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連載
祈国セレスファ5
しおりを挟む……そして、翌日。
更にイチカとイクスラースを加えた一行は、祈りの壁へと向かっていた。
流石に街中でアースワームを乗り回すわけにもいかないので歩きではあるが、「目立たない」などという思考はすでに捨てている。
何故ならば、まずは「英雄」ルーティ。
人類領域に住む者であれば子供でも知っている英雄を知らない者は居ない。
そして、メイドナイトのイチカとニノ。
いわゆる「知的な魔法使い」を地でいくロクナ。
黙っていれば涼しげな美女のファイネルに元気印のメイド、クリム。
更にこの中で一番身長は低いがミステリアスな雰囲気を持つイクスラース……ついでにアルム。
この美女・美少女軍団が連れ立っているだけでも多数の者は振り返る。
そして更に、少年期と青年期の中間程の中性的な顔立ちの青年、ルモン。
笑えば多少凶悪なものの、基本的には美形であるヴェルムドール。
少し離れて歩いているラクターが威圧感を出しているのを除けば、男女共に振り返らない者が居ないほどである。
更に一行が向かうのは街の最奥の「祈りの壁」であり、近づけば近づく程人が増えていく。
当然注目度も上がり……時折話しかけようとしつつも、諦める者の姿もチラホラ見え始める。
「……見られてるな」
「まあ、当然でしょう。人類の美醜の基準は僕等とそう変わりませんし。後ろのあの方がいなければ、囲まれてるかもしれませんよ?」
ヴェルムドールにルモンがそう答えると、一同の視線は最後尾のラクターへと注がれる。
山のような……というと大袈裟ではあるが、普通にしていても威圧感のあるラクターだ。
万が一機嫌を損ねて彼にぶっ飛ばされるかもしれないと考えたら、声をかけるのは中々に勇気のいることだろう。
「それにしても、人は多いのに店は少ないのう。この辺りは中央じゃろう?」
「セレスファにおいては必ずしも中央が栄えているという訳ではありません。このあたりだと、祈りの壁に隣接していますからね……観光にしろ冒険者にしろ、そちらに人は集まりますから」
観光と聞いて、ニノが馬鹿にしたように鼻で笑う。
まあ、実際に態度に現すか現さないかの差だけで、ここにいる面々の心境は似たようなものだ。
モンスター・エレメントはそのあたりにいるゴブリン等とは格が遥かに違う敵だ。
確実に「敵」であり確実に「害」を為し、その結果は常にどちらかの死。
それでいて、物理攻撃の通じない難敵なのだ。
そんな相手が壁の一枚向こうにいるというのに、それを観光などというのは笑い話にもならない。
「……まあ、エレメントはレプシドラから出てきませんからね。一部の人には、祈りの壁がエレメントを封じていると信じる人もいます」
「なんとも平和な話だ」
呆れたように言うヴェルムドールにルーティが苦笑し、イチカがその間にすっと入り込む。
「……それで。例の人物はもう、その壁の向こうにいるのですか?」
「その可能性はあると思います。彼女は闇の護符を持っていますから」
闇の護符。
それはかつてレルスアレナが語った、「エレメントに襲われない」という効果を持つペンダントである。
彼女はそれを貸す事を良しとせず、リューヤ達に一時的に同行していた経緯がある。
「彼女からしてみれば、どの場所よりもレプシドラの方が安全に感じるはずです。この近くまで来ていれば、街中よりも可能性が高いでしょう」
そうやって話しているうちに、街の端からも見えていた白い壁が近くなってくる。
街を守る砦代わりの壁とは違い、正しく「壁」としての役割しか持たない壁。
そこに設置された門は大きく開かれ、騎士達がその両端に立っているのが見える。
しかしながら警備というよりは立っているだけのようで、時折武具を纏った者達が入っていくのを気にもしていない。
「なあ、あの警備に意味はあるのか?」
そんなファイネルの感想も当然で、時折欠伸をしているのすら見える。
見張りの意味すらなさそうだ。
「あー……あれはですね。子供が悪戯で入り込むのを防ぐくらいの意味しかありません。中に探索目的で入る者に関しては自己責任ですね」
過去に色々あった結果です、とルーティは肩を竦める。
「自己責任ですか。便利な言葉ですが……まあ、そうするしかないのでしょうね」
イチカの呟きに、ルーティは頷く。
この街に来る者の目的は大抵がレプシドラであり、もっと言えばレプシドラに眠ると言われる「霊王国の遺産」である。
一つ持ち帰るだけでも相当な値がつくと言われ、その為ならば命くらいかけてやると豪語する輩は多い。
そしてそういう輩を制止して下手に怪我人を出すよりは、通してしまったほうがセレスファの騎士団としても色々な意味で後腐れが無いのだ。
何しろ命からがら逃げ帰ってくれば二度と挑戦しようなどとは思わないだろうし、帰ってこなければその者が再度無茶をすることはない。
今のところ見たことは無いが、もし目的を果たして帰ってくれば「更に儲けよう」と思わない限りは再度の挑戦をすることもないだろう。
……という風に、「通した」ほうが管理が結果的に楽になってしまうのだ。
「まあ、いいことだ。おかげで俺達が通ろうとも何も言う者はいないのだからな」
「その通りですね」
「そうだね」
ヴェルムドールの言葉にイチカとニノが即座に頷き、互いに睨み合う。
「……あー、お前等。こんな所でケンカを」
「おい、兄ちゃん。女侍らしていいご身分じゃ」
ヴェルムドールの拳が眼前に立ちはだかって何かを言いかけた男の腹にめり込み、男はガクガクと膝を震わせて倒れこむ。
「あー、なんだ。こんな所でケンカをするなよ?」
「……どの口が言うんですか」
邪魔だとばかりに男を蹴り転がしたヴェルムドールを見て、ルーティは額に手をあてて深い溜息をついた。
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