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闇の巫女レルスアレナ6
しおりを挟む「え、あ、いや……その……」
途端に視線を泳がせ何か言い訳をしようとする男を無視し、少女は枷に繋がれたシルフィドの少女達を見つめる。
先程「逃げて」と叫んだのは、この二人の少女のうちのどちらかだろう。
期待と不安の入り混じった瞳は、少女が自分達を解放しうる同族であることを期待してのものだろうか?
そんな期待を出来るということは、彼女達は此処に連れてこられてまだ日が浅いのだろう。
長くそうした環境にある者は必ずといっていい程感情を喪失するし、感情が残っていたとしても、こんな「まともな感情」など残してはいないからだ。
「……さて。そろそろ言い訳は終わりましたか?」
「うえ!?」
何やら必死に喚いていた男の台詞を全て聞き流して、少女は男へと振り返る。
杖でカツンと床を叩くと、男はビクリと震えて後ずさる。
何時の間に立ち上がったのか知らないが、媚びるような笑みが実に気持ち悪い。
「え、えーとですね。その、誤解なんだよお嬢さん。話し合おうじゃ」
「時間の無駄です。それより最近、貴方が怪しい商人から霊王国の遺産を買ったという噂を聞きました。真実ですか?」
「へ?」
間抜けな顔をして口を開く男に不快感を覚えながらも、少女は聞きなおす。
「最近、貴方が怪しい商人から霊王国の遺産を買ったという噂を聞きました。真実ですか?」
同じ質問を繰り返す少女に、男は少女と少女の背後の枷に繋がれた少女達を見比べ、きょとんとした顔をする。
「え、あ、その……」
「真実ですか?」
再度杖で床を叩く音に男はビクリと震え、何かを考えるように視線を彷徨わせる。
その反応だけで答えとしては充分すぎたが……少女は黙って、男の返答を待つ。
そうしているうちに男は言い訳を思いついたのか、ぱっと顔を明るくさせる。
「あ、ああ! あれのことか! 知ってる、知ってるとも!」
男はニコニコとした顔で少女に近づこうとして……その態度があまりにも不快で、少女は男に杖を突きつける。
だが、男は脅える様子なく、その杖を思い切り掴む。
「まあまあ、こんな物騒なものを突きつけたりしないで。ゆっくり話し合おうじゃないか」
力尽くで杖を奪おうとする男の力は強く、少女はあっさりと杖をもぎ取られる。
単純な体格差からいってそう出来ると確信していたのだろう、男は杖を奪うと勝ち誇った笑みを浮かべる。
「は、ハハハ! ざまぁみろ! 魔法使いから杖をとっちまえば何もできまい!」
「鉄杭刺呪」
「うぎいっ!?」
そうやって勝ち誇った直後、男は手に耐え難い激痛を感じ杖を取り落とす。
痛い、熱い。
のた打ち回りたくなる激痛に手を抱えて蹲ると、その目の前で少女が杖を拾い上げるのが見えた。
「……何をしたいのかと思えば。魔法使いが長杖だけ所持しているわけがないでしょう」
まともな魔法使いであれば護身用の短杖、更に緊急用の指輪も当然所持している。
更に優秀な魔法使いであれば、そのどれもなくても簡単な魔法くらいは使える。
更に言えば魔法に長けた魔族であれば、何も無くても大魔法をポンポンと撃つような者がたくさんいる。
魔法使いイコール杖が無ければ……というのは、まさに無知故の誤解といえるだろう。
「さて、私の当初の目的は終わりました。貴方は確実に霊王国の遺産は持っていません」
痛みを堪えながらも憎しみを込めた視線で睨みつけてくる男を見下ろして、少女は淡々と告げる。
「その件とは別件ですが。四大国に限らず全ての人類国家では奴隷の所持は禁止されていますね? どういうつもりですか?」
「……」
「鉄杭刺呪」
「ぎぃっ!?」
もう片方の手に打ち込まれた鉄杭刺呪の痛みに、男は悲鳴を上げる。
鉄杭刺呪。
太い鉄杭を打ち込む程度の痛みを相手の任意の場所に味わわせる闇魔法であり、肉体ではなく精神を傷つけるための魔法である。
用途としてはこのような拷問用であるが、開発当初のコンセプトは「出来るだけ残酷なことはせずに相手に負けを認めさせる魔法」であったという、何とも業の深い魔法でもある。
「どういうつもりですか?」
「いだいっ、いだっ……この亜人めっ、ごんなごとっ」
「鉄杭刺呪」
再度響く悲鳴。
もはや文句すらも出なくなったか涙と鼻水を撒き散らす男を見下ろし、少女は溜息をつく。
まあ普通に考えて己の歪んだ性癖をぶつける為だろうか……と考え始めたところで、背後のシルフィドの少女から聞き捨てならない言葉が飛び込んできた。
「永遠の命……」
「ん?」
慌てて止めようと必死で動く男を再度の鉄杭刺呪で黙らせると、少女は枷に繋がれたシルフィドの少女の一人へと近づいていく。
「今、なんと?」
「永遠の命……私達から取り出すんだって……」
永遠の命を取り出す。
それは一定周期で現れるデマだ。
曰く霊王国の遺産には「命の杯」なるものがあり、そこに他の命を注ぎ「永遠の命」の素を作る事ができる。
そしてそれは、永遠の命を持つエレメントが他の種族を自分の伴侶にする為の秘宝である……と。
勿論、そんなものは存在しない。
そもそもエレメントが永遠の命を持っていること自体がデマなのだが……。
「そうですか。命の杯。貴方もあのデマに踊らされた屑でしたか」
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