勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
503 / 681
連載

闇の中へ5

しおりを挟む

 潜り抜けた先は異界。
 これは今までヴェルムドールが入った神々の領域全てに共通する事項である。
 そして、今回もそうであろうという確信はあったが……入ってみて思ったのは、「やはり」ということだろうか。
 
「……誰も来ませんね」
「ああ。ライドルグの領域でもそうだった。恐らくはゴールで合流できるようになっているのだろう」

 暗い闇の中で、二つの声が響く。
 一つは、ヴェルムドール。
 一つは、レルスアレナ。
 互いに手が届くような距離にいながらも、その姿は全く見えはしない。
 そう、此処は「闇」が深く場を支配する領域。
 一歩先の様子すら分からぬ闇に包まれた場所で、二人の声だけが響いている。

「これ以上此処に留まっていても進展はない。俺達だけで先に進むべきだろう」

 ヴェルムドールがそう言った後、返ってくるかと思われたレルスアレナの返答はなく……少しの静寂が場を支配する。
 とはいえ、それはどう返答するかを考えていたせいであるようで、少しの沈黙の後にレルスアレナの呆れたような返答が返ってくる。

「……そうやって、私を普通に数に入れているようですが」
「何か問題があるか?」
「……いえ。そんな貴方だから、姉さんも貴方を信頼しているのでしょう」

 そうして、また少しの沈黙が訪れる。
 レルスアレナには「次の台詞」を言う気配がないと察した辺りで、ヴェルムドールは暗闇の中を探りレルスアレナの肩らしき場所を掴む。

「む、いたな」
「……貴方の行動の意図が不明確なのですが」

 ヴェルムドールの手を払おうとするレルスアレナの手を捕まえると、ヴェルムドールは軽く引っ張って引き寄せる。
 そうしてみると、ようやくレルスアレナの気配を強く感じる事が出来る。
 それでも姿が闇に隠されて見えないのは流石神の領域であるといったところだろうか。

「簡単だ。お前を見失うと面倒だからだ」
「声が聞こえるのにですか? 魔力だって感じ取れるでしょう」
「今は、な。この状況は恐らく「試練」だ。この場が闇に包まれている事には、何か理由がある」

 たとえば光の神であるライドルグの領域では「光」を上手く使うことに攻略の鍵があった。
 最初から闇で満たされているダグラスの領域で同じ攻略法であるとは思えないが、この闇は何らかの試練のキーワードであることに間違いはない。
 
「現時点で、俺達は視界をほぼ奪われている。そして、恐らくだがこの場で明かりは意味を成さんだろう」

 そう言うとヴェルムドールは照明ライトの魔法を使うが……手の中に生まれた光は、即座に闇に飲み込まれるようにして消えてしまう。

「光が……」
「やはりな。この暗闇も試練の一部ということだ」

 ヴェルムドールがそう断言すると、レルスアレナが小さく呟く。

「先の見えぬ道……つまり、不安を煽っているということでしょうか……」
「さて、な。そう単純とも思えんが。もっと言えば、俺はお前と一緒であるこの状況にも作為的なものを感じている」
「どういう意味でしょうか」
「簡単な話だ。何故一人ではないのか……つまりは、そういうことだ」

 そう、たとえばレルスアレナの言うような「不安を煽る」為であれば一人ずつに分断すればいい。
 それが出来ないわけではないということは、現状で分断されているところから見ても明確だ。
 ならば、「二人」でいることに意味があると考えるべきということだ。
 問題は二人であるということにどのような意味があるのか、だが……たとえば、これが「協力しあえ」というようなポジティブな意味であれば何の問題も無い。
 言葉は信用しないと明言するレルスアレナ相手では多少の苦労もあるだろうが、やりようはいくらでもある。
 問題は……これがネガティブな意味であった場合だ。

「お前も理解している通り、この場では一歩先すらも不明確だ。だが、一般的に言えば側に誰かがいるだけで不安は軽減される……これが試練の救済策だというのであれば、実に優しい対応だと思わんか?」
「二人であることを前提とした何かがあると?」
「そうでない可能性の方が低いな。だから、コレだ」

 そう言ってヴェルムドールが繋いだ手を強く握ると、レルスアレナからも強めに握り返してくる。

「理解はしました。繋いだ手が互いの存在確認となるということですね。確かに互いの位置確認が難しい以上はこれが最適解でしょう」
「理解が早くて助かる」
「そうですか」

 ぐいと手を前に引っ張られる感覚に、ヴェルムドールの足が一歩前に出る。

「とにかく、これで懸念の一つは解決したということですね。先に進みましょう」
「あくまで懸念の一つだ……むしろこれからが本番だろうさ」
「望むところです。その先にダグラス様がいるというのであれば、越えてみせましょう」

 なるほど、とヴェルムドールは思う。
 前回には会えなかった闇の神ダグラスが、この試練を越えた先にいるという事実がレルスアレナのテンションを上げているのだろう。
 淡々とした口調ながらも、その中には隠しきれない興奮が透けて見えている。

「どうしました、魔王ヴェルムドール。急ぎますよ?」
「ああ、分かっている。だがそう急くな。足元すら見えんのだからな」

 苦笑しながらも、ヴェルムドールはレルスアレナに引っ張られるままに進んでいく。
 この闇の中に何が待ち受けているのかは、まだ知らないままに。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。