勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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英雄会談10

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「……」

 ルーティの屋敷から遠く離れた屋根の上。
 レナティアは、ルーティの屋敷の方角をじっと見つめていた。
 方角……というのは、常人であれば「言われて見れば遠くに屋敷あるね」と言うような距離であるからだ。
 当然、その中にいる者の行動など見えるはずも無い。
 仮に見えたとして、何をしているかなど肉眼で判別など付く筈が無い。
 だが……屋根の上のレナティアの動きは、明らかに「見えている」者のそれであった。
 注意深い者が彼女を見れば、その瞳に魔力が集中していたことに気付いたかもしれないが……とにかくレナティアの瞳は忙しげに動き、何かを確認しては時折頷いたりしていた。
 立ち上がってその背中に背負われた弓に時折手が伸びそうになりつつも、それをなんとか自制し、レナティアはじぶんのからだを押さえつけるように座り込む。
 そうした事を繰り返しながら、レナティアはやがて小さな溜息をついた。

「……何話してんのかはサッパリわかんないけど。あれってたぶん、あの黒髪の男がバカやったんだよね」

 部屋の奥まで透視していたかのような事を呟きながら、レナティアは屋根の上で暇そうに……しかし、一瞬も見逃すまいとするかのように一点のみを凝視する。
 ルーテリス……剣魔がここに至るまで手の一つも出していないのは驚きだが、どうやら話し合いには持ち込んだらしく、件のシルフィド、ルーティを含むメンバーで真剣に話し合いをしているのが見える。
 レナティアが心配していたような暴力沙汰には……まあ、なってはいるがルーテリスから手を出したわけでもない。
 となれば、まともな「話し合い」にはなっているのだろう。
 唇の動きさえ読めれば内容をある程度理解もできるはずなのだが……。

「なんか知らないけど、あの黒いのが絶妙に邪魔なんだよなあ……」

 黒いメイドナイトらしき女の動きが偶然にもそれをさせないように隠してしまっているのである。
 勿論、全てという訳ではない。
 しかし読み取れるのは意味の分からない断片のみだ。
 まさか気付かれているわけでも無いだろうけど……とレナティアが愚痴る。
 こんな距離から気付くようであれば、それこそ化け物だ。

「……まさかね」

 一瞬浮かんだ怖い考えを振り払いながらレナティアは、なんとなく視線を移動させ……屋敷の外に、四人の男女がいるのを見つける。
 それが先程までルーテリス達と一緒に居た連中であるのを理解すると、少しだけそちらへと意識を向ける。
 屋敷の一人でずっとイライラしていた騎士らしき男と合流した三人は、「失敗した」と伝えているようであり、イライラしていた騎士のほうがそれに感情を爆発させていたようだ。
 何やらルーティに対する文句を言っているようだが、周りの三人がそれを押さえこんでいる。

「なんだいありゃ、あっちのほうが剣魔みたいじゃん」

 そんな事を呟くと、レナティアはすぐに四人組から興味をなくし視線を元に戻す。
「念の為」のバックアップを頼まれこんな所にいるものの……これならば一緒についていったほうがよかったのではないか。
 そんな事をレナティアが考え始めていると、背後の方で転移光が集まっているのを感じてレナティアは振り返り舌打ちをする。
 そこに現れたのは、白いローブを纏った……キャナル王国ではマゼンダを名乗っていた女の姿であったからだ。

「全く、何処に消えたかと思えばこんなところに。一体何をしているのですか?」
「なんだっていいだろ。僕は君の部下でもなんでもないんだ。てゆーかなんでここが分かったのさ。策士気取りの年増ってだけで相当イタいのに、ストーカーだなんて手に負えないぜ?」

 その言葉にピクリと青筋を立てつつも、マゼンダは冷静を装いながら咳払いをする。

「……探し方など、幾らでもあるということです」
「あー、そうかいそうかい。とっとと帰れ。僕、お前と一緒にいると粘着質な性格がうつりそうで嫌なんだよね」
「私は粘着質ではない……っ!」
「キレてんじゃねえよバーカ。なに、僕とケンカする為に来たわけ?」

 此処に至るまで視線すらマゼンダに向けようともしないレナティアに、マゼンダは瞳に怒りを滾らせつつもなんとか激情を抑える。

「剣魔のことです。奴が何処にいるか知りませんか?」
「あ?」

 突然訳の分からない事を言い出したマゼンダに、レナティアは思わず振り返って聞き返す。
 レナティアの居場所が分かったのであれば、剣魔……すなわちルーテリスの居場所も分かっていそうなものだ。

「どうにも奴の魔力が判別しにくくなっているようなのです。それで少々気になりましてね」

 魔力の判別。
 そういえばマゼンダにはそんな能力もあったな……などと思い返しながらも、レナティアはマゼンダの言葉の意味を考える。
 判別しにくくなっている。
 それはつまり、ルーテリスの魔力の質が微妙に変化したか……あるいは抑え込むか何かして隠蔽していることが考えられる。
 とはいえ粘着質で神経質でプライドの高いマゼンダが多少抑えこんだ程度で「判別しにくい」などと言いに来るわけはないし、恐らくは前者なのだろう。

 ……だが、レナティアにもそんな心当たりは無い。

「僕に聞いたって分かるわけないだろ。バカなの?」

 どちらにせよ同じ答えであっただろうが……レナティアは、ひとまずは本音でマゼンダへとそう返した。
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