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連載
過去の話2
しおりを挟む城。
そこは霊王国が健在の頃より、そう呼ばれていた場所であった。
何故なら、霊王国において他に城は無く、故に「城」以外の名称をつける必要性をエレメントが理解できなかったからだ。
主の消えた今でも「廃城」と呼ばれぬのは、長い時を経ても破損一つ見つからぬ故だろうか。
そんな城のホールで、リューヤ達は呆けた顔をしている。
「えーっと……」
ガランとした広い城のホール。
遮る物の何も無いホールはただ広く……そして、何も無い。
机や椅子がという意味ではなく、壁も扉も何も無い。
そして、階段すらないのだ。
唯一天井に穴らしきものが空いているが、別に破損ではなく計算して開けている風である。
しかし近くには階段も梯子も無く、リューヤ達の反応はそれゆえである。
「階段……ない、な」
「実は城の裏から入るんじゃねーの?」
「そもそも、この一階部分……家具は何処にいったんでしょう?」
わいわいと意見を交換し合うリューヤ達に近づいたレルスアレナは、「どいてください」と言って懐から赤い宝玉を取り出す。
「お、何それ。まさかそれをどっかに嵌めこむと階段出てくるとか?」
「階段なんか何処探したってありませんよ。さあ来てください、レッドオーブガーディアン」
「ないって……うおおお!?」
すぐ側にズシンと音を立てて降り立った赤い巨人にリューヤが驚き後ずさる。
踏み潰されるか否かという距離に巨人が降り立てば当然の反応だが、レルスアレナは気にした様子も無い。
何しろ警告はしたし、リューヤ以外は全員下がっているのだ。
「この城はエレメントが、建物という概念と役割をあまり理解せずに作ったものですから。普通の人類が暮らすのはちょっと難しいです」
逆に言えば、防衛には非常に向いた造りではある。
……とはいえ、研究されつくしてしまえば意味は無い。
実際そうして、滅びの日にはアッサリと攻略されてしまったのだが……。
「ふ、踏まれるかと思った……」
「だからどいてくださいと言ったでしょう。馬鹿なんですか」
「うぐっ……いやでも」
「レッドオーブガーディアン。それを上の階に投げてください」
えっ、と驚きの声をあげるリューヤをレッドオーブガーディアンは握り締め、頭上の穴に向けて文字通り放り投げる。
「どわあっ!?」
回転しながら飛んでいくリューヤは空中で体勢を無理矢理に変えて、そのまま転がるように二階の床へと着地する。
流石に文句を言おうとリューヤが穴を覗くと……ひょっこりとルーティの頭が生えてきてリューヤの額を強打する。
ガン、という痛そうな音と共にリューヤは額を押さえ、中途半端に穴から体を出していたルーティも涙目で頭を押さえる。
「い、いってえ……って、何ィッ!?」
ルーティが穴から「生えて」きた理由は、その下に居るレッドオーブガーディアンが自分の手に乗せてルーティを上へと上げたからである。
そんなことが出来るなら、何故自分の時もやってくれなかったのか。
そんな抗議は、ルーティの「いきなり顔出さないでよっ、危ないでしょ!」という頬をつねられながらの説教によって口から出る事は無く……次から次へと仲間達が登ってくる。
「じゃあ、行きましょうか」
最後にレルスアレナが登ってくると、レッドオーブガーディアンをそのままにして奥へと進んでいく。
「あれ? あのゴーレムどうするの?」
「帰りに回収します。ここからでは元に戻してもオーブを回収できません」
「ええ? でも、それじゃ盗られ……ないか」
佇むレッドオーブガーディアンの巨体を見てルーティはそう呟く。
あれを盗もうとするなら倒してオーブに戻す必要があるが、エレメント達とレッドオーブガーディアンを同時に相手出来るほどの者がいるかどうか。
自分達だって、「エレメントに襲われない」というレルスアレナがいるから体力を消耗せずに此処まで来れているのだ。
この城に来てからだってそうだ。
レルスアレナがいなければ自分達は今頃、エレメントを相手にしながら有りもしない仕掛けや外階段を探してウロウロしていたかもしれない。
「おーい、ルーティ? 行くぞー?」
「あ、こら、待ってよ!」
レルスアレナは何者なのか。
その疑問を胸の奥に沈めて、ルーティはリューヤ達を追いかけて走る。
リューヤ達が上がってきた二階の部屋の出口にはやはり扉は無く、出入り口も「壁に穴を開けた」という風の丸型だ。
先程のレルスアレナの言葉を借りるなら、「扉という概念」もこれを作った同時のエレメントにはなかったのかもしれない。
あるいは、「部屋」という概念を理解していたかも怪しい。
「こういうの、テリアは好きそうよね」
「そうですね。思う存分研究してみたい欲求はありますが……今は無理ですね」
目をキラキラと輝かせていたテリアはしかし、残念そうに首を横に振る。
テリア曰く、このレプシドラには未知の魔法……それも生活に根ざした魔法が数多く眠っている可能性があるらしい。
「でも、この町に来てレルスアレナさんの仰っていた事が実感できました。エレメントは本当に他の人類と共存しようとしていたんでしょうね。この町は、その歩みをそのまま残しています」
「……だが、それをそのまま伝えても納得する者は少ないだろうな」
ジュノの尻尾が悲しそうに揺れ、ルーティも黙り込む。
エレメントは人類社会では、「倒されるべきだった悪」として大多数に認識されている。
それを元にした詩や物語もたくさん存在し、モンスターのエレメントの存在がそれを加速させている。
エレメントが実は……などと伝えたところで、一笑されるだけに過ぎない。
それがたとえ勇者の言葉であれ、人の価値観はそう簡単に変わらない。
ずっとそうだと信じてこられたものであれば、尚更だ。
「……それでも、私達はこの旅が終わったら伝えねばならないでしょう。正しくある事こそが、私達が邪悪と対決できる最大の武器なのですから」
「そうね。私も帰ったらサリガン王に伝えてみる。このままでいいはずなんて……ないもの。ねえ、リューヤも協力してくれるでしょ!?」
廊下の少し先でレルスアレナやデュークと何かを話し込んでいたリューヤは振り返り、満面の笑顔で親指をグッと立ててみせる。
「ああ、任せろ! つーか心配すんなって。王様も皆イイ人達だったし分かってくれるよ!」
そんな単純な話でもないんだけどなあ……と思いつつも、仲間達は笑う。
正義は必ず勝って、物語はハッピーエンドに終わる。
そんな御伽噺も、リューヤとならば叶えられるかもしれないと……そんなことを、思ったからだ。
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