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闇の中へ2
しおりを挟む「報告は受けていたが……中々面白いデザインだな」
ガランとした広い城のホール。
遮る物の何も無いホールはただ広く……そして、何も無い。
机や椅子がという意味ではなく、壁も扉も何も無い。
そして、階段すらないのだ。
唯一天井に穴らしきものが空いているが、別に破損ではなく計算して開けている風である。
しかし近くには階段も梯子も無く、まさに「空いているだけ」だ。
建築途中であると言われても納得できそうだが、これで「完成」である。
「所詮、外側だけを真似したに過ぎないもの。「階段」なんていう概念は当時は理解できなかったそうよ」
純粋な魔力体である彼等は、肉の身体の法則には縛られなかった。
宙を浮くのも地を歩くのも同じ感覚であり、それ故に「上に登る」のに階段というものが必要だということが理解できていなかったのだ。
勿論、その感覚の違いは後年修正されていったが……この城はその後も様々な理由で修正されなかった。
その特に大きな理由としては、この建物を利用する者がエレメントしかいなかったということがある。
「要は、街の他の場所を優先したと……そういうことね」
自分達だけが使うなら、別に慌てて直す必要はない。
それよりもこの街に暮らす他の人類の施設でそれを活かせばいい。
つまりは、そういう考えだったのだ。
結局のところ、そのまま修正されずにエレメントは滅びを迎えるのだが……。
「その結果、こうして侵入者を阻む障害が出来上がったというわけだ」
「そうね。さて、どう登ったものかしら」
何処かに取っ掛かりでもあればいいのだろうが、そんなものは全くない。
登るのを妨害しているわけでもなく、仕掛けがあるわけでもない。
悪意など全くないだけに、より難易度が高い障害となっているのだ。
だが、ヴェルムドールはこともなげに答えてみせる。
「別に迷う必要も無いだろう? 跳べばいい」
「そうですね」
ヴェルムドールは言うが早いか、トンという軽い音を立てて跳ぶとアッサリと穴の縁へと手をかけて、そのまま手を起点としてぐるりと縦回転しながら二階へと跳び降り立つ。
一方のイチカはヴェルムドールが跳んだのを確認するとイクスラースを手早く抱え込み、無音で二階へと跳ぶ。
最後にサンクリードが強い踏み込み音と共に跳び二階へと降り立つと、イチカは何事もなかったかのようにイクスラースを床へと下ろす。
「……力尽くね」
「別に構わんだろう? 設計者はこのままでも通れると判断し、俺達はそれを証明しただけだ」
「ああ。むしろ階段を登るより楽かもしれないな」
呆れたようなイクスラースにヴェルムドールとサンクリードはそう返し、しかしそこでヴェルムドールはサンクリードを軽く睨む。
「お前は普段からまともに階段を使わんだろう」
「窓からのほうが早いからな」
しれっと返すサンクリードにヴェルムドールは深く溜息をつく。
サンクリードに限らず窓から入ってくる者は多いが、その常習犯の一人であるサンクリードにはお気に召したようだ。
ともかく、そうして上がってきた二階の部屋の出口にはやはり扉は無く、出入り口も「壁に穴を開けた」という風の丸型だ。
「……やはり家具もないな。扉も最初からつける気が無かったように見える」
「そうですね。とはいえ、奪われたわけでもないようです」
イチカとサンクリードは次の部屋の中へ入ると、そんな感想を呟く。
部屋といえば部屋なのだろうが、そうでないと言われても納得する造りだろう。
魔力体のエレメントに扉という概念がないのは見ての通りだが、ヴェルムドールには部屋……というよりも個人のプライベートな空間という発想が希薄であるように感じられた。
見る限り、「部屋」という概念については理解は出来ている。
しかし、「部屋」を造る理由が理解できていないようだ。
そしてそれが理解できていないのは、先程述べたように「プライベート」という個人的な領域に関する部分が欠けているからだろう。
まあ、物質的な文化に対して他の人類の模倣から始まったエレメントらしいといえばらしいのだろうとヴェルムドールは思う。
「……文化は必要に迫られ成長する。この城の姿は、それを体現していると言えるだろうな」
「否定はしないわ。此処がエレメントの物質文化の始まり。模倣から始まりながら既存のどれにも似なかった、全ての起点よ」
まずは、「既存」を模倣しようとした。
しかし自分達の概念では想像のつかない部分を自分達の想像のつく形で「表現」した。
結果としてそれは他の人類には合わず改良する事になったが、「他の人類」という必要性に迫られてエレメントの物質文化は始まった。
そして「他者の利用しやすいものを」という方向性を得たエレメントの造る建物は人類領域でも独自の進化を遂げ、こうして長い年月でも劣化しない……今でも通用する街が出来上がった。
もし、エレメントが滅びなかったら……その時、エレメントの物質文化はどんな成長を遂げていたのか。
今では想像するしかないが、ひょっとするとザダーク王国の王都であるアークヴェルムを含む各国のものをも超える凄まじい街が出来上がっていたかもしれない。
それを考えると、ヴェルムドールは少しばかり残念ではあったが……それこそ、言っても仕方ないというものだ。
「先へ進むぞ」
すでに、こぼれ出る闇の魔力の気配は掴めている。
目指すは、更に上。
恐らくは……最上階である。
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