもリスクの少ない方法をとれていながら、何故ルモンを狙ったのか。

「……黒剣ヴェルガン? 自分の剣に執着して、というのはありえない線ではないけれど」

 だが、それでは理屈が合わない。
 黒剣ヴェルガンは未だ、ルモンの手にあるのだから。
 ルモンを狙った……という理由も、ルモンにトドメを刺さなかった事で薄くなる。
 だが、それより何よりもイクスラースには疑問に思う事がある。

「……それで、どうして貴方は私のところに来たの?」
「と、いいますと?」
「とぼけないでくれるかしら。蘇ったクロードの狙いは私。そしてクロードが単独犯だと思うほど、貴方も寝ぼけてはいないはずよ。つまり、貴方は」

 イクスラースはベッドから立ち上がり、ルモンの前に立つ。
 くいと顎を上げてルモンを睨むと、その瞳を細める。

「……私を、クロードを確実に釣るエサにしようとしたのよ。違うかしら?」
「まさか。僕はそこまで外道なつもりはありませんよ」
「あら、そうかしら。なら聞いてあげる。なんのつもり?」

 一歩分の距離だけイクスラースが離れると、ルモンはいつも通りの優しげな笑みを浮かべる。

「勿論、知らせないという方法もありました。ファイネル様を連れて行けば勝てるのは確定していますしね」
「そうね」
「そうしなかった理由は、主に二つです」

 そう言って、ルモンは人差し指を立ててみせる。

「貴女に恨まれるつもりはないからです、イクスラースさん」
「ふうん?」

 少し興味深そうな顔をしたイクスラースに畳み掛けるように、ルモンは言葉を続ける。

「彼は、貴女に会いたがっている」
「そうね。まあ、ロクな理由ではないでしょうけれど」
「でも、そうでないとも言い切れない。そうでしょう?」
「……何が言いたいのかしら」

 難しいことではない。
 とても簡単なことだ。
 もしも……もしも、の話だ。
 クロードが、未だにイクスラースに忠誠を誓っていたとしたらどうだろう。
 死んで、蘇って。
 未だ、イクスラースの命令を遂行しようとし続けていたとしたらどうだろう。
 もし、イクスラースが生きていれば存在を示す為に。
 もし、イクスラースが死んでいれば命令を今度こそ果たす為に。
 その為の行動であったとしたらどうだろう。
 それはそれで、とても「カチリとはまる」理由ではないだろうか?

 もしそうであった場合、イクスラースの有無は「鍵」と成り得る。

「……希望的観測ね。話にもならないわ」
「そうですね」
「今まで理由も無く蘇ったとされる連中で、敵ではないのは一例のみ。それも記憶喪失よ」

 ルモンは、答えない。
 しかし、イクスラースの言葉は止まらない。

「それに、クロードは死んだの。愚かな人形だった私の命令で、死んだわ。魔族にたっぷりと恨まれて死んだ。もしクロードが万が一正気であったとして、そうしたら絶対に私を許さない。私ならそうよ。自分を死に追いやっておいて、こんなところで平和そうに生きてるのよ? 許せるはずが無い」
「会いたく、ありませんか」

 ならば、それはそれで仕方ない。
 ルモンがそう伝えようとすると、イクスラースは首を横に振る。

「違うわ。私は、クロードに会わなければならないの」

 その瞳にあるのは、恐怖ではない。
 その瞳にあるのは、後悔でもない。
 その瞳にあるのは、決意の色だ。

「クロードがいるならば、私は必ず会わなければならない」
「正気ではないかもしれませんよ?」
「正気でないなら、引導を渡すのが私の役目よ」
「正気だったならば?」

 ルモンの問いに、イクスラースは黒薔薇の剣を腰に差す音で答える。

「……そうね。まずは謝った上で……何をするにも、それからね」

 そう言って、イクスラースはふと気付いたようにルモンを見上げる。

「そういえば、二つ目ってなんだったの?」

 その問いに、ルモンは笑いながらああ、と答える。

「簡単ですよ。ファイネル様に言えば即座に彼を吹き飛ばしに行くと思ったからです」
「……そうでしょうね」

 その光景が容易に浮かんで、イクスラースは再度の溜息をついた。
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