勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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祈国セレスファ4

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 銅の手斧亭。
 その三階で一番広い部屋の椅子に、ヴェルムドールは腰掛けていた。
 これは単純に男連中を同じ部屋に詰め込む都合上こうなっているからであるが……同時に、これから行われることに好都合だからでもある。
 その為、部屋にはアルムを除く全員が集まっており……唯一アルムが此処にいないのも、「それ」を実行する為である。

「……まさかとは思いますが」
「ん?」
「ゴーレムとかドラゴンとか連れてこないですよね?」
「ふむ……」

 ルーティの問いかけにヴェルムドールは少し考えるように天井を見上げると、そのまま呟く。

「まあ、最低一人は確定しているが、そいつは普段魔人形態をとっているから問題ないな」
「……全員そうですよね? まさか街中にドラゴンのまま連れてこないですよね?」
「心配性だな。ラクターはそこらへんは理解している男だ。きちんと人の形をしてるのを連れて来るだろうさ」

 そうですか、と呟くルーティに視線を送りヴェルムドールは再び前方へと視線を戻す。
 そう、そのあたりは心配はしていない。
 心配事があるとすれば……どの程度「使える」のをラクターが見繕ってくるか、だ。
 ファイネルが連れてきたのはアルムとルモンの二人だが、これは正解だと言える。
 元々機転の効く人材に富んだ東方軍だが、その中でも一定以上の実力を兼ね備えている。
 それに比べるとラクターの南方軍は実力だけならば飛びぬけた者が多いのだが、大雑把な者が多い。
 そしてラクター自身がその集大成というか総大将であるが故に、それを上手くサポートできる人材……たとえば今で言えばオルレッドあたりが最有力だろうか。
 そんな事を考えていると、転移光が部屋の中央に集まり始める。

「お、始まったみたいですね」
「ああ」

 ルモンに頷き、ヴェルムドールは部屋の中央に集う光を眺め……その中から現れた人材を見て、ほうと呟く。
 まず現れたのはラクター。
 そして、その手にぶらりとぶら下がっているのは何やら観念した顔をしている赤いセミロングの髪のメイド……クリムである。
 手に箒をぶら下げているのは、掃除の途中か何かだったのだろうか?

「おう、来たぜ魔王様」
「ああ。だが、ここではシオンと呼べ。それと……その手のソレはなんだ?」

 ラクターにぶら下げられているクリムは魔王城のメイド部隊の一人ではあるが、ラクターの部下というわけではない。
 なんで観念した顔をしているのかは分からないが、ひょっとすると何らかの抵抗をしたのかもしれない。

「ん? ああ。最初はオルレッド連れてこようと思ったんだけどな。仕事が溜まってるから無理だとか言いやがってな」

 オルレッドはラクターの補佐をしているはずだから、それはラクターの仕事なのであろうが……それはさておき、どうやらオルレッドがこの場に居ない理由だけは理解できた。

「で、まあ。他の連中はバカしかいねえからな。どうしたもんかと魔王城行ってみたら、代わりの赤いのを見つけてな? まあ、それなりに使えそうだしコレでいいかと」
「マジで食われるかと思いました……出会い頭の凶悪スマイルめっちゃ怖いです……」
「そうそう、こいつ話しかける前に逃げやがるからよぉ。思わず昔を思い出しちまったぜ」
「あ、ご報告ですけどラクター様が壁七枚と床四ヵ所ブッ壊しましたー。イチカ様は修理の手配してから来るそうですー」
「……そうか」

 高笑いしながらクリムを追いかけるラクターの姿を想像して、ヴェルムドールは溜息をつく。
 たぶん床と壁はそのテンションの犠牲になったのであろう。

「……ラクター。城を壊すな。あとクリム、ラクターから話は聞いているか?」
「えーっと、魔王様のお手伝いするらしいってのは聞いてます」
「……そうか。まあ、後で説明しよう」

 ヴェルムドールが疲れたように手を振ると、ラクターはクリムを部屋のベッドに放り投げ、自身は部屋の隅へと移動していく。
 ルーティはそんな二人に順番に視線を向けた後、クリムへと視線を向ける。
 赤を基調としたメイド服を着たクリムはどう見てもメイドだが、イチカとニノの例もある。
 ベッドから飛び降りて服を整えているクリムに近づき、ルーティは手を差し出す。

「えっと……ルーティです。こんにちは」
「あ、はーい! 魔王城メイド部隊、クリムです。よろしくお願いしますねルーティ様!」

 元気に頭を下げるクリムにルーティも微笑みで返し、質問を投げかける。

「はい、よろしくお願いします。ところで……クリムさんは、やはりメイドナイトなのですか?」
「ふへ?」

 その質問の意味を考えるようにクリムは首を傾げ……ヴェルムドールの隣に立つニノを見て「あー」と呟く。
 どうしてそんな質問が出たのかを理解したのだろう。
 何度も頷くと、ルーティへと満面の笑顔を向ける。

「いいえ! 私は純度百パーセントのメイドです! 勿論戦うこともできますけど、ねっ」
「そ、そうですか」

 純度百パーセントのメイドという新しい言葉にルーティは微妙な顔をするが、まあメイドナイトではないということは理解して頷き返す。

「えっと……そうなりますと武器は?」

 クリムが持っている箒では少々戦うには向いていないだろう。
 クリム自身も手の中の箒に視線を向け……それをそっと壁に立てかける。

「たぶんイチカ様が持ってきてくださると思います」
「まあ、そうだろうな」

 ヴェルムドールが相槌を打ち、そのタイミングでロクナが転移光と共に現れる。
 微妙に不機嫌そうなロクナの手にはいつもの長杖と……それとは反対の手に、金属製の長槍を持っている。
 ズカズカと歩いてクリムに無言で槍を押し付けるロクナを見て、ルーティ以外の全員は「イチカに押し付けられたんだな」と……本人に聞かずとも、そう理解していた。
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