424 / 681
連載
闘国エストラト3
しおりを挟む錬鉄の槍亭の前にやってきたのは、三人の男達。
一人は細身の、何処か粘ついた雰囲気を漂わせる男。
その後ろに控える二人は筋肉質で、明らかに戦い慣れした空気を纏う男達。
そのうちの正面の細身の男が錬鉄の槍亭の扉の前に立つルモンに気付くと、馬鹿丁寧な所作で礼をしてみせる。
しかし、それはあくまで表面上のことだというのは、ルモンにはよく分かった。
どんなに取り繕おうと、選民意識に凝り固まった思想はあらゆる部分に出る。
取り繕えていると信じ……騙せていると思い込み、気付かぬは本人ばかりなのだ。
「夜分遅くに失礼致します。私、このキルコネンの領主エーゲラルト・シュテッフェン様の使者として遣わされたテッタコルネと申します。貴方が冒険者のシオン殿でございますか?」
値踏みするような目付き。
仮にもこの闘国の住民なだけはあって、それなりに「強い者」を見極める目はあるようだとルモンは判断する。
とはいえ、厄介事を持ってきているのであれば有能だろうと無能だろうと等しく厄介者だ。
未だ屋根の上のファイネルからの視線もキツいし、ここは「忠誠心」とかいうものを見せておいたほうがいいだろうとルモンは素早く計算する。
「申し訳ありませんが、ここには一晩の宿泊の予定で居るだけです。領主様へのご挨拶等をお求めでしたら、ご容赦願えたらと」
テッタコルネの質問に答えずにルモンが困ったような笑顔で答えると、テッタコルネはわざとらしい所作で首を横に振る。
「ええ、勿論斯様なことをいう程エーゲラルト様は狭量ではございませぬ。かのシオン殿がこの街に来訪されたと聞いた時は、一部の馬鹿共は世界の終わりでもきたかのようにオロオロしておりましたがね」
「それはそれは。その方々が眠れないあまり闘技場の入り口で過ごしていないとよろしいのですが」
「ハハハッ、近いことはしているようですよ。闘技場の周辺は今、連中の子飼いの者がウロウロしておりますからな」
ルモンが肩をすくめてみせると、テッタコルネは笑い声をピタリと止める。
「まあ、そんな連中の事はどうでもよろしい。大切なことは、常に「先」にしかないのですから」
そう言うと、テッタコルネはルモンを正面から見据える。
「我が主エーゲラルト様は、シオン殿を雇う事をお望みです」
「雇う? 申し訳ありませんが、意味を理解しかねます」
そもそも「シオン」がそういう事に興味があるならば、自分で参加してライバルにもならないライバル達を蹴散らせば済む話だ。
護衛という意味で言うのであれば、領主の権限で幾らでも雇えるはずだ。
わざわざシオンを囲い込む意味が分からない。
「……強い敵にでも狙われているのですか?」
「いいえ。エーゲラルト様を狙う者などおりません。エーゲラルト様は尊き方に連なる血筋なのですから、取って代われるはずもございません」
要は王族の一人ということなのだろう。
ルモンは適当に頷くと、分からないといった風に首を傾げてみせる。
「ならば、何故? わざわざ冒険者を雇わずとも、ここは闘士が山のようにいるでしょう?」
「その闘士の質が問題だからです」
テッタコルネはそう言うと、わざとらしい溜息をついて説明を始める。
闘国エストラトには、全部で五つの闘技場がある。
まずは、このキルコネンの青闘場アジバ・バウ。
他の街にある赤闘場ガルガ・ザン。黒闘場ダグダ・ルガ。白闘場メルラ・ルカ。
そして最後に、首都にある闘場アルラ・レル。
五つの闘技場では毎日闘士達が闘いあっているが、中央の「闘場アルラ・レル」だけは一年に一回特別な試合を行っている。
それが御前試合でもあり各闘技場の覇者達が競う「闘将祭」であり、そこで勝った者は闘国における貴族位を授けられるのだという。
そして同時に、その闘将祭は闘国の次の王を決めるのにも重大な役割を果たす。
簡単にいえば「強い者を引き付けるのも王の素質の一つ」というものらしい。
つまり、負けるわけにはいかない戦いというわけだ。
「シオン殿の実力を私は噂だけでしか知りませぬが、アルヴァ共をいとも簡単に倒し得るとか。それ程の実力があれば闘将祭でも……!」
その闘将祭とやらが魔法の飛び交う大会であればともかく、「魔法使いシオン」には不向きだろう。
そもそもアルヴァを倒すのは剣でも槍でもなく魔力なのだが、その辺りを上手く理解できていないのかもしれない。
まあ、下手に剣が通じる分理解しにくい部分なのかもしれないが。
「……申し訳ありませんが、その話はお受けしかねます。英雄ルーティ殿の護衛として旅を急ぐ身なので」
「ぬっ……」
英雄ルーティ殿という部分を強調してみせると、テッタコルネは明らかに気圧されたように後ろに下がる。
しばらく迷うようにしていたテッタコルネだが、やがて長い息を吐いて首を振る。
「……仕方ありませんな。ですが、もし護衛が終わった後もこのお話を覚えておりましたら是非」
ルモンが答えず笑顔で返すと、テッタコルネは身を翻して護衛らしき男達に合図を出す。
「ああ、それと」
歩きかけて、ピタリと止まって。
テッタコルネは冷たい雰囲気をその身から放出させる。
「……くれぐれも、他の街に力などお貸しにならぬよう」
釘を刺すようにそう言って、テッタコルネ達は元来た道を戻っていく。
それを手をヒラヒラと振って見送ると、ルモンは浮かべていた笑顔を苦笑に変える。
「脅しのつもりだったのかな、今の。ハハッ、勘違いも度を過ぎると愛おしいね」
「そうですね。ていうか、貴方ってそういう毒吐く人だったんですね?」
「うわあっ!?」
扉をそっと開けて顔を出したルーティに声をかけられ、ルモンは驚きのあまりビクンと震えるのだった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。