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連載
祈国セレスファの今
しおりを挟む祈国セレスファ。
モンスターのエレメント達が跳梁跋扈するレプシドラの状況を「エレメント達の怒り」として、それがやがて収まるように祈る事と、それが成るまで周辺へ被害が拡散しないように樹立されたのだとされている国だ。
その実体は「闇の巫女レルスアレナ」による「レプシドラを守る」為の裏での動きがあったわけだが……それでも、祈国セレスファはその表向きの建国理由通りに活動している。
人とは不思議なもので、一度常識がそうであると固まれば疑う事を異常として忌避する傾向がある。
そしてまた同時に、綺麗事を尊いものとして有り難がる傾向もある。
この二つが合わさると、一見非現実的に思える綺麗事でも長年の「常識」故に疑わずに愚直に守り続けようとするのだ。
これは典型的な破滅への道筋であるが、そこに実利があると少しばかり話が違う。
祈国セレスファの掲げている「綺麗事」は周辺国にとっても「自分ではやりたくないが他人がやってくれる分には尊重できる綺麗事」であり、それ故に色々と御託をつけて支援しようとする「善人」が国家レベルで存在していた。
人類領域にその名を轟かせる四大国もその例に漏れず、祈国セレスファは中小国の中では唯一といっていい程にその地位を安定させている。
それは軍事力といった点においても同様で、祈国セレスファは中小国の中では最大規模ともいえる騎士団を所有している。
これもまた「レプシドラへの対処」という建前あってこその堂々とした拡張の結果と言えるが……勿論建前だけでなく、セレスファの騎士団はきちんとレプシドラへの警戒を行っている。
……まあ、そうはいっても実際にエレメントが暴れでもしたら何処まで役立つかは不明だ。
彼等の実際の業務はレプシドラを覆うように造られた「祈りの壁」の周囲での警備活動くらいのものである。
少し前まではレプシドラに入ろうとする「遺産狙い」達の管理。
そして今は、そういった連中を出来る限り入らせないようにする為の警備である。
「……だからどうして入れないんだ!」
「言っているだろう! エレメントが近頃特に凶暴化している! 危険なんだ!」
硬く閉じられた「祈りの壁」の門の前で、「遺産狙い」の一団と騎士達が喧々囂々と言い合いを繰り返す。
「遺産狙い」といっても実力は様々で、モンスターのエレメントを倒した事のある集団もいれば、おこぼれ狙いの「自分の身は何とか守れる」程度の連中、そして一攫千金を夢見た無謀者など様々である。
祈国セレスファの建国目的である「祈り」を自分もしようとやってくる巡礼者も時としているが、そうした者達は騎士が中に入るのを止めれば仕方ないと壁の外から祈って満足する。
しかし「遺産狙い」達はそうはいかない。
危険だから帰れと言われて変えるくらいなら、そもそも「遺産狙い」などやってはいない。
まあ、物分りのいい者達や動物的勘の働く者達は騎士が本気で止めているのを見て何かを察して帰っていくこともあるが……そうしない者達もいる。
そういった者達の中には「エレメントが沈静化でもして、それ故に自分達だけで儲けようとしているのではないか」と考える者も当然いる。
そうなるとまあ、絶対に帰る訳がない。
むしろ何としてでも入ろうとする為、壁を乗り越えたり壊そうとする者すらいる。
勿論壊そうとする者は見つけ次第捕らえているが、乗り越えようとする者に関してはもうどうしようもない。
そして自信のある者についても同様である。
いくら「エレメントが特に凶暴化しているから入るな」と言ったところで、聞く耳など持つはずもない。
「俺達なら問題ない! エレメントなら何度だって倒してきた!」
「そういう問題じゃないと言っているだろう。とにかく今日は帰れ。この門は絶対に開かんぞ」
騎士達が睨みをきかせると、流石にそこを強行突破しようと思うほど愚かではなかったのか男達は悪態をつきながらも去っていく。
その背中を溜息をついて見送りながら、騎士の一人が呟く。
「連中が死んで終わりなら、それはそれで楽なんだがな」
「おい、そんな事を言うな。誰が聞いてるか分からんぞ」
窘めながらも「誰も聞いてない場所なら」容認するかのような事をもう一人の騎士は言う。
自分も同じ気持ちだと白状しているようなものだが……今までがそうだったから、それで済むのであれば一番手っ取り早いのにと思っているのも確かなのである。
何しろ此処で追い返された連中は、大抵酒場で呑んだくれる。
そうしてくだをまいて絡んで、最終的に騎士に捕まって頭を冷やす羽目になる。
そうした問題の多発による治安の低下が実に悩ましく、解決するには通してしまうのが一番早い。
そうした部分が今の発言に繋がるわけだが……だからといって今は、本当に通すわけには行かないのだ。
何故なら……今まで頑なにレプシドラから出ようとしなかったモンスターのエレメント達が、時折レプシドラの外に彷徨い出ようとするようになったからである。
そうしたエレメント達が「遺産狙い」達を追って祈りの壁を越えようとすることもあり……今のところ対処できているが、今後はどうなるか分からない。
故にセレスファの騎士団は、エレメント達を刺激しない方向に移行したというわけである。
かくしてレプシドラの中は騎士達の頑張りによってエレメント達と潜り込んで死人となった以外の者は存在しない。
……少なくとも、今この瞬間は。
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