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連載
闇の中へ8
しおりを挟むレルスアレナと別れたヴェルムドールは、そのまま暗闇の中を歩いていく。
相変わらず道標などないし、目の前すら見通せぬ程に闇は深い。
暗闇の中では一切の音が存在せず、ただ無音のままヴェルムドールは進んでいく。
その足取りに迷いはない。
されど、この道でいいのか確信があるわけでもない。
その確信を得る為に歩いているという、ただそれだけのことだ。
何処まで歩いても何も無いかもしれないが、歩かなければ確実に何も無い。
足音すら立たぬ無音の闇は、常人であれば然程の時間も置かず狂うかもしれない。
多少強い者であっても、心を削られるかもしれない。
出口も分からず、入り口もすでに何処か分からない。
いつになったら出られるのか。
いや、そもそも此処から出られるのか。
そうした恐怖に襲われる者は多いだろう。
此処に比べれば、風の神の森の迷宮はまだ優しかったと言えるだろう。
歩きながら、ヴェルムドールは思い出す。
神々の領域には、それぞれ攻略法というものが存在した。
たとえば、風の神の森の迷宮は「風を読む」こと。
光の神の迷宮は文字通り「光」がキーワードであった。
ならば、闇の神のこの迷宮は「闇」がキーワードであるのだろう。
しかし、何をどうすればいいのかはサッパリ分からない。
「どうしたものかな……」
いっそ、この空間を魔法解除でどうにか出来るか試してみようか。
そんな事を考え始めたヴェルムドールの耳に、誰かが走ってくるような音が聞こえてくる。
それは段々と近づいてきて……やがて、息を切らせたかのような粗い息遣いが聞こえてくる。
「……魔王ヴェルムドール。こんなところにいたのですね」
闇の向こうから聞こえてくるのは、レルスアレナの声。
この暗闇の中では顔すら見えないが、先程まで一緒に居た者の声を聞き間違えるはずも無い。
ヴェルムドールは足を止め、声のしたほうの気配を探る。
空間に満ちた濃い闇の魔力は気配すらも探るのを困難にさせるが……確かに、気配はそこにあった。
「どうしました、魔王ヴェルムドール。まさか、そこには居ない……?」
続けて聞こえてくるのは、少し戸惑ったような声。
小さく溜息をつくと、ヴェルムドールは「どうした」と聞き返す。
「ああ、いたのですね。声が聞こえたものですから……」
「合流はもう出来ないものと思っていたがな」
「私もそう思っていました」
聞こえてくる声は淡々としていながらも、少しの喜びに満ちている。
「ああ、そんなことより魔王ヴェルムドール。出口を見つけました」
「ほう? それで俺を呼びに来てくれたというわけか?」
ヴェルムドールがそう聞き返すと、少しの沈黙が訪れる。
「……迷惑でしたか?」
「そうでもない」
やがて聞こえてくる遠慮がちな声にヴェルムドールが答えると、明らかにほっとした気配が伝わってくる。
「……では、行きましょう。案内します」
そして、少し向こう側へ走るような足音が聞こえ……「こっちです」というレルスアレナの声が響く。
それを完全に無視して、ヴェルムドールは別方向へと進む。
すると、慌てたようにヴェルムドールの方へと駆け寄ってくる足音が響く。
「魔王ヴェルムドール。そちらではありませんが」
「そうだな」
「ならば、どうして……」
責めるような声の聞こえてくる方向へと、ヴェルムドールは手の平を向ける。
「照明」
思い切り強い魔力を込めた照明の魔法は周囲の闇を一瞬だけ消し去り……そして、すぐに飲み込まれるようにして消える。
だが、その一瞬でヴェルムドールは確かに見た。
声の聞こえてきた方向には、レルスアレナの姿など何処にも無い。
「ふん、やはりか。聞こえぬはずの足音が聞こえるから怪しいと思えば」
そう、ヴェルムドールが幾ら歩いても足音など聞こえない。
今までレルスアレナと一緒に歩いてきた時も、やはり足音など聞こえてはいなかった。
つまり、足音がこの場で聞こえる事自体が不自然極まりない。
……だが、この心削る空間で音に飢えた者であれば「足音」という音に心を躍らせ、見知った者の声に希望を抱いて騙されてしまうのだろう。
その先にあるものが何かは分からないが……どうせ、ロクなものではない。
「しかし、なるほど。こういう試練か。なんとも性格の悪い事だ」
通常の状態であれば、騙される者は少ないかもしれない。
しかし、時間がたてばたつほど引っかかりやすくなる罠でもある。
特に「最初に二人」であったならば尚更だ。
この寂しい空間の中では、普通の人間は離れた仲間の事を思うものだ。
その心を、上手く突いていると言えるだろう。
「……そういえば、闇魔法は魂や魔力に影響を強く及ぼすんだったか……?」
心もまた、「魂」を構成する一要素だ。そういう意味ではこの試練は正しく「闇の試練」であるのだろうとヴェルムドールは思う。
全員に同じような「罠」を仕掛けているとも思えないが、似たような状況ではあるだろう。
「……まあ、心配は要らんか」
今回同行しているメンバーの事を思い返しながら、ヴェルムドールは呟く。
そんな不必要な心配よりも必要なことは、この闇をどう抜けるか。
ただ、その一点だろうと思い直しながらヴェルムドールは闇の中を歩いていく。
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