勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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迎え撃つ者達

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 それは、無限の零。
 何処まで行こうと何も始まる事は無く。
 何時まで待とうと其処には終わりしかない。
 此処は世界からも切り離された場所。
 漂い停滞し続ける、虚ろな空間。
 次元の狭間と呼ばれるこの場所に浮かぶのは、一つの巨大な島。
 そう、それを表現するには島と称するしかないだろう。
 この虚ろな空間に浮かぶこの場所を表現するには、他に一つの言葉くらいしかない。
 中央の、巨大な城。
 そして、その周りに広がる街。
 これだけで完結するこの場所は……あるいは、国と呼ぶ事も出来るだろう。
 あるいは、本来の名前で呼ぶべきならばこうだろう。
 次元城アヴァルディア。
 アルヴァの本拠地にして、アルヴァクイーンの座す場所。
 故に、街に暮らす者もまた人類ではない。
 其処に暮らすのは、無数のアルヴァ達だ。
 下町と呼ばれる最下層に、通常型のアルヴァ達。
 そして城に近づくほど、変異型や高度な知能を持った特殊型などが暮らす場所に近づいていく。
 そして、その中央。
 美しい半透明の材質で出来た城は虹色に輝き、アルヴァクイーンの威光を示す。
 この城でアルヴァクイーンと共に過ごす栄誉を与えられるのは、一部の選ばれし者のみなのだ。

 その城の最上階……玉座の間にて、二人の人物が向き合っている。
 一人は玉座に座る、ウェーブがかった長く美しい髪の先を弄っている美しい女。
 均整のとれた身体を覆うドレスにも似た赤い服もまた美しい。
 輝く金色の瞳は、遠い何処かを見つめるかのようで……ひどく退屈そうだ。
 百人に聞けば、おそらく九十人はその女を「美しい」と答えるであろう。
 残りの十人は……おそらく、「恐ろしい」と答えるだろう。
 そしてその認識は、正しい。
 この女こそが「疑心の魔王」と呼ばれるアルヴァクイーン……グリードリースなのだから。

「……聞いておられるのですか!」

 それに対して叫んだのは、赤いローブと白い仮面の魔族。
 苛立たしげに杖で床を突くその魔族の名前は、杖魔。
 かつても今も陰謀を巡らし人類社会を乱す魔族であるが……いつも冷静沈着を気取っている杖魔は、明らかに焦った様子を見せている。
 対するグリードリースは、明らかに杖魔の話をどうでもいいという風である。

「聞いてるわよ。暗黒大陸の連中が攻めてくるってんでしょう?」
「シュタイア大陸の人間共もです! 奴等の中には勇者を名乗る男もいる……! これが如何に危険な事か、貴女はお分かりでない!」

 勇者トール。
 そう名乗る者が最近各地で精力的に活動しているのは、杖魔の耳にも入っている。
 かつての勇者リューヤを思わせる速度での成長は、その「勇者」が自称ではない事を杖魔に明確に感じさせている。
 そんな中、魔王ヴェルムドールのザダーク王国がジオル森王国を通じて各国に送った「次元の狭間のアルヴァに対する出兵要請」は各国を震撼させた。
 アルヴァの存在は各国の頭痛の種であったが、魔族ということで魔王ヴェルムドールの関与を疑う者も居た中……その魔王自身から「アルヴァの本拠地へ攻め込むから協力して欲しい」という連絡が来たのだ。
 この要請は四大国向けではあったが、中小国もその話を外交ルートを通じて受け取っていた。
 このうち、闘国エストラトは早々に参戦の名乗りをあげた。
 他の国は様子見というところも多かったが……祈国セレスファだけは、レプシドラのエレメント達の様子の変化を理由に参戦を見送ると発表した。
 四大国ではキャナル王国が「騎士団の派遣と積極的な支援」を表明した。
 わざわざ「積極的な支援」とつけているのは、騎士団の派遣が全力とはいかないからだ。
 これはキャナル王国自身がまだ内戦からの復興中であるのが理由だが、それでも積極的な参加をするという宣言でもあった。
 他にも、ジオル森王国も参戦を表明。
 詳しい構成は協議中だが、英雄ルーティがその出兵メンバーに入っているとの話もあわせて発表された。
 ……そして、他の二国。
 サイラス帝国は今、御前会議が紛糾している。
 具体的には、ザダーク王国に協力し人類の敵を討つべきとする「銀の第二席」トルクレスタと、今回は後方支援に留めるべきとする「銀の第一席」シャイアロンドとの争いが御前会議の中で派閥を構成し激化しているのだ。
 最後に、聖アルトリス王国。
 この国はおおよその国の予想を裏切り、早々に参戦を王が決定した。
 しかしながら、まだ「参戦する」という宣言が出来ていない。
 何故なら誰を派遣するかという段階になると、これが中々決まらないのだ。
 勇者トールを早々に呼び戻す事が決定したものの、それについていく騎士をどうするかで揉めているのだ。
 亜人論が騎士の中にも広がり始めたせいで騎士の中には参加したくないと言う者が出るかと思いきや……実の所、それを超える反応が騎士団の中からは出ている。
 具体的には、「この人類共通の危機に対し、我等人間の騎士達が他の国を統率するべき」と真面目に上奏する騎士達がいるのだ。
 その他にも、「これは魔王の罠であり参戦をやめるべき」だとか「勇者様に魔王を倒すよう進言するべきだ」などと大真面目に述べる者もいる。

 当然だが、そんな事をされてはたまらない。
 人類の敵であるアルヴァを倒そうと呼びかける相手を殺そうとするというのでは、下手をすれば聖アルトリス王国自体がアルヴァの手先と言われる可能性すらある。
 故に、国王であるアルジュエルはその危険性の排除の為に苦心している最中であったりする。

「どれだけ融合者共を動かそうと、恐らくは「正義」の御旗の元に勇者は来るでしょう……そうなれば!」
「……何の問題があるのかしら」
「は?」

 杖魔の演説を遮って、グリードリースは杖魔へと視線を向ける。

「ヴェルムドールが来る。勇者が来る。ついでに人類共の軍も来る。それがどうしたの? 此処は何処?」
「次元の狭間は、もう絶対の不可侵足りえない! あのヴェルムドールは、すでに手段を手に入れて!」
「……だから、ね。その手段とやらはこの次元城に直結するようなものなのかしら?」
「それ、は」

 反論できずに固まる杖魔に、グリードリースは溜息をつく。

「来るというなら来ればいいじゃないの。この次元の狭間は私達の領域。そして軍勢は無限……迎え撃つ準備も万端よ?」

 分かったら行きなさい……と言うグリードリースに、杖魔はまだ不満そうにしながらも一礼して去っていく。
 その姿を見送った後、グリードリースは口の端を歪めて笑う。

「くふ……くふふっ! そう、来るのね! ああ……楽しみ……楽しみだわ! だって私……この時を待っていたんだもの!」

 玉座の間に、グリードリースの笑い声が響く。
 それを聞く者は……この場には、居ない。
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