勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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闘国エストラト3

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 錬鉄の槍亭の前にやってきたのは、三人の男達。
 一人は細身の、何処か粘ついた雰囲気を漂わせる男。
 その後ろに控える二人は筋肉質で、明らかに戦い慣れした空気を纏う男達。
 そのうちの正面の細身の男が錬鉄の槍亭の扉の前に立つルモンに気付くと、馬鹿丁寧な所作で礼をしてみせる。
 しかし、それはあくまで表面上のことだというのは、ルモンにはよく分かった。
 どんなに取り繕おうと、選民意識に凝り固まった思想はあらゆる部分に出る。
 取り繕えていると信じ……騙せていると思い込み、気付かぬは本人ばかりなのだ。

「夜分遅くに失礼致します。私、このキルコネンの領主エーゲラルト・シュテッフェン様の使者として遣わされたテッタコルネと申します。貴方が冒険者のシオン殿でございますか?」

 値踏みするような目付き。
 仮にもこの闘国の住民なだけはあって、それなりに「強い者」を見極める目はあるようだとルモンは判断する。
 とはいえ、厄介事を持ってきているのであれば有能だろうと無能だろうと等しく厄介者だ。
 未だ屋根の上のファイネルからの視線もキツいし、ここは「忠誠心」とかいうものを見せておいたほうがいいだろうとルモンは素早く計算する。

「申し訳ありませんが、ここには一晩の宿泊の予定で居るだけです。領主様へのご挨拶等をお求めでしたら、ご容赦願えたらと」

 テッタコルネの質問に答えずにルモンが困ったような笑顔で答えると、テッタコルネはわざとらしい所作で首を横に振る。

「ええ、勿論斯様なことをいう程エーゲラルト様は狭量ではございませぬ。かのシオン殿がこの街に来訪されたと聞いた時は、一部の馬鹿共は世界の終わりでもきたかのようにオロオロしておりましたがね」
「それはそれは。その方々が眠れないあまり闘技場の入り口で過ごしていないとよろしいのですが」
「ハハハッ、近いことはしているようですよ。闘技場の周辺は今、連中の子飼いの者がウロウロしておりますからな」

 ルモンが肩をすくめてみせると、テッタコルネは笑い声をピタリと止める。

「まあ、そんな連中の事はどうでもよろしい。大切なことは、常に「先」にしかないのですから」

 そう言うと、テッタコルネはルモンを正面から見据える。

「我が主エーゲラルト様は、シオン殿を雇う事をお望みです」
「雇う? 申し訳ありませんが、意味を理解しかねます」

 そもそも「シオン」がそういう事に興味があるならば、自分で参加してライバルにもならないライバル達を蹴散らせば済む話だ。
 護衛という意味で言うのであれば、領主の権限で幾らでも雇えるはずだ。
 わざわざシオンを囲い込む意味が分からない。

「……強い敵にでも狙われているのですか?」
「いいえ。エーゲラルト様を狙う者などおりません。エーゲラルト様は尊き方に連なる血筋なのですから、取って代われるはずもございません」

 要は王族の一人ということなのだろう。
 ルモンは適当に頷くと、分からないといった風に首を傾げてみせる。

「ならば、何故? わざわざ冒険者を雇わずとも、ここは闘士が山のようにいるでしょう?」
「その闘士の質が問題だからです」

 テッタコルネはそう言うと、わざとらしい溜息をついて説明を始める。
 闘国エストラトには、全部で五つの闘技場がある。
 まずは、このキルコネンの青闘場アジバ・バウ。
 他の街にある赤闘場ガルガ・ザン。黒闘場ダグダ・ルガ。白闘場メルラ・ルカ。
 そして最後に、首都にある闘場アルラ・レル。
 五つの闘技場では毎日闘士達が闘いあっているが、中央の「闘場アルラ・レル」だけは一年に一回特別な試合を行っている。
 それが御前試合でもあり各闘技場の覇者達が競う「闘将祭」であり、そこで勝った者は闘国における貴族位を授けられるのだという。
 そして同時に、その闘将祭は闘国の次の王を決めるのにも重大な役割を果たす。
 簡単にいえば「強い者を引き付けるのも王の素質の一つ」というものらしい。
 つまり、負けるわけにはいかない戦いというわけだ。

「シオン殿の実力を私は噂だけでしか知りませぬが、アルヴァ共をいとも簡単に倒し得るとか。それ程の実力があれば闘将祭でも……!」

 その闘将祭とやらが魔法の飛び交う大会であればともかく、「魔法使いシオン」には不向きだろう。
 そもそもアルヴァを倒すのは剣でも槍でもなく魔力なのだが、その辺りを上手く理解できていないのかもしれない。
 まあ、下手に剣が通じる分理解しにくい部分なのかもしれないが。

「……申し訳ありませんが、その話はお受けしかねます。英雄ルーティ殿の護衛として旅を急ぐ身なので」
「ぬっ……」

 英雄ルーティ殿という部分を強調してみせると、テッタコルネは明らかに気圧されたように後ろに下がる。
 しばらく迷うようにしていたテッタコルネだが、やがて長い息を吐いて首を振る。

「……仕方ありませんな。ですが、もし護衛が終わった後もこのお話を覚えておりましたら是非」

 ルモンが答えず笑顔で返すと、テッタコルネは身を翻して護衛らしき男達に合図を出す。

「ああ、それと」

 歩きかけて、ピタリと止まって。
 テッタコルネは冷たい雰囲気をその身から放出させる。

「……くれぐれも、他の街に力などお貸しにならぬよう」

 釘を刺すようにそう言って、テッタコルネ達は元来た道を戻っていく。
 それを手をヒラヒラと振って見送ると、ルモンは浮かべていた笑顔を苦笑に変える。

「脅しのつもりだったのかな、今の。ハハッ、勘違いも度を過ぎると愛おしいね」
「そうですね。ていうか、貴方ってそういう毒吐く人だったんですね?」
「うわあっ!?」

 扉をそっと開けて顔を出したルーティに声をかけられ、ルモンは驚きのあまりビクンと震えるのだった。
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