勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
379 / 681
連載

英雄会談12

しおりを挟む

 それは金の髪と青い瞳の、どこか冷たい雰囲気を持つ男だった。
 身に纏った緑色の衣装は強い魔力を纏い、男の動きを阻害するどころか常に動きやすいようにサポートしているようにすら感じられる。
 いや……男自身、人間とは思えない程に強い魔力を秘めていることがレナティアにもよく分かる。
 確かルーティの家を探すまでに街の人類共に聞いた話からすれば、この街に住む実力者は二人。
 一人目は、英雄ルーティ。
 そして二人目は、ネファス。
 風の神殿騎士とかいう大仰な名前の職業で、風の神に認められた人間である……らしい。
 何処まで本当かレナティアは眉唾だと思っていたのだが、「あれ」がネファスだとするのならば、その認識は改めなければならないだろう。
 その男はレナティアを見つけると、同じ屋根の上に舞い降りる。
 その優雅な……レナティアからすれば気取った気障な仕草に舌打ちしそうになるのを抑えつつ、レナティアは笑う。

「どーも、こんにちは」
「ああ」

 可愛らしく挨拶したレナティアに男は短く返すと、あたりをぐるりと見回し……もう一度、レナティアへと視線を戻す。

「此処にいるのは、お前一人か?」
「他に誰かいるように見える?」

 何言ってるのかわかんないよ、とレナティアが小首を傾げて見せると、男は不可解そうな顔をして辺りをもう一度注意深く見回し始める。

「この辺りでかなりの魔力が集まっているように感じたんだが。何か見ていれば教えて欲しい。怪しい人や物、現象でもいい」
「んー」

 レナティアはしばらく悩むような様子を見せると、思いついたようにポンと手を叩く。

「何かあったか?」
「うん。ほら、屋根を飛び越えてやってきた不審者が一人」

 そう言って笑顔で男を指差すレナティアに、男はむ……と唸るように黙り込む。
 かなり無茶なショートカットをしてきた自覚があるのだろう。
 それ以上言い訳めいたことは言わなかったが、小さく溜息をついて頭を掻く。

「あー……俺は風の神殿騎士、ネファスだ。一応この街の守護も一部担当している」
「そーゆーのって騎士団の仕事じゃないの? 神殿騎士とかじゃなくて、普通の騎士のほうのさ」

 それを聞くと、ネファスはレナティアをじっと見つめる。
 気分を悪くしたような様子は無く、純粋にレナティアに興味を持ったような目である。

「……旅の者か?」
「旅の者だったらなんだってのさ」
「いや。この街の者だったら知っている話だからな」

 その言葉にレナティアは舌打ちしそうになりつつも、笑顔でへえと頷く。
 折角どちらに転んでも誤魔化せるような手を打ったというのに、とんだ凡ミスである。

「俺は……サリガン王の要請を受け、騎士団では即応できないような事例の対処にあたっている。風の神ウィルム様の加護を受けし者として、全力でこの任にあたるつもりだ」
「ふーん。なんかすごいんだね」

 そう言ってレナティアが笑うとネファスも頷くが、レナティア自身「凄い」などとは欠片も思っていない。なんとなく空気を読んで合わせてみただけだが、ネファスは少し嬉しそうに笑い……しかし、すぐに真面目な顔になる。

「……いや、すまない。少し浮かれてしまった」
「別にいいんじゃないの? 実際凄いんでしょ? 現代の英雄様ってやつ?」
「そう言ってくれる人もいる。だが……」
 
 そこでネファスは言葉を切り、何かを思い返すように首を横に振る。

「以前の俺は、与えられた地位に酔った愚かな男だった。今のこの神殿騎士という地位とて、ウィルム様に与えられたもの……驕っていいようなものではない。それでは過去の過ちを繰り返すことになる」
「めんどくさっ」

 思わずレナティアの口から本音が漏れて、「やべっ」と言って慌ててレナティアは口を塞ぐ。
 しかし訝しげにネファスが自分を見ているのを確認すると、観念したように長い息を吐く。

「んー……あのさ。持ってる奴が謙遜したって嫌味なだけなんだよ。そういうアピールにしか見えない。俺はこんな力があるからこれをやるぜ、とか。俺の力を使うべき場所で使っているぜ、とか。当ったり前だろバーカ、としか思えないんだよ」

 人類社会においては往々にしてそう都合よくはいかない。
 必要な能力を保有していても必要な「席」が手に入らないが故に日の目を見ないものは幾らでもいる。
 その能力を保有せぬ者が「席」に座る事だって多々ある。
 そうなってしまう人類社会自体がレナティアの理解できない部分であるのだからまあ……当然の反応ではある。
 コネだの金だの身分だのと説明したところで、レナティアはそこに路傍の小石以上の価値を見出さないだろう。

「使うべき場所で、力を使えてるんでしょ?」
「あ、ああ。まあ……な」
「よかったじゃん。おめでとう」
「あ、ありがとう……?」

 反射的にお礼を言うネファスだが、遠回しに今の自分を肯定して貰えているのだということだけは理解できた。

「……そう言ってもらえると、自信が出るな」
「そう。よかったね」

 そう答えると、レナティアはルーティの屋敷の方角へと再び目を向ける。
 とはいえ、ネファスがいる以上は目に魔力を集中するようなこともできず……そうなると、本当に「その方角を見ているだけ」になってしまう。

「ところで、何をしているんだ?」
「景色を楽しんでんだよ。用が済んだならどっか行ってくれないかな、マジで」

 レナティアに少しの興味をもったのか留まるネファスに、レナティアは今度こそ本気の舌打ちをしてみせた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。