勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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たとえ、この身は滅ぶとも11

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「……え、私?」

 言われたイクスラースは思わず自分を指差すが、それを庇うようにヴェルムドールがイクスラースの前に出る。

「一応聞くが、引き渡した後どうする」
「それは貴方達には関係の無い事です」
「いいや、関係ある。イクスラースは大切な仲間だと言っただろう」

 ヴェルムドールはレルスアレナを睨みつけ……レルスアレナは、変わらない無表情な瞳でヴェルムドールを見る。

「大切な、仲間ですか」
「そうだ」
「一応聞きますが、魔王ヴェルムドール。貴方はその人の事をどの程度知っていますか?」
「ある程度の事情は知っているつもりだ。込み入った部分も含めて……な」
「そうですか」

 そう呟いて、レルスアレナは首をこてんと傾げる。

「なら、私が何故彼女を引き渡せと言っているのかも想像がつくと思いますが」
「あまり穏やかな意味ではなさそうなのでな。大体、エレメントの滅びはイクスラースのせいというわけでもなかろう」
「そうですね。ついでにいえば魔王……ああ、この言い方は貴方に失礼ですね。世界の敵であった事実についても彼女の責任とは言いがたいです」
「ならば」
「だからこそ、彼女を引き渡してほしいと言っているのです」

 その無表情とは逆に、レルスアレナの中で魔力が高まっていくのを感じてイチカとロクナがそれぞれ自分の武器に手をかける。

「意味が分からん。もっと分かりやすく言ってもらおうか」
「救済します」

 レルスアレナはそう言って、イクスラースをじっと見つめる。

「命の流れなどに戻ることが救いでないというのなら……今度こそ、利用されないように」

 殺気じみたものを感じ、ヴェルムドールも自分の剣に手をかける。

「私の中で眠ることこそが、救いとなるでしょう」

 レルスアレナの殺気がイクスラースへと向けられ……イチカが、動く。
 放置しておく事はもはや有り得ないが、ヴェルムドールの言う「話し合い」の為に、生かしておく必要はある……と、一瞬のうちにそう判断する。
 そうしてレルスアレナを昏倒させるべく放たれた一閃はしかし、展開された物理結界アタックガードに防がれる。
 そのままバックステップで下がるレルスアレナは懐から赤い宝玉を取り出し、投げる。

「来なさい、レッドオーブガーディアン」

 宣言と共に宝玉から炎が噴き出し……それはやがて赤く透き通る巨大なゴーレムへと変化し、轟音と共に着地する。
 レッドオーブガーディアンはそのままイチカへと蹴りを繰り出すが、イチカは難なく回避しレルスアレナへと迫る。
 だが、それを見越していたかのようにレルスアレナは青い宝玉を投げている。

「来なさい、ブルーオーブガーディアン」

 宝玉から噴出す水が青く透き通る巨大なゴーレムを産み出し、イチカを遮る。

「ちっ……!」
「誰より私は貴女を愛している。だから私は天を貫く墓標を用意しよう」

 レルスアレナはすでに、イチカの先……イクスラースを見ている。
 いや、元からイクスラースしか見ていないのだ。
 ヴェルムドールが反応して魔法障壁マジックガードを用意しようとしているようだが、恐らくギリギリ間に合わない。

尖槍の墓塔グレスケーティオ

 どこか呆然とするイクスラースの元へと一瞬で到達し、イチカはイクスラースを抱えて跳ぶ。
 二人が通り過ぎた跡に尖った土の槍が天を貫くかのように生え、イチカはイクスラースを放り投げる。

「しっかりなさい、イクスラース!」
「……ええ、ごめんなさいイチカ」

 イクスラースはイチカに答えると、ゆらりと立ち上がりレルスアレナを睨み付ける。

「……貴女、何者? ただのシルフィドじゃないわね?」
「ええ。正確には、元々の私はシルフィドではありません」

 イクスラースの問いに、レルスアレナはそう答える。
 レッドオーブガーディアンとブルーオーブガーディアンは左右に分かれ、レルスアレナに付き従うように立つ。
 これで、二人の間を遮るものは何も無い。

「それにさっきからの台詞……貴女は……まさか、あの時の生き残り……」
「ええ。といっても、ソウルイーターと化したこの身では生き残ったと言っていいのかは分かりませんが」

 ソウルイーター。
 だが、その姿はチェスターとは大分異なっている。
 不定形ではなく、シルフィドと同じ姿でそこにいるのだから。

「その身体の持ち主は?」
「私との融合に安息を求めた子です」
「……そう」

 イクスラースは、腰の短杖に手をかける。

「私は、私が利用された過去を知っている。だからこそ、今度は立ち向かう為に此処にいる。貴女が私の事を考えてくれるというなら……私達の力になってくれるという道もあるんじゃないかしら?」
「口ではなんとでも言えます。私はかつてそうやって勇者の口車に乗ったせいで、貴女を憎むべき悪として殺す手伝いをする羽目になったのですから。ええ、彼も口は上手かったし、悪意だってありませんでした」

 レルスアレナが杖を、イクスラースが短杖を互いへと向ける。

「それで全てが終わったなら、それでもよかった。でも、貴女は此処に居る。正常な命の流れではなく、貴女のままで此処に居る。そんな貴女の何を信用しろというのですか」
「待て、それは」

 言いかけたヴェルムドールの台詞は、次のレルスアレナの言葉で止まってしまう。

「私の事も覚えていないくせに。貴女が命の神の人形でないと……どうやって信じろというのですか、姉さん」
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