勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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闇の中へ7

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「教えてくれてもいいじゃないですか」
「気にするな」

 闇の中を歩きながら、ヴェルムドールとレルスアレナはそんな会話を繰り返す。
 歩いても歩いても終わりなど見えはしないが、そんな会話が不安や退屈を自然と吹き飛ばす。
 だが……流石に「長すぎる」と感じたのか、ヴェルムドールはぴたりと足を止める。
 そのヴェルムドールに軽くぶつかった後にレルスアレナも止まり、繋いでいた手をくいと引っ張る。

「何かありましたか? 魔王ヴェルムドール」
「ないな。だから怪しんでいる。見落としているのではないかとな」
「……なるほど。しかし、この暗闇の中では見落とすようなものもないと思いますが。見えていないものしかないのですから」

 見えていないものしかない。
 それは確かにその通りだ。この場では何も見えてはいない。
 足元すらも闇に包まれ見えないこの場所では、見落とそうとしてもそもそも……と。そこまで考えて、ヴェルムドールはハッとする。

「そうだ。何も見えてはいない」
「そうですね?」
「何故……俺達は真っ直ぐ進んでいた?」
「……それは」

 それは、真っ直ぐ進んでも支障が無かったからだ。
 見えない以上、どうしても感覚頼りになる。
 たとえば、壁にぶつかったとか……そういうことでも無い限り、普通は真っ直ぐ進んでしまうものだ。
 そうすることが当然であり、それで進めているのだから問題ないと考える事もできる。
 だが、だがしかしだ。
 見えもしないのに、どうして「真っ直ぐ進むのが正解」などと考えてしまったのか。
 見えていない横にも道があるかもしれないというのに。
 いや、そもそも……そもそもだ。
 この闇の中に、壁など本当に存在するのだろうか?

「……左に行ってみよう」
「え、ええ」

 ヴェルムドールに手を引かれ、レルスアレナも歩き出す。
 そうして、歩いて。歩いて。
 やはり遮るものすらなく、二人は歩き続ける。

「次は、右だ」

 やはり、二人を遮る壁は無い。
 更に右。
 左。
 斜め右。
 思いつく限りの方向へと、二人は走る。
 遮るものなど、何も無い。
 何処へまでだって行けるかのようだ。
 そうして走って、走って。やがて、ヴェルムドールの足がぴたりと止まる。

「……くそっ、そういうことか」
「この場は壁の無い巨大な空間だということ……ですか」
「それなら、まだいいがな。此処は神の領域だ。無限に広がっていても不思議ではないぞ」

 恐らく、何処かに出口はある。
 だが、何処にあるかは分からない。
 壁がないというならば、自由に探す事はできる。
 だが、目の前にあってもこの暗闇の中では視認できるか分からない。
 すぐ其処にありながら見逃し通り過ぎてしまうということだって、充分にある。
 そして、その視界を明るくするという方法が使えないということはヴェルムドール自身が最初に証明している。

「……どうするか。当てずっぽうでは、どの程度時間がかかるかも分からんぞ」

 考えても、明確な解決方法は浮かばない。
 一体どうするのが正しいのか。
 それとも、このまま運任せにするのが唯一の方法なのか。
 いや、解決方法は必ずあるはずだ。なければならない。
 そうでなければ此処は単なる運試しの試練だという話になってしまう。

「落ち着いてください、魔王ヴェルムドール」

 ヴェルムドールの手が、強く握られる。
 その微かな痛みにヴェルムドールは思考をクールダウンさせ……自分の手を握っているレルスアレナを見下ろす。
 やはり表情すらも見えないのだが……そこにいるレルスアレナは、冷静な口調で続ける。

「鍵はすでに、あるでしょう」
「鍵だと?」
「ええ。私達はすでに、この試練の攻略の鍵を持っています」

 攻略の鍵。
 しかし、そんなものにヴェルムドールは心当たりは無い。
 それとも、ヴェルムドールが気付いていないだけでレルスアレナはそれに気付いていたのだろうか?
 考え込むヴェルムドールの耳に、レルスアレナの声が届く。

「貴方が私に教えたのでしょう。何故一人ではないのか、と。二人であることに意味があると」

 確かに言った。
 一人ではなく二人であることに意味があると。
 だが、それが一体どうしたというのか。

「……いや、そうか。そういうことか」
「ええ、恐らくはそういうことでしょう」

 ヴェルムドールの呟きに、レルスアレナの声が答える。
 もしそうだとするならば、なんと意地の悪い試練であることだろうか。

「この試練は、二人で進んでは達成できないように出来ている可能性が高い。一緒にその場に居た者と別れて探索せねばならん……ということか」
「そして一度別れた以上、再合流できる可能性も低いでしょうね」

 二人で進む事に慣れた心には、その孤独はさぞ響く事だろう。
 いや、それ以前に……相手は大丈夫だろうかという心配も先に立つ。
 一緒に進んだ時間が長ければ、それは尚更だろう。

「そういう意味では、私達は好都合でしたね。私と貴方は他人で、元敵同士。味方と呼ぶにも少々足りない。別れたところで」
「レルスアレナ」

 レルスアレナの言葉を、ヴェルムドールは遮る。
 それを言う事が試練の邪魔になると分かってはいても、今言わなければならなかったからだ。

「お前に何かあれば、イクスラースが悲しむ。その理由だけで、俺にはお前にある程度味方する理由が生じる」
「意味が分かりませんが」
「そうか。ならば言い換えよう。お前が手を伸ばせるならば、俺はお前の味方になれる」
「……それは」
「信じる必要など無い。疑っても構わん。そうした関係も俺は許容しよう」

 そこまで言って、ヴェルムドールは握っていた手を離す。

「それで、貴方に何の得があるというのですか」
「俺には無いな。だがイクスラースが、今より少しだけ幸せになれるかもしれん。それで充分に意味はある」

 そう言って、ヴェルムドールは歩き始める。

「試練を越えた先で会おう。幸いにも、この試練は時間がかかりそうだ……ゆっくり考えてみるといい」

 そう言って闇の中に消えていくヴェルムドールの気配を感じながら、レルスアレナはヴェルムドールとは違う方向へと歩き出す。
 今、ヴェルムドールが言った言葉を……頭の中で、何度もリピートしながら。
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