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連載
たとえ、この身は滅ぶとも10
しおりを挟む「ちょっと、用件くらい聞いてからでもいいんじゃないの?」
「聞く耳持たないと言いました。貴方達に恨みはありません。立ち去りなさい」
憤るロクナにそう返し、レルスアレナは杖で自分の立つ屋根をコツンと叩く。
「ああ、この街を傷つけるつもりがないのは理解しています。その点では、ご配慮感謝します」
「……それに免じて話を聞く気はないのか?」
「ありません。貴方達にどのような理由があろうと、私の答えは同じです。私はもう、誰の味方をするつもりもありません」
「……ヴェルムドール様」
「俺に任せておけ」
一歩前に出たイチカをヴェルムドールは手を伸ばして制止する。
実力行使するのは簡単だが、それではわざわざ此処まで来た意味が無い。
此処に来たのは、あくまで助力を請う為なのだ。
「……え?」
その様子をじっと見ていたレルスアレナは何かに気付いたかのように一瞬だけ驚愕の表情を浮かべ……再び無表情に戻りパチンと指を鳴らすと、クレイゴーレムはその手の平を上へと向けてレルスアレナの前へと上げる。
レルスアレナがその手の平の上に乗ると、クレイゴーレムはゆっくりと手を下ろしていき……片膝をつく格好で、レルスアレナを地上へと下ろす。
そうしてぴょんと地面へ降り立ったレルスアレナが指を再び鳴らすと、クレイゴーレムがざらりと崩れて土に戻っていく。
ただの小山になったクレイゴーレムをちらりと見た後、ヴェルムドールはレルスアレナへと視線を向ける。
「これは、話を聞く気になったと解釈しても?」
レルスアレナは、答えない。
無言のまま、ヴェルムドールの目の前へと近づき、その顔をじっと見上げる。
あらゆる感情が消え失せたかのようなその目に見上げられていたヴェルムドールは、その瞳の奥にあるのが「拒絶」であることに気付く。
まるで壁でもあるかのように理解する事、理解される事を拒んでいるのだ。
そうしてヴェルムドールを見上げていたレルスアレナはふいと視線を逸らし、今度はイチカの前へと移動する。
「……なんですか」
「……」
同じく無表情なイチカではあるが、レルスアレナと向き合っている姿は中々にシュールなものがある。
睨み合う……というのも正しい表現か分からない時間が過ぎた後、レルスアレナは再び視線を逸らす。
「ねえ、貴女何がしたいの?」
「……」
イクスラースの問いかけにレルスアレナは答えず、しかし今度はイクスラースの目の前へと移動していく。
そして、ヴェルムドールやイチカにしたようにその顔を覗き込もうとして……そこで初めて、レルスアレナの表情が僅かに変化する。
驚いたような……あるいは泣きそうな、そんな顔。
その顔はすぐに無表情へと戻り……レルスアレナは、ぽつりと呟く。
「やはり……まだ」
「え……」
思わず聞き返すイクスラースには答えず、レルスアレナはヴェルムドールへと視線を向ける。
「……魔王ヴェルムドール。こちらの方は?」
「イクスラース……大切な仲間だ」
「そうですか」
「それと、そのイクスラースについてだが……」
「魔王シュクロウスであり、霊王イースティアでもある」
ヴェルムドールの台詞に被せるように、レルスアレナが呟く。
本人とヴェルムドール……そしてヴェルムドールから直接教えられた者以外は知らぬはずの事実。
それを呟いたレルスアレナにヴェルムドール達は驚いたような顔を浮かべるが、レルスアレナは闇のように黒い瞳でヴェルムドール達を無表情に見つめている。
「……ひょっとしたら、とは思っていました。いつかまた、こんな日が来るのではないかと」
「……何の話だ。いや、お前は一体……」
ヴェルムドールはステータス確認の魔法を起動させる。
目の前のレルスアレナは普通のシルフィドではない。
それを理解したのだ。
名前:不明
種族:不明
ランク:不明
職業:不明
詳細:不明
「何……?」
「私を読もうとしましたね。ですが、無駄です。その対策は充分に出来ています」
「……そのようだ」
レルスアレナは身を翻し、ヴェルムドール達から離れるように数歩歩き……そこで、振り返る。
「提案があります、魔王ヴェルムドール」
「こちらの話は聞かないくせに、そちらからは要求か?」
「私の提案を受けてくれるなら、そちらの要求もある程度はのむと約束しましょう」
「ほう?」
「そういった用件なのでしょう? 悪い話ではないと思いますが」
「まあな」
相変わらず表情の読めないレルスアレナから視線を逸らさず、ヴェルムドールは考える。
突然のレルスアレナの態度の変化は気になるが、レルスアレナはイクスラースを「霊王イースティア」であると見抜いている。
レルスアレナが遺産の守護者であるというならば、「霊王イースティア」であったイクスラースはその正当な所有者にあたる。
ならば、無茶な要求はしないだろうと考えられる。
そうであれば、とりあえず「提案」とやらを聞くのは問題ないだろう。
そう考え、ヴェルムドールは頷いてみせる。
「……どんな提案だ? その内容による」
「難しいことではありません。私からの提案は、たった一つです」
レルスアレナはそう言って、イクスラースを指差す。
「彼女を、私に引き渡してください」
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