勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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そして、歩き出す事を決めた

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 殲弓レナティア。
 そう呼ばれる最強の弓のうちの一本を抱きしめ、ルーティは沈黙する。
 再び歩き出す事を決めたルーティの側には、もうかつての仲間達は居ない。
 その先に命の神フィリアが立ち塞がる可能性があるならば、恐らくは人類の中でどれだけルーティに味方する者がいるかも不明だ。
 確信した真実の欠片とて、妄言と切り捨てられてしまえばそれでおしまいだ。
 むしろ、「シュクロウスの再来」を疑う者のほうが多いだろう。
 いや……あるいはそうして、再び人類は団結するのかもしれない。
 そこを疑っても、キリはないだろう。

「……条件は果たされた、と考えていいのか?」
「満たしてはいませんね」

 ヴェルムドールの問いに、ルーティは殲弓レナティアを背負いそう答える。
 そう、確かに命の神の意思が示されたわけではない。
 そういった意味では、ルーティの出した条件は満たされてはいない。

「ですが、協力はしましょう。それが私の目的の為にもいいのですから」
「目的か」
「ええ。フィリア様の意思は、私自身がこの目で見定めます。そうするのが、私の責任なのでしょう」
「そうか」

 ヴェルムドールは、否定も肯定もしない。
 肯定して「正義」を名乗るつもりも無ければ、わざわざ否定する必要もないからだ。
 
「ならば、早速協力して貰いたい事がある」
「次元の狭間ですね?」

 アルヴァは次元の狭間にいる。
 それはルーティも早々に勘付いてはいた。
 行動を起こさなかったのは色々と理由はあるが……最大の理由は、手が足りなかった事だ。
 次元の狭間は、恐ろしく危険な場所だ。
 普通の者を送り込めるような場所ではないし、送り込めるようなヴェルムドール達を信じきってもいなかった。
 だからこそ、出てきたアルヴァを倒すという対処療法程度でしか動けなかったのだ。

「分かっているなら話は早い。お前はかつて次元の狭間に行ったのだろう? その手段も持っているはずだ」

 ヴェルムドールはライドルグとの会話をも思い出しながら、ルーティへと問いかけ……ルーティは、頷いてみせる。

「確かに、私はそれを持っています」

 そう言って、ルーティは胸元を少し緩め……そこから、鍵のようなものがついたネックレスのようなものを取り出す。

「これが、私の持っている「手段」です」
「すまんが、何も見えん」

 ルーティが胸元を緩めようとした瞬間にヴェルムドールの視界はイチカの手によって塞がれ、「手段」と言われてもヴェルムドールには声しか聞こえてこない。
 手で塞いでいるので指の隙間から見えそうなものだが、技能に昇華するほど「完璧」であるイチカにそんなミスはありえない。
 完璧にヴェルムドールの視界は塞がれ、真っ暗闇である。

「イチカ、手をどけてくれ」
「いけません。悪質な洗脳です」
「失礼な」

 言いながらもイチカが何を危惧しているかを察したルーティは胸元を整えなおすが、イチカの威嚇するような視線がちくちくと痛い。

「別に私はヴェルムドールをそういう対象には見ていませんから心配要りませんよ?」
「そんな心配はしていません」

 むしろヴェルムドールがどういう反応を示すかが嫌だから目を塞いでいるのだ。
 万が一反応して意識するきっかけになってしまったら、もう何をしてしまうか分からない。
 まあ……普段のヴェルムドールを考えれば見たところで眉一つ動かしそうにもないが、そういう問題でもない。
 ヴェルムドールが見るという事実が嫌なのだ。
 別にルーティもそういう意図ではない、が。
 とにかく嫌なものは嫌なのだ。

「すまんが、話が全く読めん。あと前も見えん」

 再度ヴェルムドールから困ったように言われ、イチカはようやく手を離す。
 ヴェルムドールは戻った視界の明るさにまいったかのように目元を軽く揉み、ルーティへと視線を向ける。

「で、「手段」とはどれだ?」
「コレです」

 そう言って、ルーティは胸元に下がったリングのネックレスを指し示す。
 聖銀製と思われる銀の鎖に繋がれているのは、白い魔法石のついた鍵のようなものだ。

「それは……鍵、か?」

 古めかしいデザインの鍵は、これが金色であれば英雄譚に出てくる宝箱を開ける鍵だと言われても納得できてしまいそうなものだ。
 しかし色としてはどちらかといえば汚れた銅色であり、魔法石がついていなければガラクタとして二束三文で売られていそうでもある。

「はい、鍵です」
「その鍵とやらで次元の狭間へ行く、ということか」

 鍵ということは、対応する扉でも用意されていたのだろうか。
 あるいはそうしたものがあったとしても不思議ではないだろうが……とヴェルムドールが考えていると、ルーティはその鍵を視線の高さまで持ち上げてみせる。

「ですが、これは単体では意味を成しません」

 単体では意味を成さない。
 その言葉の意味するところを予想して、ヴェルムドールは口を開く。

「……やはり、扉か何かがあるのか?」
「そういう問題ではありません」

 だが、ルーティは首を横に振って否定してみせる。

「次元の狭間のある場所は、世界の狭間。昼と夜の間、昨日と今日の間……すなわち、世界を分かつ光と闇の狭間。そしてこれは、光の鍵です」
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