勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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連載

誰が為の英雄譚5

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活動報告にてお知らせがございますー。
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「貴女、は……」

 黒いメイドナイトの姿を見て、ルーティはあっけにとられた顔をする。
 イチカ。
 魔王ヴェルムドールの側近である彼女の事は、当然ルーティも覚えている。
 あまり関わりがあったわけではないが……なんとなく、気にはなっていたのだ。
 しかし、何故このタイミングで彼女なのか。
 ルーティは咳払いをすると、場の主導権を取り戻そうとするかのように冷静を取り繕う。

「……念の為言いますが、明日来るのは私の客人です。イチカ……さん? ファイネルだけでもかなり問題があるのに、貴女までどういうつもりですか?」
「イチカで結構です。そして私がこの場に来ておりますのは、魔王ヴェルムドール様の意思によるものです」
「ならばより問題です。個人の事に国家で関わろうとするとはどういう了見ですか」

 ファイネルは、まだいい。
 いや、よくはないが……友情という個人的な範囲での好意によるものだ。
 しかし、魔王ヴェルムドールが関わるとなればそれは「ザダーク王国」という国家の政策によるものとなる。
 ならばそれは個人的好意から変貌し、言うなればザダーク王国からジオル森王国のルーティへの干渉となるのだ。
 それは、超えるべきではない一線であり……それ故に、ルーティとしては簡単に許容するわけにはいかなかった。
 しかし、目に見えておろおろするファイネルとは違い、イチカは涼しげな表情のままである。

「勿論理解しております。しかしこれは、ヴェルムドール様と貴女の個人的な約束に関するものですので」
「約束……?」

 聞き返しかけて、ルーティはすぐにそれに思い当たる。
 ヴェルムドールとルーティの約束。
 それは、たった一つしかない。
 すなわち……「命の神の意思」に関するものだ。
 
「……確かにクゥエリアさんはアルトリス大神殿の関係者ですが……」
「いいえ。ヴェルムドール様が警戒しているのは、そのトールという男です」

 トール。
 その男はザダーク王国としても、謎の男と言う他ない。
 ほとんどアルトリス大神殿に篭りきりで、しかしザダーク王国の精鋭の一人である諜報員アインと渡り合うだけの実力を持っている。
 ただそれだけなら、「ありえないわけではない」レベルである。
 しかも神殿からほとんど出てこないのであれば流石に其処に潜入するのは難しいし、一応の監視だけしておけば問題は無い。
 要は、こちらに関わってこないのなら問題は無かったのだ。
 しかし、「トール」は動いた。
 しかも予想以上に大きくだ。

「そのトールという男が何者なのか。ヴェルムドール様がお出でになれば簡単に分かりますが……そうするわけにはいかない事情もあります」
「……まあ、そうでしょうね。どれだけ理由をつけた所で、彼が動く事は国が動くのと同じ。此処にいるという事実だけで、難癖をつける材料が揃います」

 ルーティにイチカは頷き、だからこそ……と告げる。

「だからこそ、私が来ました。出来るだけ難癖をつけられず、それでいて可能な限り相手を見極められる者。それを総合的に判断した際に、私しか居ないだろうとのことです」

 少しだけ誇らしげに言うイチカを、ルーティは考え込むようにじっと見つめる。
 ……確かに、イチカならば幾らでも「個人的」な範囲で行動できるだろう。
 何しろ、イチカは魔族ではあるが魔人でありメイドナイトだ。
 見た目は完璧に人間であるし、尚且つ最高の従者と名高いメイドナイトである。
 たとえば……そう、たとえば「魔王ヴェルムドールからの個人的な好意として屋敷にいる」としたところで、それを否定する材料など何処にも無い。
 そして、繰り返しになるが「見た目は完璧に人間」なのだ。
 いつだったかのパレードに参加してはいたが、一々全員の顔を覚えている者など居るはずもないし、似ている者など探せばいるだろう。
 つまり……魔王ヴェルムドールと関わりがあるかどうかなど、本人が否定すればそこまでだ。
 だが、しかし。
 それ以前の問題がまだ残っている。

「……一応聞きます。魔王ヴェルムドールは、何の可能性を疑っているのですか?」

 その当然ともいえる質問に、イチカはすっと目を細める。
 
「あらゆる全てです」
「……随分と漠然としていますね」
「命の神の計画は一度崩しました。しかし、それ故に修正のかかった計画が何処に向かっているか……私達は、警戒し続けています。そして今、目の前に鍵と思われるものが現れようとしているのです」

 イチカの話を吟味しながらも、ルーティは僅かに疑問に思う。
 鍵。
 確かにトールという青年には謎が多いが、そこまで断言できるようなものがあっただろうか?
 そこまで考えて、ふとルーティは気付く。

「……私に会いに来るから、ですか」
「その通りです」

 イチカは即答し、ファイネルは少しばかり渋い顔をする。
 そう、ルーティは「英雄」だ。
 前回の戦いで「魔王シュクロウス」と「大魔王グラムフィア」を倒した勇者リューヤの仲間であり、神器アルスリスボウを持つ英雄。
 ……なるほど、これでもかという程に因縁を詰め込んだ存在だ。
 新しい英雄の「物語」を吟遊詩人が創作しようとするならば、その多くはルーティとの運命的な出会いを描くだろう。
 つまり、それを警戒しているのだ。

「なるほど」

 沈黙の後に、ルーティはそう呟く。
 なるほど、なるほど。
 確かにその通りだ。
 むしろルーティから目を離すべきではないだろう。
 関わるものには目をつけるべきだろう。

「……理解しました。しかし、私は彼の傘下ではありません。あまり約束を盾に勝手をされても困りますよ?」
「分かっています」

 そう言って、ルーティはイチカとファイネルの横を通り抜けてドアへと向かい……そこで、ふと何かに気付いたようにふり返る。

「何か?」
「……いえ、なんでもありません」

 ルーティはそうイチカへと返し、ドアを開けて部屋の外へと出て行く。

「あ、おい……」

 ファイネルがルーティの後を追うようにふり返るその眼前でドアは閉められ、ファイネルは渋い顔でぬうと唸る。

「あー……もう。あいつ、意外に思い込み激しいんだよなあ。絶対私のことまで誤解してるぞ」
「そうでしょうね。昔もそうでしたから」
「そうなんだよ。昔と全然違うように見えて、根っこは全然変わってないぞアレ」

 どうするかと呟いて頭を抱えるファイネルをそのままに、イチカは部屋の机の上に目を向け……そこからクッキーを一枚摘み上げる。
 すると物凄い勢いで振り返ったファイネルがスタスタと歩いてきてイチカからクッキーを奪う。

「私のだぞ」
「そうですね。貴女に用意されたものです。その程度の友情はあったのでしょう?」
「当たり前だ。友人だからな」

 クッキーを口の中に放り込んだファイネルをイチカは見つめ、それならと告げる。

「追いかける事を薦めます。昔は、そうやって仲直りしていたそうですから」
「そうだな……よし!」

 ファイネルは残りのクッキーを全て掴み取ると、手早く取り出した袋の中に放り込む。

「行ってくる!」
「ええ」

 叫んで飛び出していくファイネルを見送って、イチカは軽く溜息をつく。

「今の会話に全く違和感を感じないとは……ルーティのことで頭がいっぱいのようですね」

 まあ、そのくらいのほうがいいんでしょうが……と。
 そう呟いて、イチカは使用人達に会うべく自分も部屋を出て行った。
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