勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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闇の巫女レルスアレナ8

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 少女が振り向くと、シルフィドの少女二人は脅えたようにガチャリと鎖を鳴らす。

「こ、ころさないで……」

 聞こえてきた言葉に、少女は首を傾げる。

「どうして殺す必要があるのですか?」
「え、だ、だって……皆殺しにするんじゃ」

 シルフィドの少女の戸惑ったような返答を聞いて、少女はなるほどと頷く。

「別にそのつもりはありませんが、殺されるようなことをするつもりなのですか?」

 少女の問いに、シルフィドの少女達はぶんぶんと首を横に振る。

「別に私は虐殺者ではありません。貴女達を助ける義理も別にないのですが、ここで見捨てないくらいの分別もあるつもりですし」
「え、と」

 助ける、という言葉に素早く反応したものの、シルフィドの少女達はいまいち喜んでいいのか分かりかねる様子だった。
 少女が無表情というのもあるだろうが、あまり彼女達を助けるのに乗り気でなさそうだというのもあるだろう。
 どうでもいいという感情が透けて見えるようで、しかし機嫌を損ねたくないという気持ちがそれを口に出すのを妨げていた。
 殺されないというならば彼女達にとって一番最悪なのは「此処にこのまま置いていかれる」ことであり、それだけは避けたかったのだ。
 故に、彼女達にとって最良であるのは同族の少女に縋ることである。
 だからこそ、少女のうちの一人が頭を下げる。

「お、お願いします。たすけて……ください」

 慌ててもう一人のシルフィドの少女も頭を下げ、お願いしますと懇願する。
 すると、少女はアッサリと頷いてみせる。

「いいですよ。何処から攫われてきたんですか?」
「ソ、ソレル村です! ケル川の流れるララスの森の中程にあります!」
「そうですか。全く分かりません」

 今シルフィドの少女が言った固有名称だが、どれ一つとして聞き覚えが少女にはなかった。
 そして恐らくだが、正式に地図に登録されている名称ではないだろうと少女は想像していた。
 これは人里離れて暮らすシルフィドにはよくある話で、自分達であちこちに名前をつけてそれで呼ぶから、公的な地図を頭に入れている相手と話が通じなくなるのだ。
 しかしまあ、公的な地図とて改名されたり合併されたりと色んな理由で名前が変わったり、このあたりの中小国で言うとそうした際に丸ごと入れ替わったりするから、ほんの数年いないだけで話が通じなくなるのもよくある話だ。
 まあ、それはさておき。
 今聞いた地名だけでは少女達を送ることはできないだろう。
 それに、懸念もある。

「ちなみに、どういう状況で攫われたんですか?」

 シルフィドの少女達の枷をガチャガチャとやりながら問いかけると、少女達は辛そうな顔をして答える。

「……村に、盗賊がやってきて……火を放ったんです。それで私達は……」
「そうですか」

 ならば、間違いなくそのソレル村とやらは無事ではないだろう。
 しかも恐らくは、正式な村として登録されているかも怪しいところだ。
 ひょっとするとかつては登録されていたかもしれないが、中小国は興りやすく滅びやすい。
 そうした中で再編に組み込まれずに残されていた……という可能性もあるが、狙われた理由はそんなところだろう。
 本来ならば慰める場面なのだろうが、少女はそんな面倒なことはしない。
 無駄な希望程意味の無いものはないからだ。

「その村とやらは絶望的ですね。諦めてください」
「えっ……」
「全員死んでるか売られてるでしょう。諦めてください」
「そんな」

 その「そんな」の後にどんな言葉が続くのか、少女に興味は無い。

「諦めてください。その方が身のためです」

 淡々とした言葉に、シルフィドの少女達は何も言い返せずに黙り込む。
 自分達が探しに行く、というのもどんなに無謀であるか理解しているが故だ。
 けれど、「それならばどうしたらいいのか」も分からない。
 それ故の沈黙である。
 そしてそれを理解しているが故に少女は提案です、と言って人差し指を立ててみせる。

「ここから一番近い四大国は、シルフィドの国であるジオル森王国です。そこくらいまでなら、送っていって差し上げます」
「え、で、でも。その後、どうしたら」
「勝手にしてくださいと言いたいところですが……外れませんね、これ」

 少女が枷から手を離し床を叩くと、そこから大人程のサイズのストーンゴーレムが現れる。

「その枷、怪我させないように壊してください」

 少女の命令を受けて、ストーンゴーレムは枷を簡単に壊しシルフィドの少女達を解放していく。

「で、えーと。一応昔恩を売った相手がいるので、紹介状を書いてあげます。路銀もあげるので、あとは自分達でなんとかしてください」
「そ、その人の所までついてきては……」
「そのくらいはなんとかしてください」

 そう切り捨てると、少女は自分の懐を探り始める。

「一応聞きますけど、武器は使えます?」
「ゆ、弓なら」
「私は、魔法を……」
「杖はありますけど、流石に弓は手持ちに無いですね」

 そう言うと、少女は自分の持っていた杖をシルフィドの少女達へと放り投げる。
 魔法、と答えた少女は慌ててそれを受け取り……杖と少女を見比べる。
 明らかに上質な杖であり、こう簡単に渡していいようなものではないと思えたのだ。

「ああ、別に構いませんよ。それは貰い物ですし、替えなんていくらでもあります。それより弓ですが……まあ、何処かの家にはあるでしょう」

 そう呟きながら、少女はスタスタと階段を上がり……ふと足を止めて、振り返る。

「そうそう、これから屑をもう一つ処理してきますから。汚い悲鳴を聞きたくなければ、少したってから来るといいですよ」
「え、あ……あのっ!」

 そのまま階段を上がっていこうとする少女に中途半端にシルフィドの少女は手を伸ばし、それでは止まるまいと声を張り上げる。

「……なんでしょう。殺すのはいけませんとかいう綺麗事は聞きたくありませんが」
「い、いえ。そうでなくて……そのっ」

 言いよどむシルフィドの少女に、少女は不可解そうな視線を送り……シルフィドの少女は、意を決したように叫ぶ。

「ま、まだお名前伺ってません! 私はルテナといいますっ」
「あ、わわわ、私はルルナですっ」

 自己紹介をする二人を見て、そういえば名乗っていなかったかと少女は思い出す。
 少女は階段を降りて、ルテナ達の前に立ち……片手を、差し出す。

「レルスアレナです。どうぞよろしく」

 別に覚えなくても構いませんよと言うレルスアレナに、ルテナとルルナは「絶対に忘れません」と言ってレルスアレナの手を握るのだった。
************************************************
闇の巫女レルスアレナはここまでです。
次回より新エピソードへと突入します。
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