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連載
たとえ、この身は滅ぶとも20
しおりを挟む二つの影世界の異邦人とヴェルムドールの光の魔法障壁。
三つの魔法が打ち消しあい、魔力を散らしあう。
その状況は、現場から遠く離れたクリムにも充分過ぎる程に感じられた。
即座にクリムは周囲から比べると一際高い屋根の上まで登り……その光景を、見た。
ぶつかり合う、光と闇の魔力。
光の球体を呑みつくそうとするかのような、粘つく闇。
それはまるで、物語の中の光景のようで……クリムは屋根の上で、思わず立ち尽くす。
「……なん、ですかアレ……」
尋常ではない魔力のぶつかり合い。
そんな事が出来るとなると……恐らくは魔王ヴェルムドール。
慌てて向かおうとしたクリムの足元で、闇が蠢く。
それは闇の魔力を孕み……ゆっくりと、形になっていく。
「こんな時に……!」
素早く後ろへと飛びのき長槍を構えると、闇は盛り上がり人型をとる。
ダークエレメント。
闇属性の魔力の体を持つソレはしかし、クリムに背を向けたまま何処かを見つめている。
いかにも隙だらけで倒すのは簡単であったが、その行動が気になりクリムもダークエレメントの視線の先を確認すると、それは先程からの魔法の打ち消しあいであり……そして、今度はウインドエレメントが顕現し同じ方向を向く。
「……ナツカシイ……チカラ……」
ぼそり、と。
言葉にならない言葉しか喋らなかったはずのダークエレメントが明確な言葉を呟く。
「モドラレタノカ」
ウインドエレメントが、続けるように呟く。
それは、言葉にならない言葉などではない。
意味の通じない言語でもない。
明らかに、何かを示す明確な「意味持つ」言葉。
「モドラレタノダ」
光が集い、ライトエレメントが現れる。
更なるウインドエレメントが、ダークエレメントが……そして、地上ではアースエレメントが出現する。
「イカネバ」
「イカネバナラヌ」
複数のウインドエレメントが、クリムの頭上を通過していく。
アースエレメントが、ファイアエレメントが、ウォーターエレメントが。
レプシドラのあちらこちらの方角から、エレメント達が一つの方角へと向かっていく。
もはや彼等には、クリムのことなど目にはいっていないのだろう。
一斉に大移動を始めるその姿は、ただ一心不乱としか表現のしようがない。
思わずポカンとしたままそれをクリムが見送っていると……突然背後に何かがズシンと着地する音がして、クリムは即座に反応して振り返る。
こんな音を立てるならばアースエレメントであろう。
ならば即座に一撃を……と、そこまで一瞬のうちに考えて槍を構えたクリムの目の前に立つのは、漆黒の鱗に全身を包まれた、竜頭の男。
その背中にあるのもまた竜の翼であり、全身からはこれでもかというほどの威圧が放たれている。
どう見てもただの人間ではないが、魔族だとしても……こんな知り合いはクリムの記憶の中には無い。
「……うわ、なんかヤバいです。死んだかも」
思わず冷や汗を流すクリム。
どう控え目に見ても、勝てそうにはない。
この場にマリンとレモンがいたとしても、何秒持つか怪しいところだろう。
それだけの圧倒的実力差を感じるのだ。
「オイ」
かけられた声にクリムは即座に反応する。
この実力差では、恐らく逃げられない。
ならば、栄えある魔王城仕えのメイドとして一撃でも見舞わなければならない。
「鎧化ッ!!」
クリムの姿が赤い全身鎧に包まれ、空気を置き去りにするような炸裂音と共に「発進」する。
間違いなく自身最高の一撃。
しかしそれは、ゆらりと動いた竜頭の男が兜と化したクリムの顔を掴み持ち上げる事であえなく静止する。
……いや、掴むなどという生易しいものではない。
正面からクリムを破壊せず静止させる一撃と同時の「掴み」である。
明らかにクリムを捕獲する意図のある攻撃に、クリムは戦慄して。
「何考えてんだテメェは。ケンカっぱやいのもいいが、そんな場合か?」
「はれ?」
聞き覚えのある声に、驚きの声をあげる。
「その声って……まさか……ラクター様ですか?」
「魔力でわかんねえのか?」
「わかんないです。私、そういうの苦手ですし」
クリムはラクターの手を外そうとバタバタするが、外れるはずも無い。
「ていうか姿全然違いますし、あと手離してください! さっきからミシミシいって……あ、割れちゃう! 割れちゃいます! 乙女の装甲にヒビがっ!」
「魔人形態に戻りゃいいだろうが」
「あ、そうか……って痛いっ! 今度は頭の骨がミシミシいって……あーっ!」
魔人形態に戻ったクリムをポイと捨てると、ラクターは未だ続くエレメント達の大移動へと視線を向ける。
「……さっきから突然、エレメント共の反応がおかしくなりやがった。原因はどう考えてもアレだ。どうなってやがる」
「どうって……あたた、魔王様が何かやってらっしゃるんじゃ」
クリムが頭をさすっていると、ラクターはその頭にゴツンと拳を落とす。
「バカかテメェは。そんな事は見りゃ分かる。問題はあいつ等が何に反応したかだ」
「えぇ……? なんか戻ったとか行かなきゃとか言ってましたけど」
「戻った……?」
クリムの言葉の意味を考えるようにラクターは幾度かその言葉を繰り返し……やがて、チッと舌打ちをする。
「そういうことか」
「へ?」
「行くぞ」
「は、はい……ってヒャー!?」
ラクターはクリムの腕を掴み、そのまま飛翔する。
目指す先はエレメント達と同じ……三つの魔法のぶつかる先である。
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