453 / 681
連載
たとえ、この身は滅ぶとも21
しおりを挟むアルムを背負ったルモンは、誰よりも先に「その場」へと辿り着いていた。
二つの影世界の異邦人とヴェルムドールの光の魔法障壁が打ち消しあうその姿を見て、ルモンの背から降りたアルムが「おお」と感心した声をあげる。
「これは凄まじいのう。普通、一度防がれたら潔く消えるもんじゃが。どんだけ殺したがりなんじゃ、この魔法は」
「闇魔法は僕もあまり詳しくないですが、確かにこれは凄い……。人類の魔法史から消えたのは正解かもしれませんね」
「ちょっとあんた等……そんな事言ってる場合?」
現れるなり魔法の批評を始める二人に、ロクナがジロリと睨み付ける。
イチカも振り返りはしないが、殺気が漏れていることから怒りの程が伺えるが……二人は飄々としたものだ。
「と、言ってものう。下手に手出しもできんし。心配して今代魔王様があの闇魔法を消し飛ばすならば幾らでも心配するのじゃもが」
「まあ、それはさておき」
モガモガ言うアルムの口を手で塞ぐと、ルモンは人当たりのいい笑みを浮かべる。
「あの魔法障壁を展開してるのが魔王様なら、まだ時間はありますしね。それに……手が無いわけじゃないです」
「どういう意味ですか」
手が無いわけじゃない。
その言葉にイチカが反応し、ルモンに詰め寄る。
手詰まりであるからこそ、イチカもロクナもこうして見守らざるを得なかったのだ。
ヴェルムドールを助けるだけなら、どうにでもなる。
イクスラースを助けるのも、まあどうにかなる。
だがレルスアレナを含めた三人を助けるのは難しい。
それには、あの影世界の異邦人をどうにかしなければいけないからだ。
だが、その手立てがイチカ達には無い。
それを「無いわけじゃない」などと言われては、平静でいられるはずもない。
今にも掴みかかりそうなイチカを手で制して、ルモンはその背後の魔法障壁へと目を向ける。
「まあ、まず言うならアレ、魔法障壁ですから中に入るだけなら出来るんですよね」
「そんな事は知っています。それでどうにか出来るなら」
「ですから、僕が中に入ればまず半分は成功します」
ルモンはそう言って、すいとイチカを避けて歩き出す。
「……半分って言ったわね」
「ええ、言いました」
ロクナの投げかける言葉に答えながらも、ルモンは足を止めない。
「あとはまあ、上手くいけば全部どうにかなるでしょう」
「……一応、内容について聞いてもいいかしら」
「ダメです」
影世界の異邦人を弾き続けるヴェルムドールの光の魔法障壁の前に立ち、ルモンは振り返る。
「僕のとっておきですから。早々人様に公開するつもりはないんですよ」
「ほほう、自信がありそうじゃのう」
「ええ、そりゃもう。それにまあ……無くてもそろそろどうにかしないとまずそうだ」
何が「まずい」のかは、その場の誰も口にせずとも理解している。
この場に向かってくる、エレメント達の群れ。
その姿も気配も、増え続けている。
故に、ロクナもイチカもそれ以上は何も言わない。
これ以上の足止めは、状況を悪化させるだけだと理解しているからだ。
「じゃあ、行ってきま……おっと!」
光の魔法障壁の表面を滑るように流れる闇の魔力に触れそうになり、ルモンは慌てて下がる。
光の魔法障壁の隙を見つけようとしているかのような影世界の異邦人の標的はルモンではないが、だからといって触れて大丈夫というわけでもない。
「……」
ルモンは、じっと目の前を見つめ……タイミングを見計らって、一気に飛び込む。
魔法障壁は「物理攻撃を防ぐ機能」は無いがゆえに、その表面を覆う攻撃的な闇の魔力さえ回避できれば簡単に侵入できる。
「うわ、っとっと!」
ルモンの身体はゴロゴロと転がり、すぐに誰かの足元にぶつかって止まる。
「……お前は」
「あ、どーも。ルモンです」
振り返ったヴェルムドールに見下ろされ、ルモンは手早く立ち上がる。
その様子を見て再度ヴェルムドールが口を開くより先に、イクスラースがルモンを睨み付ける。
「何しに来たの、貴方」
「え、ええー……なんか邪魔者扱いですねえ」
「扱い、じゃなくてハッキリ邪魔よ。こんな所に来て……自殺志願なの?」
「あはは、まさか」
イクスラースの皮肉混じりの台詞を笑って流すと、ルモンはヴェルムドールへと笑顔を向ける。
「えーっとですね、魔王様。この場をどうにかする方法を持ってきました」
「どうにかする方法……だと?」
ヴェルムドールの中に浮かぶのは、たった今レルスアレナから聞いたばかりの「魔法を消す」事。
しかし、まさかそれではなかろうと自己否定する。
そんなものを目の前のルモンが使えるならば、それこそ「魔法使いキラー」と成り得る存在である。
そして……ルモンは優しげな笑顔のまま、言い放った。
「魔法障壁の周りを囲ってる魔法……これ、消しちゃいましょう」
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。