勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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投げかけられた問い6

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 魔王という種族。
 人類でもなければ魔人でもない、たった一人の種族。
 ヴェルムドールは今まで、それにあまり悩む事は無かった。
 何故なら、「進むべき場所」があまりに明確であったからだ。
 そして、自分の手を取り進んでくれる導き手がいたからだ。
 故に、迷う理由が無かったのだ。
 そういう意味ではグラムフィアとヴェルムドールの違いは「前例があったか」という点と……イチカの存在の有無だろう。
 もし、それがグラムフィアにあったら。
 もし、それがヴェルムドールに無かったら。
 それを想像することに意味は無いし、同情すれば何かが変わるわけでもない。
「どう在るべきか」という問いになど、本来答えが出るはずも無いのだ。
 その場で「そうしなければならない」「そうするべき」であることであっても、時代が移り変われば評価も変わる。
 聖人が狂人に。
 狂人が聖人に。
 それが本当に正しいかどうかなど、所詮「その時点」での主観にしか過ぎない。
 故に、ヴェルムドールのやっていることだって「現時点でヴェルムドールが最良と考える事」を実行しているに過ぎないのだ。
 
「……期待するのはいいが、そんな謎とやらが解けるかは知らんぞ」

 その「謎」の答えを持っているのは、あの魔神だけであろうとヴェルムドールは思う。
 あの不可思議な空間に存在する魔神の思惑を理解する事など出来るかは不明だが……思えば、アレはヴェルムドールがフィリアと敵対すると分かっていて送り込んだはずだ。
 とはいえ、魔神は一度だって「フィリアを倒せ」とは言っていない。
 言外にそれを匂わせたこともない。
 それどころか、何をしても自由であるかのような言い方すらしていた。
 わざわざ「勇者に魔王が倒された」という警告つきで……だ。
 思い返せばこれがヴェルムドールが慎重政策をとるようになった理由であるし、現在の状況に繋がる切っ掛けでもある。
 イチカをつけたということは多少の応援をする気はあるのだろうが……前回会った時の態度を見る限り、どうにも「ヴェルムドールの味方である」とは言い切れないようなものを感じてもいた。
 一言で言えば「どうでもよさそうな」態度であった。
 実際、魔王が暗黒大陸にいることで何かが変わるのかといえば……「魔王でなければならない」問題というものは、今のところ存在していない。
 ザダーク王国の建国も統治も、言ってしまえばラクターがその気になりさえすれば似たようなものを造れたことだろう。
 更に言えば「王」でなければ出来ない事と「魔王」でなければ出来ない事は違う。
 王の仕事が統治であるならば、魔王の仕事はなんだというのか。
 何故「強力な魔人」ではなく「魔王」だったのか。
 その理由は、ヴェルムドールにも未だ見えていない。

「それでも、きっと僕よりは可能性が高い」
「……そうか。ならば、期待せずに待っていろ」
「そうします」

 ルモンは笑い……自分の目を指差してみせる。

「では、そんな魔王様に僕が解いた……たった一つの謎についてお伝えしましょう」

 ルモンは自分の目元を指で軽く叩き、ヴェルムドールの目元と交互に指差してみせる。

「僕にはすでにありませんが……魔王様の目。それについては?」
「威圧の魔眼の効果を発揮したのは確認している。色も赤いしな……間違いなかろう」
「なるほど。確かに威圧の魔眼の特徴はあります。けれど、それだけではありませんよ?」

 ルモンは再び自分の目元をトン、と叩く。
 ルモンの眼にはどの魔眼の特徴も発現してはいないが……恐らくは、普通の眼なのだろう。

「魔王の持つ目は、最低でも複数の魔眼の能力を有しています。まあ、サンプルはグラムフィアだけですけどね」

 グラムフィアの使えた能力は三つ。
 一つ目は、相手を威圧する「威圧の魔眼」。
 二つ目は、金属に干渉する「銀の魔眼」。
 三つ目は、任意の空間の魔力を爆発させる「破壊の魔眼」。
 そして、そのすべてが高ランクのものである。
 
 低いレベルでならば発現率がそこそこ高いと言われている威圧の魔眼と違い、他の二つ……銀の魔眼と破壊の魔眼は、それこそ伝説級の発現率である。
 威圧の魔眼とてイチカのもののようなランクとなると過去に存在したかどうかも怪しく……故に、その能力を三つも所持していたというグラムフィアの話は中々に信じがたいものである。
 だが……もしヴェルムドールのものも同じであると考えると、大分戦術に幅が出てくる。

「……ふむ」

 ヴェルムドールは手近にあった赤鉄製の指輪……観光における土産物のサンプルとして置かれていたそれをじっと見つめ、試しに「曲がれ」と念じてみる。
 すると、ヴェルムドールの眼は赤く輝き……しかし、赤鉄の指輪は曲がるどころか微動だにもせず……ヴェルムドールは小さく溜息をつく。

「どうやら、俺には銀の魔眼の才能はないようだな」
「ん……いえ、それはどうでしょう。赤鉄は魔力をそれなりに含む金属ですから、簡単にはどうにかならないと思いますよ」
「それに、先程発動していたのは威圧の魔眼であったようですが」
「そうなのか」

 なるほど、言われて見れば「曲がれ」と相手に向けて念ずるのも威圧に似ているだろうか。
 それに、ヴェルムドールは銀の魔眼の使い方など知らない。
 複数の魔眼の能力があるというならば使い分けも重要になるのだろうが……。

「……ルモン、お前はどうやって覚えたんだ?」
「妻のうち三人が魔眼持ちだったもので」
「そうか」

 全く参考にならない助言を受けたヴェルムドールはそう答えると何かを考えるかのように天井を見上げ……数瞬の後に「やめておくか」と呟いたのだった。
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