勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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闇の中へ

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 誰も居ない。
 生きている「人」は、今この瞬間までこのレプシドラの中には無かった。
 そう、今この瞬間までは……の話ではあるが。

 レプシドラの中に存在する、城。
 名前はなく、ただ「城」とだけ呼ばれるその場所の前に、複数の転送光が集まっていく。
 最初に集まり弾けた転送光の中にはイチカ。
 続けてヴェルムドール、そしてサンクリードとイクスラースといった面々が続く。
 初見の場所には難しい転移も、一度来た場所であれば何の問題も無い。
 そして更に言えば、ルーティに連れてきてもらった時のような遠慮……つまり正当な手続きを踏んだ旅すらもすでに必要ない。
 あれはルーティという超有名人を連れていたからこそ必要だった儀式のようなものであり、ヴェルムドール達だけであればどうなっているか分からない初見の場所に行くのでも無い限り必要のないものだ。
 ……故に、今回は前回ラクターが到達したこの場所まで直接転移してきたというわけだ。
 ヴェルムドールがこの場にいると知れれば結構な騒ぎになるかもしれないが、この場所はレプシドラの中でも特に奥のほう故に一般人などには会わないだろうという打算も当然ある。
 まあ、万全を期すのであれば外ではなく建物の中に直接転移したかったところだが、入り組んでいるこの奇妙な「城」の中に転移するのは色々と難しいであろうという結論に達したのだ。

「……問題ありません。周囲には我々以外はいません、ヴェルムドール様」
「ああ」

 辺りの気配を探っていたイチカの宣言通り、周囲にはヴェルムドール達以外の姿はない。思わぬ出会いをする可能性もない。
 まあ、レプシドラで現在「祈りの壁」の門を閉鎖しているという話は諜報部隊を通じてすでにヴェルムドール達へと伝わっている。
 それでも此処に誰かいるとなればまさに壁を乗り越えエレメント達をかわすか倒すかしてきた猛者であり、そうした人間がいないかどうかイチカが周囲の気配を探っていたわけだが、どうやらその心配も無い。
 ……つまり、何の問題も無いということだ。

「もう記憶は微かだけれど……そういえば、こんな城だったわね」

 城主であるイクスラースが、城を見上げて呟く。
 少なくとも見た目だけはまともな城に見えるこの城は、中身は奇想天外のアトラクションのような有様である。
 建物の持つ様々な意味を理解しないままエレメント達が外見だけを真似て作った城だから仕方ないのだろうが……そう、「見た目だけ」は立派な城なのだ。
 故にイクスラースの視線を追うようにしてヴェルムドールも城を見上げ、ほうと呟く。

「中々に立派な城じゃあないか。何処の城を参考にしたんだ?」
「さあね。作った頃に存在していた城のどれかなんでしょうけど、私は「最後の王」であって「最初の王」じゃないわ」
「それもそうだな」

 あっさりと頷きヴェルムドールは城から視線を外す。
 それ程興味が無いというのもあるが、イクスラースが何処か遠くを探るようにじっと周囲を見回していたのに気付いたからである。

「どうした。何か懸念があるか?」
「そういうわけじゃないのよ。ただ……」

 言葉を探すようにイクスラースは黙り込む。
 此処にいたモンスターのエレメント達は、イクスラースに「力」を託して消え去った。
 しかし、それ以降もレプシドラではエレメント達が変わらず……いや、むしろ凶暴化して現れているという。
 すでに「かつて人であった彼等」がいないのであれば、今此処にいる……いや、世界にいるエレメント達は一体何なのだろう?

 身体は滅び、魂は消え、この身は世界を巡る呪いと成り果てた。

 あの時、エレメント達はそう言った。
 エレメント達の「意思」が消え去っても尚、「呪い」は彼等の姿を世界に縛り続けているというのだろうか?
 
 ……いや、分かってはいるのだ。エレメントの発生プロセスを考えれば、むしろ「かつて人であった彼等」こそが特殊であることは自明の理だ。
 そう、モンスターのエレメントはかつてのエレメント達とは違う。
 自然の魔力の歪みから生まれた怪物であり、かつて「エレメント」と呼ばれた生命の名を付けられた、ただの現象。
 それが「モンスターのエレメント」であり、「人類のエレメント」の意思がこびり付いていた事こそが、おそらくは奇跡に近いのだ。
 何しろ、今「現象」と言ったように「モンスターのエレメント」と「人類のエレメント」は全く関わりが無い別物だ。
 言わば今までこそが異常であり、ようやく正常に戻ったのだと言い換えることすら出来る。
 だが、それでも……まだエレメント達の中に「意思」を持った者が紛れ込んでいるのではないかと……そんな事を考えてしまうのも、仕方のない事ではあるだろう。
 未だにレプシドラに多くの「モンスターのエレメント」が発生する事実に、ほんの少しの期待をかけずにはいられないのだ。
 会ったところで、彼らに対し何か出来るわけでもない。
 しかし、それでも……と。そう考えてしまうのだ。

「……いえ、なんでもないわ。行きましょう」

 それは、ただの感傷に過ぎない。
 そう割り切ったイクスラースが城の中に向けて歩き出すと、ヴェルムドールはその背中に向けて何かを言おうとし……それをしたところで何の意味も無いと思い直すと、自分もまた歩き出した。
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