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誰が為の英雄譚4
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どうやら予約投稿時間をミスりました。
明日の更新は通常通りの予定です
********************************************
トール達のロウムレルスへの到着から、数刻。
使者から受け取った書状をソファーに座って読んでいたルーティは、ふうと溜息をつく。
「よかったですね、ファイネル。鉢合わせすることはなさそうですよ」
「ん?」
お気に入りのクッキーを大切そうに一枚一枚味わっていたファイネルは、不思議そうな顔をした後……ああ、と呟く。
「例のトールとかいう男か。なんだ、来るのをやめたのか?」
「いえ。明日にするそうです」
「そうか。なら明日まで滞在すると伝えないとな」
「ちょっと、ファイネル」
立ち上がって何処かに行こうとするファイネルを、ルーティは制止する。
「まさか本気で同席するつもりなんですか?」
「場合によってはな。さっき話したが、そのトールという男は要注意人物だという知らせがあってな。この機会にどんな奴か見極めておきたい」
そう、朝食の際にルーティはファイネルからそれを聞かされている。
聖アルトリス王国での、「とある諜報員」を巡る一件。
それにルーティのよく知っているカインやセイラ達も関わっていると聞いた時には何をしているのかと驚いたものだが、カインに関してはキャナル王国の内乱にも関わっているというから今更ではあるだろう。
「……それは分かりますが、貴方がいることでより面倒な事になる可能性もありますよ?」
「そのくらいで面倒を起こす輩なら、放っておいても面倒なことになる。むしろ見極めるにはいいんじゃないか?」
ファイネルの言葉に、ルーティは黙り込む。
確かに、それはその通りだ。
その通りなのだが……。
「相手の話の内容にもよります。向こうの王と神殿を通してくる話が、少なくともただの雑談であるとは思えません。少なくとも、ルーティ・リガスという「英雄」に用があるのは確実です」
「別に構わんだろう? それならそれで好都合だ」
ファイネルの返答にルーティは意味が分からず首を傾げ、ファイネルはその様子にニヤリと笑う。
「分からないか? 人類の英雄たるお前と、魔族の幹部たる私が仲良くしている。この事実はつまり」
「人類と魔族が争う時代は終わっているのだ……と示すという事だと? 誰の入れ知恵ですか」
ファイネルの考えだという可能性を完全に否定したルーティから、ファイネルはふいと目を逸らす。
ちなみにヴェルムドールの入れ知恵というかロクナに仕事しろと怒られていたファイネルへの助け舟だが、それはさておき。
「……まあ、そうですね。そのくらい見せ付けてあげれば、あるいはあの国の人間も目を覚ますかもしれません」
問題はトールという人物がどのくらいの位置にいて、どのような考えを持っているのかということだが……。
「だろう? なら早速話を通してくる」
転移魔法を起動しようと部屋の隅に移動したファイネルは、魔法陣を展開し……そこでふと気付いたようにルーティを呼ぶ。
「なあ、ルーティ」
「はい?」
「もし、その男が魔族殲滅を掲げるようなヤバい奴だったとして、だ」
魔族殲滅。
昔リューヤと旅をしていた頃は、何度か考えた事のあることだ。
魔族は敵だと。
絶対に分かり合えない価値観の違う相手だと、考えていた。
剣魔や杖魔……シュクロウス配下の四魔将達は、特にそうだった。
聖竜イクスレットに乗って渡った暗黒大陸の魔族達も基本的に好戦的だったし、ファイネルとも認め合ってはいても決して手を取り合うことはなかった。
魔族は倒すべき敵だと信じていたあの頃の自分が今の自分を見たらなんと言うだろうか、とルーティは考えて。
しかし、次のファイネルの言葉を黙って待つ。
「……お前は、どちらにつく?」
「少なくとも、現状で私がザダーク王国の敵に回る事はありません」
ルーティの言葉に、ファイネルは頷き……そして、転移していく。
その姿を見送り、ルーティは立ち上がり窓の側へと歩いていく。
どちらにつくのか。
それは、とても重い問いだ。
人類か、魔族か。
昔ならば、人類と即答していた。
だが、もし。
もしも今その問いを突きつけられた時に、ルーティはどうすればいいのか。
何を信じて、何の為に戦えばいいのか。
真実は、一体何処にあるのか。
「……ウィルム様。命の神が人間を導き勇者を遣わすというのならば……貴方は何故、私達を導いてくださらないのですか?」
風の神ウィルム。
ルーティは、かつて出会ったその神の名を呼び祈る。
しかし、当然のように答えはない。
それが当然だ。
当然なのだが……今となっては、何処か理不尽さを感じてしまっている。
その考えを振り払い、ルーティは静かになってしまった部屋の中を見る。
テーブルの上には、ルーティが先程置いた書状。
そして、2つのカップと……先程まで友人が座っていた席の前に引き寄せられた、クッキーの皿。
空になりかけた皿を見て、ルーティはクスリと笑う。
「本当に、遠慮がないんだから」
そう呟いたその瞬間、部屋の隅に転移光が集まっていく。
随分早く戻ってきたな……などと考えていると、光は二人分の大きさとなって弾ける。
そして、そこに居たのはファイネルと……もう一人の、女だった。
「た、ただいま……えーと、な?」
ファイネルが何かを言おうとするのを制して、その女が進み出る。
「ご無沙汰しております。このイチカ、トールなる人間の見極めに同席するべく参りました」
そう言って、魔王ヴェルムドール直属のメイドナイト、イチカは優雅な礼をしてみせた。
明日の更新は通常通りの予定です
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トール達のロウムレルスへの到着から、数刻。
使者から受け取った書状をソファーに座って読んでいたルーティは、ふうと溜息をつく。
「よかったですね、ファイネル。鉢合わせすることはなさそうですよ」
「ん?」
お気に入りのクッキーを大切そうに一枚一枚味わっていたファイネルは、不思議そうな顔をした後……ああ、と呟く。
「例のトールとかいう男か。なんだ、来るのをやめたのか?」
「いえ。明日にするそうです」
「そうか。なら明日まで滞在すると伝えないとな」
「ちょっと、ファイネル」
立ち上がって何処かに行こうとするファイネルを、ルーティは制止する。
「まさか本気で同席するつもりなんですか?」
「場合によってはな。さっき話したが、そのトールという男は要注意人物だという知らせがあってな。この機会にどんな奴か見極めておきたい」
そう、朝食の際にルーティはファイネルからそれを聞かされている。
聖アルトリス王国での、「とある諜報員」を巡る一件。
それにルーティのよく知っているカインやセイラ達も関わっていると聞いた時には何をしているのかと驚いたものだが、カインに関してはキャナル王国の内乱にも関わっているというから今更ではあるだろう。
「……それは分かりますが、貴方がいることでより面倒な事になる可能性もありますよ?」
「そのくらいで面倒を起こす輩なら、放っておいても面倒なことになる。むしろ見極めるにはいいんじゃないか?」
ファイネルの言葉に、ルーティは黙り込む。
確かに、それはその通りだ。
その通りなのだが……。
「相手の話の内容にもよります。向こうの王と神殿を通してくる話が、少なくともただの雑談であるとは思えません。少なくとも、ルーティ・リガスという「英雄」に用があるのは確実です」
「別に構わんだろう? それならそれで好都合だ」
ファイネルの返答にルーティは意味が分からず首を傾げ、ファイネルはその様子にニヤリと笑う。
「分からないか? 人類の英雄たるお前と、魔族の幹部たる私が仲良くしている。この事実はつまり」
「人類と魔族が争う時代は終わっているのだ……と示すという事だと? 誰の入れ知恵ですか」
ファイネルの考えだという可能性を完全に否定したルーティから、ファイネルはふいと目を逸らす。
ちなみにヴェルムドールの入れ知恵というかロクナに仕事しろと怒られていたファイネルへの助け舟だが、それはさておき。
「……まあ、そうですね。そのくらい見せ付けてあげれば、あるいはあの国の人間も目を覚ますかもしれません」
問題はトールという人物がどのくらいの位置にいて、どのような考えを持っているのかということだが……。
「だろう? なら早速話を通してくる」
転移魔法を起動しようと部屋の隅に移動したファイネルは、魔法陣を展開し……そこでふと気付いたようにルーティを呼ぶ。
「なあ、ルーティ」
「はい?」
「もし、その男が魔族殲滅を掲げるようなヤバい奴だったとして、だ」
魔族殲滅。
昔リューヤと旅をしていた頃は、何度か考えた事のあることだ。
魔族は敵だと。
絶対に分かり合えない価値観の違う相手だと、考えていた。
剣魔や杖魔……シュクロウス配下の四魔将達は、特にそうだった。
聖竜イクスレットに乗って渡った暗黒大陸の魔族達も基本的に好戦的だったし、ファイネルとも認め合ってはいても決して手を取り合うことはなかった。
魔族は倒すべき敵だと信じていたあの頃の自分が今の自分を見たらなんと言うだろうか、とルーティは考えて。
しかし、次のファイネルの言葉を黙って待つ。
「……お前は、どちらにつく?」
「少なくとも、現状で私がザダーク王国の敵に回る事はありません」
ルーティの言葉に、ファイネルは頷き……そして、転移していく。
その姿を見送り、ルーティは立ち上がり窓の側へと歩いていく。
どちらにつくのか。
それは、とても重い問いだ。
人類か、魔族か。
昔ならば、人類と即答していた。
だが、もし。
もしも今その問いを突きつけられた時に、ルーティはどうすればいいのか。
何を信じて、何の為に戦えばいいのか。
真実は、一体何処にあるのか。
「……ウィルム様。命の神が人間を導き勇者を遣わすというのならば……貴方は何故、私達を導いてくださらないのですか?」
風の神ウィルム。
ルーティは、かつて出会ったその神の名を呼び祈る。
しかし、当然のように答えはない。
それが当然だ。
当然なのだが……今となっては、何処か理不尽さを感じてしまっている。
その考えを振り払い、ルーティは静かになってしまった部屋の中を見る。
テーブルの上には、ルーティが先程置いた書状。
そして、2つのカップと……先程まで友人が座っていた席の前に引き寄せられた、クッキーの皿。
空になりかけた皿を見て、ルーティはクスリと笑う。
「本当に、遠慮がないんだから」
そう呟いたその瞬間、部屋の隅に転移光が集まっていく。
随分早く戻ってきたな……などと考えていると、光は二人分の大きさとなって弾ける。
そして、そこに居たのはファイネルと……もう一人の、女だった。
「た、ただいま……えーと、な?」
ファイネルが何かを言おうとするのを制して、その女が進み出る。
「ご無沙汰しております。このイチカ、トールなる人間の見極めに同席するべく参りました」
そう言って、魔王ヴェルムドール直属のメイドナイト、イチカは優雅な礼をしてみせた。
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