勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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英雄会談5

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 魔王グリードリース。
 予期せぬ名前の登場に、ルーティは思わず呆気にとられたような顔をする。
 それは、ルーティが知っている名前とは全く別のものだったからだ。
 過去にルーティが戦ったのは魔王シュクロウスと大魔王グラムフィア。
 そして今暗黒大陸に君臨しているのは魔王ヴェルムドール。
 ファイネルの話では、魔王を名乗っていたイクスラースという魔族の少女もいるという。
 だが、それとも違う。
 知っているどの名前とも違う、新しい魔王の名前だ。

「……聞いた事のない名前ですね」
「そうだと思います。ですが、今の人類が直面する問題はその魔王が一因にあるんです」

 それはまさに「新しい情報」の群れだ。
 混乱しそうになる頭を落ち着けるようにお茶を一口飲み、ルーティは気付く。
 こんな事は、誰も知らない事のはずだ。
 だが、それを確信じみた口調で語るトールに、ルーティは僅かな違和感を抱く。

「……何故、そんな事を貴方は知っているのですか? 魔王グリードリースなどという魔王を、私は聞いた事がありません」
「それは」

 トールが何かを言いかけたその瞬間。
 外が何やら急激に騒がしくなり始める。

「なんだ?」
「少々お待ちを」

 立ち上がろうとするトールをガレスが制し、近くの窓へと寄っていき……すぐに驚愕の表情を浮かべる。
 その驚愕の表情の意味を、すぐに全員が知る。
 窓を突き破って、何者かが飛び込んできたからだ。
 それは、刃を体中にくっつけたかのような銀色の全身鎧。
 鎧の中に闇色の何かを秘めたその全身鎧は水晶を磨いて作った窓を粉砕しながら部屋の中に飛び込み……ゆっくりと立ち上がり、部屋の中を見回す。
 何かを探すようなその赤い燐光のような瞳を動かし、ゆっくりと動きながら何かを探すように視線を彷徨わせ……やがて、ルーティへと視線を固定する。

「……んー……」

 しかし、何かを決めかねているかのように悩む全身鎧は首を傾げ……驚愕による思考停止から回復したルーティが立ち上がる。

「剣魔……!? 何故貴方が!」
「ん? ああ、やっぱりお前がルーティか」

 剣魔はそう言うと親しげに片手をあげてみせ……しかし、そこで音も無く距離を詰めたイチカが剣魔の首元に剣を突きつける。

「妙な真似をすれば微塵にします」
「おいおい、ちゃんと剣も鞘にあるだろうがよ」

 そう言って両腰の鞘に収まった剣を示してみせる剣魔に、イチカは嘲笑で返す。

「貴方の奥の手は知っています」
「んー……あー……まあ、いいや。俺が今日用があるのはそっちのルーティなんだからよ」

 そう言うと、剣魔は特に抵抗する様子も見せず……しかし、次の瞬間バックステップで思い切り下がる。
 だが、それも当然だろう。
 拳を固め殴りかかってくるという、普通ならば正気を疑うトールの攻撃を避けるにはそれが一番最適だったのだから。
 避けたのは、何となくトールに嫌なものを感じ取った剣魔の勘だ。

「勇者……ああ、いや。顔が違うな。なら用はねえや。引っ込んでろ」
「剣魔! お前が俺を知らなくても、俺はお前を知ってるぞ! 極悪非道の凶悪魔族め! 倒されたと聞いてたが……生きてたのか!」
「だからよぉ、引っ込んでろって。聞こえてねえのかボケが」

 剣魔の蹴りがトールを壁まで吹き飛ばし、ガレスとクゥエリアが剣魔との距離をはかる。
 二人とも並の実力者ではないが、武器を預けている現在では本来の実力の発揮は難しい。
 老練な冒険者であれば隠し武器を持っている事もあるが……根が生真面目な二人は、そうした仕込みはしていない。
 だが、剣魔は二人の事は見えていないかのようにイチカへと振り向き、頭を掻くような仕草をする。

「あー……今のは妙な真似に入るか?」
「殺してないならいいのではないでしょうか」
「いいわけがないでしょう!」

 クゥエリアが抗議の声をあげるが、剣魔もイチカも少しの反応すらもしない。
 剣魔は再びルーティへと視線を向け……短杖を向けてきているのを見て、慌てて両手をあげてみせる。

「お、おいおい! 用があるんだって言っただろうが!」
「貴方の用とやらがまともな用だった試しは一度だってありません」
「んん、んー……ああ、一応聞くがよ。お前から見て、俺は剣魔だよな?」
「何を訳の分からない事を。他の何だと言うつもりですか」

 ルーティの怒りさえ垣間見える返答に、剣魔は黙り込み……その姿が淡い光に包まれ、中から長い白髪の男の姿が現れる。

「その姿は……!」
「だぁからよ、聞いてねんだよ。あんまうるせえと外に捨てっぞ」

 立ち上がってきたトールにそう吐き捨てると、魔人形態となった剣魔はルーティへと問いかける。

「お前に幾つか聞きてぇことがある」
「……それを答えて、私に何のメリットがあるというのです?」

 油断せずにルーティが短杖を構え、剣魔の背後では未だイチカがいつでも剣魔を斬り捨てられる体勢を整えている。
 当然、それは察しているのだろう。
 口元を笑みの形にゆがめると、剣魔は手をひらひらと振ってみせる。

「お前が答えた分だけ、俺もお前の質問に答えてやるよ。情報交換ってやつだ」
「……その情報が真実であるという保証は」
「そりゃお互い様ってやつだろ」

 面白がるように笑う剣魔をルーティは訝しげに見つめ……しかし、分かりましたと返答する。

「いいでしょう。けれど、貴方が先程蹴り飛ばしたのも一応私の客人です。手出しするのはやめてもらいましょうか」
「別にいいぜ。手はださねえよ」

 そう言って、剣魔は契約成立ってやつだな……と呟く。

「なら早速聞くがよ。お前、神のシナリオっつー単語に聞き覚え、あるか?」
 
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