勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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ミキシングメモリー8

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「俺には、理解できません」

 銀色の剣を引き抜いたクロードは、理解出来ないものを見る目でイクスラースを見る。

「貴方とて、真実の一端に触れたのでしょうに。それなのに何故、ヴェルムドールのやり方を許容できるというのか」
「真実に触れたからよ。ヴェルムドールのやり方こそが、世界に安定をもたらせるわ」
「どうして」

 黒薔薇の剣を構えたイクスラースとの距離を測りながら、クロードは問う。
 試しにと放った一撃はイクスラースに迎撃され、ギインという音を鳴らす。

「どうして、安定などが必要なのですか」

 安定など必要ない。
 何故、安定などをもたらさなければならないのか。
 その安定の為に、クロード達は駒にされたというのに。
 その安定の為に、魔族は喜劇の悪役の如き弄ばれ方をしているというのに。
 その安定を、再び人類は捨てようとしているというのに。

「どうして、安定などを与えてやらねばならないのですか」

 妬ましい、とクロードは思う。
 自分は、生まれた時から神の人形であったというのに。
 人類は、生まれた時から神の愛し子だというのか。
 何故なのだ。
 何故、自分達は違うのだ。
 
 嗚呼、妬ましい。
 どうしようもなく妬ましくて、憎いのだ。
 我侭な子供の如き残酷さと、罪深い無垢さで己の高潔を謳う人類。
 慈悲深き母の如き優しさと、無限の愛情で人類を庇護する神。
 何故だ。
 何故その中に、自分達は居ないのだ。
 仲良く笑って過ごせるなら、その方がいいに決まっている。
 誰が好き好んで、怨嗟の山を築き血溜まりの池に浸かるものか。

 正気に戻った今だからこそ分かる。
 何もかもが手遅れの今だからこそ分かる。
 
 どうしようもなく、人類の嘆きが見たいのだ。
 今日も明日も同じ日常が来ると退屈する者に。
 明日はきっと明るいと希望を持つ者に。
 明日が恐ろしいと温い絶望に浸る者に。
 その全ての頬を張り、「日常劇場」の外に引きずり出してやりたいのだ。
 人類同士で足の引っ張り合いをしたいなら、すればいい。
 殺し合いをしたいなら、すればいい。
 したくないというならば、させてやればいい。

「人類など……一人残らず混沌の海に叩き込んでやればよいではないですか」
「……そうやって、勇者を招くというの? 愚かだわ。グラムフィアとシュクロウスの末路を知らないわけではないでしょう」

 イクスラースの突きの連打をクロードの剣が弾き、逸らす。
 魔法剣ですらないそれは、軽い挨拶の応酬に過ぎない。
 ……勿論、一度受ければ続く連撃でズタズタになるのは必須の物騒な挨拶ではあるのだが。

「ならば勇者も滅ぼせばいい。そうではありませんか?」
「……出来ると思うの?」
「出来ないと考えるほうがどうかしています」

 互いの一撃が重なり合い、鍔迫り合いになりそうな刹那にイクスラースはバックステップで距離をとる。

「滅ぼせないと考えるなら、何故ヴェルムドールは魔王軍を組織したのです。あれはいざという時に勇者を迎撃するためのものでしょう?」

 その言葉に、イクスラースは答えられず黙り込む。
 あまりにも当然で自然すぎて疑問に思わなかったが、確かにそうだ。
 ヴェルムドールの組織した魔王軍は、人類に対抗する「見せ掛け」の範疇で済むようなものでもなければ、お遊びで済むような錬度でもない。
 確実に「何か」を想定し、作られている。
 その何かが勇者であろう事は、想像するまでも無い。
 いや、それだけではない。
 魔族の勇者サンクリード。
 彼もまた、ヴェルムドールの「対勇者」の切り札だろう。

「……イクスラース様」

 一瞬の思考の隙をついてクロードはイクスラースの肩に触れ、耳元に囁きかける。

「分かっているのでしょう? ヴェルムドールは、ただの臆病者だ。折角強い剣を集めても、それで壁を作る事しか出来ない愚者だ。本当に安定を求めるのであれば、勇者を呼ばれる前に人類を一掃するのが早いというのに」
「……っ!」

 力任せに振られた黒薔薇の剣を回避し、クロードは剣先を床へと向ける。

「イクスラース様。もう一度言います。こちらへおいでください。貴方がいるべきは、こちらです。今度は、こちらが人類で遊ぶ番です。それこそが、何より我等の魂を癒す慰めとなるはずです」

 そう言ってイクスラースへとクロードは手を差し出し……部屋の隅に出現した転送光に反応し振り向く。

闇撃アタックダーク!」

 放たれたクロードの闇撃アタックダークはしかし、転送光の中から現れた人物の闇の魔法障壁マジックガード・ダークにあっさりと弾かれる。

「……悪い遊びへの誘いはそのくらいにしてもらおうか」
「貴様は……!」
「何故此処に、か? なに、簡単だ。俺の国で因縁の対決をしてる連中がいると聞いてな?」
「そういえば、あの男……」

 いつの間にか姿を消していたルモンのことを思い出し、イクスラースは舌打ちをする。
 頼んでもいないのに、すっかりと舞台を整えてくれたようだ。

「あー……なんだったか。人類で遊ぶのが慰めになる、だったか? そんな自己満足は夢の中でやれ。俺の計画の邪魔だ」

 現れた魔王ヴェルムドールはそう告げると、ひどくつまらなそうに吐き捨てた。
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