497 / 681
連載
魔神の見た光景10
しおりを挟むそれは、無限の暗闇。
何処まで行こうと果ては無く。
何時まで待とうと明けは無い。
光が在るのは、ただ一点。
闇の玉座に座す者のいる、この場のみ。
その玉座に座すのは、黒髪の少女。
赤く輝く目が、それがただの人間では無い事を自己主張している。
しかし、それがその真の姿というわけではない。
だが、真の姿があるというわけでもない。
1人の人間の嗜好に合うように姿を成したらこうなったという、ただそれだけ。
名すら放棄したそれは……魔神、と呼ばれるモノだ。
魔神。
あらゆる魔の母。
あらゆる魔の父。
あらゆる善の根源。
あらゆる悪の理由。
あらゆる善の原型。
あらゆる悪の墓場。
あらゆる矛盾の始まり。
あらゆる理論の終わり。
あらゆる全てが「理由」を知るこの場所で、魔神は玉座に深く腰掛ける。
魔神がパチンと指を鳴らすと、彼女の周囲には無数の四角い窓が現れ……その全てに、違う場所の光景が映し出される。
そうして魔神が指を鳴らす度に映し出される光景が一つ、また一つと消え……そして最後に一つの光景だけが残る。
手元に引き寄せた「窓」の中に映し出される光景は、何処か清浄な雰囲気を宿す場所であった。
そこは、何処とも分からぬ場所から差し込む光に満たされた場所。
部屋のあちこちを流れる水もまた清浄な気配を宿しており……魔力の満ちた輝きをも放っている。
そんな部屋の中央にあるのは、一組の男女の姿。
一人は、白い衣を身に纏う女。
青く長い髪を後ろで太い三つ編みのように編みこみ、その顔には明らかな疲れが浮かんでいる。
ぐったりと玉座に座る姿には、「疲労困憊」という言葉しか浮かばないであろう。
もう一人は、鎧を纏った男。
一見ただの人間のように見えるが、額に薄く青い光を放つ石のようなものがあるのを見るに、人類ではあるのだろうが「人間」ではないようであった。
女に傅き頭を下げる姿は従者のようでもあり、神官のようにも……あるいは騎士のようにも見えた。
深く傷ついたその姿は、女よりも更に深く疲れきっているように見えた。
鎧はあちこちがひしゃげ、肩鎧も割れてなくなってしまっている。
その手にある剣も中程から折れ、激戦の後をうかがわせている。
「……ご苦労様でした、ルトガード。貴方が居なければ、今回の事態は抑え切れなかったでしょう」
「いえ。私など、結局は貴女様の足を引っ張ったばかり。この身の鍛錬の不足を嘆くばかりです」
男……ルトガードはそう言うと謝罪するように更に深く頭を下げ……そのルトガードの体を、薄い輝きが包む。
その輝きはルトガードの傷を癒し、それに気付いたルトガードが驚いたように顔を上げる。
「何を言っているのですか。私は貴方ほどの忠義者を知りません。とにかく傷は癒しました。装備も後ほど新しい物を授けましょう……ゆっくり休みなさい」
「……有り難き幸せ。二度と無様は見せませぬ」
「期待しています。まあ、私は貴方の無様な姿など見たことはありませんけれどね」
疲れた様子ながらも優しげに微笑む女の姿に心を打たれたようにルトガードは涙ぐみ……しかし、すぐに表情を引き締める。
「しかし、アクリア様。何故今になってアレが現れたのでしょうか? 世界の魔力の流れ自体は安定していたはず……」
「そうですね。基本的には安定していました。しかし、つい最近……一瞬だけ、異常が発生していました。恐らく感知できたのは私とその同類程度のものだったでしょうが……」
ルトガードが疑問符を浮かべているのを見て、アクリアはそう呟く。
魔神。
そう呼ばれるモノの力がこちらに漏れ出した事で、この世界は大きく揺り動かされた。
暗黒大陸に新しく生まれた魔王のことといい、魔神は今まででは考えられない頻度でこの世界に関わってきている。
その契機は、あるいは「魔王グラムフィア」の死なのかもしれなかったが……それにしては長年放っている。
やはりそれは関係なくて、もっと別の理由があるのかもしれないが、それを想像するには材料が足りな過ぎる。
そこまで考えて……アクリアの言葉を黙って待っているルトガードに気付き、アクリアは咳払いをする。
「詳細は不明です。しかし、あそこまで痛めつければ、しばらくは再度封印を破って出てくる事はないでしょう……問題があるとするならば」
「欠片ですか。確かにあの戦いで、相当数の欠片が散逸した可能性があります」
「ええ、何処まで広がったか予想もつきません。せめて悪しき者の手に渡っていなければよいのですが……」
その会話を聞いて、魔神はクスリと笑う。
「魔王シュクロウス」がそれを手にしていたなど……そして打倒されていたなど、今の彼女達には想像もつかないのだろう。
それだけではない。
その「欠片」は、シュタイア大陸にも広がっている。
まあ、魔神としてはそう嫌がるようなものでもないと思うのだが……考え方は色々あるものだ、と思い直す。
その多様性を魔神は否定しないし、むしろ好ましいものだとも思っている。
「誰もが同じ方向を向いている世界なんて……安定はしてるんだろうけど、その代わり発展もしやしない。僕はごめんだね」
そういう意味では魔神にとって、今の状況は好ましいものだ。
あの「魔王シュクロウス」の残骸のようなものでも、あそこまでになったのだ。
今後どんなものが飛び出してくるかを考えると、乾いた心に瑞々しさが多少なりとも戻ってくるかのような気分になる。
「ああ、こうなるとまだ僕がヴェルムドールに呼び出されていないのは、彼にとって幸運だったのかもしれないね? 偶然か故意かは分からないけど、それも含めて彼の実力なのかもしれない!」
最後に残った窓も魔神が指を鳴らすと消え、代わりに巨大な窓が現れる。
そこに映し出された男の顔を見て、魔神は本当に楽しそうな顔で笑う。
「ヴェルムドール。君だけが、僕の今の楽しみだ。もっともっと、僕を楽しませてほしいな」
その言葉はヴェルムドールには届かない。
この光景もまた、誰も見る者は居ない。
これはただ、魔神のみが見る光景である。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。