勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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闇の中へ4

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 黒く丸い空間。
 それは、そうとしか表現しようのないモノだ。
 まるで、そこにだけ「夜」を切り取って持ってきたかのような黒色。
 強烈な闇の魔力を漏れ出させるソレが、キャナル王国でのライドルグの領の領域へ繋がった門のようなものであることは明らかだ。
 そして……レルスアレナにとっては、見るのが二度目となるものでもあった。

「……これは、あの時と同じ……いえ、もっと……」

 レルスアレナは自分の目の前に現れた空間をじっと見つめる。
 可能ならば、今すぐにでも飛び込んでしまいたい。
 そんな気持ちを抑えながら……ヴェルムドール達が入ったらすぐに自分も飛び込むつもりでレルスアレナは待つが、誰も中に入る様子は無い。
 まあ、常識的に考えればヴェルムドールが一番に入るのを待っているのだろうが……それをレルスアレナも当然理解しているので、ヴェルムドールへと再び視線を向ける。
 そうするとレルスアレナは自分を見ていたヴェルムドールと視線が合い……ヴェルムドールは、黒い穴をクイと示してみせる。

「先に行っていいぞ。闇の鍵の礼というやつだ」
「……しかし」

 そう言って動く様子の無いヴェルムドールに、レルスアレナは困ったような表情を浮かべながらも黒い穴へと視線を移し……踏み出そうとして、やめるのを繰り返す。
 そうやって踏み出そうとしつつもその一歩を踏み出さないレルスアレナに、ヴェルムドールは仕方なく声をかける。

「どうした。遠慮するな……それとも、罠の可能性を警戒しているか?」
「……此処に最初に入るべきは私ではない。そのくらい、私にも分かります」

 結局のところ、レルスアレナが突入に二の足を踏む理由はソレだ。
 勿論、ヴェルムドール達を疑っていないといえば嘘になる。
 もはや本能レベルになった「他者への警戒」は、それ程簡単に消えるモノではない。
 しかし、それを抜きにしても今回の「主役」がヴェルムドール達であることくらいはレルスアレナにも理解できている。
 レルスアレナは闖入者に過ぎず、そんな彼女が一番に入るというのは問題であろうと……つまりは、そうした考えなのだ。
 つまらない考えと思われようと、それはレルスアレナの中に残った「モラル」という判断基準でもある。自分の中で「当然」とされるソレを裏切るのは、レルスアレナにとっては抵抗のあることだ。
 ヴェルムドールもそんなレルスアレナの考えを察したか、ふむと頷く。

「ゴーレムなんぞをけしかけてくるくせに、妙なところで遠慮をするんだな。その意思を尊重してもいいんだが……俺としても一度順番を譲ろうとした以上、それを引っ込めるのはな」

 ヴェルムドールはそう言うとレルスアレナへと近づき……その身体をひょいと抱えあげる。
 え、と周囲の何人か……具体的にはサンクリードを除いた女性陣のことだが……ともかく、何人かがあげる声を意図的に無視して、ヴェルムドールは黒い穴のような空間へと飛び込んでいく。
 それと同時にヴェルムドールとレルスアレナの気配がこの場から消滅し……残されたメンバーのうち、イチカが無言のまま穴へと飛び込み消える。
 残されたのはサンクリードとイクスラースだが……サンクリードはイクスラースに「どうぞ」とでも言いたげなジェスチャーをしてみせ、イクスラースはそれに肩をすくめて答える。

「普通に考えれば、貴方の方が入る優先度は高いと思うのだけれど?」
「因縁を考えれば、お前のほうが先だ。それに……俺は奴に借り物もあるしな。余程の事がなければ穴を閉じたりはしないだろう」

 なるほど、言われてみればサンクリードは普段とは違い剣を腰に二本差している。
 片方はいつもの剣だが……もう片方は闇の神ダグラスから借りているというダークソードだ。

「……それって、貴方の方が優先度高いってことなんじゃないの? まあ、遠慮はしないけど」
「ああ、それでいい。遠慮などされても先程ヴェルムドールがやった事を繰り返すだけだしな」
「ああ、それは遠慮するわ」

 抱えられていったレルスアレナのことを思い出してクスリと笑うと、イクスラースは黒い穴へと視線を向ける。
 そこから漏れ出してくる闇の魔力は全く弱くなる気配を見せず……イクスラースはそこへと、躊躇せずに入っていく。
 すると今まで同様にイクスラースの気配も消え、最後にサンクリードだけがその場に残される。
 そして当然だが、「黒い穴」も消えてはいない。
 たとえばレルスアレナの意思を尊重して最後にレルスアレナとした場合、この「黒い穴」がどうなったかは不明だが……まあ、これで問題はないというものだ。
 どちらにせよその場合は、サンクリードがヴェルムドールのやったことをする羽目になっていたのは間違いない。
 何しろ、「あの件がどうなったか分からないがたぶんこう」みたいなモノはヴェルムドールを含む魔族が一番嫌うものだ。
 そんな無用な心配に思考を割くくらいならば、一緒に連れて行くのが一番面倒がない……と。そう考えるのが魔族的思考展開というものなのだ。

「さて……俺も行くか」

 そうして最後にサンクリードが飛び込むと、黒い穴のような空間は消え失せ……そこにはただ、元の祭壇のみが残った。
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