勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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英雄会談6

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 神のシナリオ。
 その言葉に、ルーティは表面上は全く反応しない。
 だが、「聞き覚えがあるか」という質問に対する回答でいえば「NO」ではない。
 魔王ヴェルムドールが「それ」を壊したいと考えていると知っているからだ。
 そしてそれの有無はルーティにとっても他人事ではない。
 今この場で剣魔という過去の敵からそれを聞くという事実に、ルーティは問い詰めそうになるのをぐっとこらえるが、トールが剣魔を睨み付け叫ぶ。

「何をわけのわからないことを……!」
「黙っていなさい。彼も私の客です」
「え、で、でもアイツは!」
「最低限の礼儀は弁えて……いるとは言いがたいですが、剣魔にしては弁えているほうです」

 そう言って、ルーティは叫ぶトールを黙らせる。
 剣魔が魔人形態になっているという事実を評価しているのだが……これは、剣魔という魔族の特異性に起因する。
 そもそも魔族にとって魔人形態というものは基本的にあまり意味が無い。
 四足歩行や不定形の魔族が人型になることによる利便性はあるが、剣魔の場合はこれにはあたらない。
 もっと言えば魔人形態になることは色々と細かい作業が出来るという以外にはメリットは無く、無駄に魔力を使うだけと忌避する魔族もいるほどだ。
 そしてそれは剣魔の場合も同様だ。何しろ元々人型である上に、高い防御力と諸々の特殊技能を使えなくなる魔人形態はデメリットのほうが大きい。
 それでも魔人形態になったのは、イチカに指摘された「奥の手」を使う気がないという意思表示であり、剣魔なりの「礼儀」なのだ。
 正直に言って、ルーティは剣魔には恨みしかない。
 倒しても倒してもやってくるしつこさには呆れたし、何度も苦しめられた。
 剣魔に目の前で誰かを殺された事も、一度や二度ではない。
 だが……ルーティの知る限り剣魔は性根が腐りきって別の何かに進化したものを更に腐らせて汚泥に漬込んだような性格をしているはずだが、どうやら今回は何かが違う。
 後ろから刺すのが正攻法だと思っていそうな男の「誠意」は、ルーティに剣魔の話を聞いてみようと思わせるには充分だった。 
 そしてそれはイチカも同様なのか、あるいはルーティにあわせているのか……今のところ、ルーティをいつでも庇えるような位置に立つだけに留めているようだった。

「神のシナリオ……ですか」
「ああ。別に知らなきゃ知らないで構わねえ」

 どう答えるべきか。
 それをルーティは考える。
 そもそも、剣魔が何を考えているのか分からない。
 確かに死んだはずの剣魔が何故此処にいるのか。
 どうして「神のシナリオ」などというものについて調べているのか。
 疑問に思うことは山のようにある。
 あるが……ルーティは、剣魔の見せる真剣な表情をじっと見つめる。
 過去の恨みを理由に答えないことは出来る。
 だが、それでも。
 ルーティは、誠実であろうとすることをやめはしない。
 誠意には、誠意で答えなければならない。

「私はその神のシナリオとやらについては知りません。ですが、それの存在を信じる人達がいるのは知っています」
「誰だ、そりゃ」
「その質問は二つ目ですね? なら先に私の質問に答えていただきましょうか」

 ルーティがそう告げると剣魔は苦々しい顔で舌打ちをしつつも、黙り込む。
 それが肯定の合図ととり、ルーティが口を開こうとすると……黙っていたトールが小さく「神のシナリオ……」と呟く。

「お? 何か知ってんのか?」

 耳聡く聞きつけた剣魔が興味深そうにトールへと視線を向けると、トールは剣魔を睨み付ける。

「ああ、知っているさ」
「トール様!?」

 クゥエリアが何を言い出すのかという驚愕の目で見るのと同時に、剣魔が歓喜の声をあげる。

「知ってんのか! 教えろ、神のシナリオたぁなんだ!」
「決まってるだろ」

 トールの手が、空中を切るように振るわれる。

「平和を乱す原因を砕き、世界に光を取り戻す。それが神様の描いたシナリオだ!」
「家帰って屁ぇこいて寝てろアホ」

 ぐっと拳を握り叫ぶトールとは逆に、剣魔は急速に興味を失ったような顔でルーティへと視線を戻す。

「ほれ、質問だろ。早く言えよ。答えてやらぁ」
「え? え、ええ」

 剣魔のある意味で大人の対応に戸惑いながらも、ルーティは頷く。
 一体何を聞こうとしたんだったかと思い返し、ようやく思い出す。

「貴方、どうして生きてるんですか? 確かに貴方は死んだはずです」
「おう、そうだな。俺ぁ完全に死んだよ。だから生きてたわけじゃねえ」
「……生き返ったとでも言うつもりですか」
「そう思ってたんだがな。今はよく分からん」

 剣魔の言葉の意味が掴めず、ルーティは訝しげな顔をする。
 生き返る魔法などというものは、ルーティの知る限り無い。
 だから剣魔が此処にいるということは「実は死んでいなかった」という理由しかないのだが……。

「というか、俺が本当に俺なのかが分からん。だからお前に会いに来たっつーのもある。お前なら俺を知ってるだろう? たぶんだが、神のシナリオっつーのもそれに関係してる気がする。なあ、俺は知りたいんだよ。神ってなあ、どの神だ。シナリオつーのはなんだ? 何がどうなってこうなってやがんだ」
「……知って、どうするのですか」
「決まってんだろ」

 ルーティの質問に、剣魔は馬鹿にしたように笑う。

「俺を悩ませた罪で、ブチ殺す。それ以外にあるわきゃねーだろうがよ」
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