勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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闘国エストラト4

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「い、いつからそこにいたんですか!?」
「扉の向こうに居たのは結構前からですが」
「……気付きませんでしたよ?」
「伊達に英雄ルーティ殿、とか呼ばれてませんから」

 そういって悪戯っぽく笑ってみせるルーティに、ルモンは苦笑で返す。
 そういえば、ルーティもまた「かつての自分」を倒した一人だったのだと思い出す。
 正気を失うほどに強化した自分を倒した勇者一行の一人なのだ。
 自分に気配を気付かせないくらいのことは、やってのけてもおかしくはないだろう。

「ご苦労様です。いざとなれば出て行こうと思っていたのですが、必要なかったようですね」
「ええ。思ったよりも話が分かるようで助かりました」

 ルモンがそう言うと、ルーティは少しばかり微妙な表情を浮かべる。

「……それは、どうでしょうね」
「何か、懸念が?」

 ルーティは少しの沈黙の後、何かを思い出すように遠くを見つめる。

「闘将祭、とか言ってましたね」
「ええ。貴族になれるとかなんとか。それが何か?」
「私がリューヤ達と共にこの国に来た時、その大会の名前は闘王祭……という名前でした」

 闘王祭。
 それは五年に一回開催される、闘国の王を決める祭であった。
 最初は純粋に強い者が頂点に立つ為のものであったはずの仕組みはリューヤ達が来る前にはすでに歪み、「強い者を従えるのも王の資質」ということで代理闘士という制度が出来上がっていた。
 現王の一族がそれを利用して自分達の地位を安定させていたのは当然の成り行きだが、貴族達の闘争によって闘士の暗殺や脅迫……様々な弊害が闘国を歪め、八百長も横行した闘国はどんどんと歪んでいった。
 歪みは次の歪みを生み、「強さ」を持たぬ者への蔑視が広がっていく。
 正しく導ける強い者を選ぶはずだった仕組みは、こうして穢された。
 抗いようの無い弱い者は奪われ、抗える強い者は貶められる。
 
 ……そうした中で、奪われた一人の青年がリューヤと出会った。
 闘王祭を勝ち進み、同じ意思を持つ人々と協力し数々の妨害を打ち砕いて青年と共に「王の座」を勝ち取った。
 歪んだ「闘王祭」を廃止し、闘国がもっと良い方向へ進めるようにする為の新たな闘王祭を制定した。
 王を意思決定者ではなく、象徴的なものとして政治から切り離したのだ。
 新たに国を導く議会を制定し、二度と同じ事が出ないようにしたのだ。

「……そういう風には見えませんがね」
「ええ。私達がこの国を離れ、魔王シュクロウスとの戦いが激化して……全ての人類が一致団結への流れを進む中で、闘国はもう一度引っくり返りました」

 それは、たった一晩の出来事だった。
 大虐殺が起き、「偶然」にも主だった議員は皆殺しにされた。
 それを引き起こした「魔族」を討伐した男は団結を唱え、まるで予め用意していたかのような綺麗な段取りで新たな「王」となり新たな王政を敷いた。
 勇者によって示された道を進むという名目の下に闘王祭は闘将祭となり、二度と王の立場は外の者によって脅かされぬようになった。
 王と貴族という既得権益は強固なものとなり、闘士達は娯楽の駒となった。

「……その魔族とかいうのは?」
「でっち上げに決まっています。ですが、それを証明する手段は何処にも無い。あの頃は、そうして政敵を葬り去る者が多かったと聞きます」

 魔族のせいということにしてしまえばいい。
 人類には扱えぬ強力な魔法を使う魔族であれば、人類を超えた理屈でそれを為せる。
 犬の糞を踏むのも魔族の陰謀……とは当時流行った皮肉だが、とにかくそうした事が闘国でも行われたのだろうとルーティは語る。

「とはいえ、私達がそれを知ったのは全てが終わった後。その頃には新しい体制の下に闘国は安定しており、出来る事など何一つありませんでした」

 それを聞いて、ルモンはなるほどと頷いてみせる。

「この国がどうしようもないというのは理解しましたが、それと先程の男の勧誘に何か関連性が?」
「まず言える事は、私達がこの街の端にある此処に泊まっている事が、この短い間に領主に届いているということです」
「そうですね?」
「これはつまり、この短い間で領主に情報が届く手段が確立されているということです」

 まあ、それはそうだろう。
 ある程度の国であれば諜報部隊を抱えているものだ。
 有益な情報はすぐに届いてもおかしくはない。

「そしてそれは諜報部隊というような秘密のものではなく、もっと広大なものであるということです。それこそ、今の闘将祭とかいうもので利害関係にある者が知るほどには」

 なるほど、とルモンは思う。
 確かに今聞いた限りだと、「シオン」が闘士として戦って制覇することで不利益を被る者は「上」にはいない。
 そして闘士として戦う者に諜報部隊とのつながりなどないだろう。

「……となると情報を届けたのは間違いなく、この宿の関係者かこの宿に居た者の誰かでしょう。そうすることで何かの利益が出る仕組みがあるものと思われます」
「そうした情報に対し利益を供与する理由は、この国の「上」の争いの為の優秀な駒の確保ですか」
「恐らくは。さっさと引き下がったのは、こちらを刺激して大きな騒ぎになるのを嫌ったのでしょうね」

 かつて闘国をひっくり返した一人の私の名前が効いたのかもしれませんね、とルーティは自嘲するように笑う。

「英雄などと呼ばれていたって、今の私には何もできはしません。何かを為すには、抱えた荷物が重すぎるんです」
「……そうでしょうか」
「え?」

 呆気にとられたような顔をするルーティに、ルモンは静かに語りかける。

「少なくとも今、貴女の名前が面倒事を遠ざけました。違いますか?」
「それは、そうですが」
「貴女が為した事あってこそ、彼等は引いた。それに……貴女はもう充分に為すべき事を為したでしょう」
「いいえ」

 ルーティは、即座にルモンの言葉を否定する。

「私が為すべきことはまだ終わっていはいません。だからこそ私は、この旅を決めたのです。新しい事は為せずとも、せめて自分のやったことを見届けるくらいは……」
「真面目なんですね」
「愚かと思いますか?」
「まさか」

 ルモンはそう答えると、苦笑して屋根の上を見上げる。

「そんな貴女だからこそ、うちの上司は友人となったのでしょうし」
「上司……?」

 つられてルーティが上を見上げると、その背後からぼふっと何かがルーティにのしかかる。

「お前は立派だと思うぞ、ルーティ」
「……ファイネル」

 二人をそのままに、ルモンはそっとその場を離れる。
 ここから先は、自分は不要だ。
 とはいえ、宿の入り口は此処だし裏口には鍵がかかっている。
 まさか二人の間を通って宿の中に入るわけにもいかないし、どうしたものか。

「まさか僕、朝まで外……?」

 ぽつりと呟いたルモンの声が、静かな夜空へと吸い込まれていった。
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