勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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英雄会談11

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「……本当に、知らないのですか?」
「しっつけえなあ」

 自分と目も合わさないレナティアに、マゼンダは疑わしそうな目を向ける。
 マゼンダからしてみれば、こんな所にレナティアが偶然いるという方がありえない事であり、かといって面倒臭がりの彼女が自分から何かを目的に動くとも思えない。
 ならば、剣魔が誘ったのだろうとみていたのだが……その肝心の剣魔が、目視できる範囲にいないのだ。
 とはいえ、レナティアのことだ。
 通常では視認できない範囲でも彼女ならば充分に可視範囲内である。
 小さい街程度であれば隅から隅まで見渡す彼女の目から逃れうるものなどない。
 その彼女が、こんな街を見渡しやすい場所にいる。
 どう考えても剣魔絡みなのだが……。

「剣魔だろ? 知ってるよ。うんうん、知ってる知ってる」
「何処にいるのですか」
「教えてもいいけどさ。何の用事?」
「言ったでしょう。彼の魔力が判別しにくくなった原因を知りたいのですよ」
「ふーん」

 レナティアは興味無さそうに返すと、ようやく背後のマゼンダへと振り返る。
 剣魔のいる方向を指差そうとするかのように人差し指を伸ばした形の手をすいっと動かし……マゼンダの胸元を指差す。

「剣魔なら、お前の心の中にいるさ。ほれ、めでたしめでたし」

 自分で言っていて嫌になったのか、「あー、くだらね」と言い捨てるとレナティアは肩をすくめて再びマゼンダから視線を外す。
 その様子にマゼンダは今度こそ青筋をはっきりと浮かび上がらせ、手に持つ杖に魔力の輝きが宿る。
 爆発寸前のその様子を見て、レナティアはやはり振り向かない。

「なんだよ、マジでやるの? お前が? やめとけよ、殺しちゃうぜ」
「自信過剰もそのくらいにしていただきましょうか、弓魔。貴方程度の魔力では、私の防御は破れはしません」
「へえ、言ったな?」

 流石に捨て置けない言葉だったか、背負っていた弓を手に持ちレナティアはマゼンダと向き合う。

「ていうか、この姿の時はレナティアって呼べって言ったろ? ふざけんなよ、お前。何処に耳があるかわかんねーんだぞ」
「貴女がはぐらかすからいけないのでしょう?」
「自分の思い通りになんなきゃルールも知ったこっちゃありませんてか? ガキかてめえ。かわいくねーんだよ」

 互いの弓と杖を向け合い、レナティアとマゼンダは睨み合う。
 自然と両者の身体からは魔力が漏れ始め……そこに本気の殺気が混じり始める。

「……あー、もうやっちまうか。別にいいよな、誰も困らないし」
「……」

 暗い笑みを浮かべるレナティアに、マゼンダは一筋の汗をながす。
 実の所、此処で戦うのは得策ではない。
 互いに人間と見間違う魔人形態ではあるが、マゼンダの顔は知れ渡っている。
 ローブを目深く被った現時点は「普通の魔法使い」ですんでいても、いざ戦いが始まればそうはいかない。
「実は生きていたマゼンダ」というカードを、こんなところで無駄に切るわけにはいかないのだ。
 かといって、杖魔としての姿に戻るのもまた問題がある。
 そのカードもまた、ここで切るべきではない。
 ……つまり、ここでレナティアと戦う事にマゼンダとしてはたった一つの利益すらも見出せないのだ。
 だがそれでも、此処で引くわけにはいかない。
 レナティア……弓魔は、剣魔とは別の意味で性質が悪い。
 その性質は生意気な子供に近く、それでいて相手の隙をつく老獪さも備えている。
 そして、今のレナティアの行動原理は「気に入らない」であり、当然マゼンダを「殺す」ことも本気で視野にいれているという事だ。
 ここでマゼンダの方が「下」だと思わせれば、今後レナティアはそれを前提に行動する。
 平たく言えば、レナティア……弓魔は今後絶対にマゼンダの言う事を聞かない。
 ここで引けば、そうなりかねないということである。
 そしてマゼンダは、そんな扱いにくい駒を手元に置きたくは無い。
 剣魔も弓魔もかろうじて言う事は聞くが、弓魔が反抗するようになれば当然剣魔もそれに引き摺られる。
 逆もまた然りだ。
 それだけは避けなければならない。

「……あの方が、ここでやるのは許しませんよ」
「あの方、ねえ」

 レナティアが薄ら笑いを浮かべた、次の瞬間。
 睨みあっていたマゼンダが弾かれたように振り返り、空間を裂いて極彩色の空間へと身を躍らせる。
 何の脈絡もなく消え去ったマゼンダにレナティアは呆気にとられたような顔を浮かべ……しかし、やがてその理由に気付く。

「ああ……なるほど。何かこっちに来るな」

 恐らくは、この国の連中のうちの誰かであろうと判断したレナティアは弓を背中に背負いなおすと、さも面白くてたまらないというかのように含み笑いをする。

「しっかし、さっきの……くくっ。アイツ魔法使いのプライドがどうのって頑なに空間転移しか使わなかったくせに」

 元々次元の狭間に居た四魔将は、アルヴァと同様の空間移動の技を持っている。
 レナティアからすればアルヴァのほうこそ「まねっこ」であるのだが、それはさておき。
 マゼンダが慌てて退避する原因となった「何か」は、屋根を飛び越えながらやってきており……レナティアは、その男を迎えるべく、いつも通りの「人懐っこい顔」を浮かべた。

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やってきたのは……
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