勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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夜空には、こんなにも2

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「アル……さん、なんですか……?」
「ああ」

 リアは手を伸ばして、ぎゅっとアルの頬をつねる。
 ぐりっと捻りも入れて引っ張り、アルの頬を伸ばしてみる。
 するとアルは一瞬で無表情になるとリアの指をゆっくりと外し、リアの頬に手をあててペチペチと軽く叩く。

「……何の真似か聞いてもいいか?」
「ゆ、夢かと思って……」
「そういう時は自分の頬をつねるもんだろう」

 そう言ってリアの頬をつねる真似をすると、アルは笑う。

「……まったく、仕方がないな。今だけは許してやるよ」
「……」

 その屈託のない笑顔を見上げて、リアは思う。
 何かがおかしい気がする、と。
 けれど、何がおかしいのかは分からない。
 頭の中には霧がかかったかのようで、何もかもが夢のようだ。

「どうした? リア」
「……分からないです。でも、凄く不安で……」

 呟くリアの額の上に、アルの手が優しくのせられる。
 伝わってくる暖かい体温が、リアの不安を少しだけ和らげてくれる。

「……疲れてるんだな。仕方がない。実際、危ないところだったしな……」
「そう、なんでしょうか」

 そう言われると、そうな気もする。
 けれど、違う気もする。
 一体何が違うのか。
 それをリアが考える前に、リアの身体は再び抱き上げられる。

「とにかく、家まで送ろう」
「え、あの……」
「リア!」

 リアが口を開きかけると同時に、リアを呼ぶ声が響く。

「おいリア……どうした! 大丈夫か!? アルさん、アンタ何やって!」
「落ち着けよテグ。俺はアレだ、お姫様のピンチを助けた王子様だ」

 棒を持ってバタバタと駆け寄ってくるテグをヒョイと避けると、アルはふうと溜息をつく。
 リアしか目に入っていなかったテグは石につんのめって思い切り地面に転び……涙目になりながらも起き上がる。

「お、王子様って。その周りの如何にも悪い事やってそうな黒ずくめって」

 テグに言われてアルは自分達の周囲にいる「悪い事やってそうな黒ずくめ」達を見回し、小さく笑う。
 なるほど、確かに物語に出てくる「悪そうな奴」は、彼等のような格好をしているだろう。

「あー……まあ、色々と事情があってな。むしろ悪い奴等をやっつけてくれる側だ。おい、お前等悪そうに見えるらしいから散ってろ」

 アルの声と同時に黒ずくめ達は文字通りバラバラに何処かへと消え、テグが見回しても一人の姿も見つけることが出来ないようになる。
 まあ、王家直属の隠密が開拓村の子供にアッサリと見つかるようでは問題だが……リアには、彼等が何処にいるのかハッキリと分かった。
 何故そんな事が分かるのかは、やはりリアには分からないのだが……。
 その理由を考えようとして……自分の顔を覗き込んでいるアルに気付き、リアはビクリと震える。

「どうした、まだ何処か痛むか?」
「え、いえ……」
「痛むって……おい! 一体何があったんだよ!?」

 アルの抱きかかえたリアに再び駆け寄ってくるテグを再びアルはひょいとかわすと、そのままスタスタと歩き出す。

「明日説明してやるよ。お前は家帰って寝とけ」
「んなっ! お、俺は子供じゃないぞ!」
「子供じゃないなんて言ってるうちは子供ってな。どうせ村の人間全部集めて話をせにゃならねえんだ。話の途中で寝ても知らねえぞ?」

 そう言い残して、尚も何かを叫ぶテグを置いてアルはスタスタと歩く。
 まるでリアの家を知っているかのようなその行動に、リアは不思議そうにアルを見上げて……その視線に気付き、アルはああ、と思い出したように呟く。

「元々、ちょっとした話があってお前の家に行こうとしてたんだよ。そしたら原っぱの方に行ったっていうから迎えに行こうかと思ってたんだが……まあ、結果としては正解に近かったな」
「近かった?」

 何故、「正解」ではないのか。
 そんな疑問を抱くリアに、アルは「危うく死なせるところだったからな」と呟く。

「あそこでお前が死んでたら、俺はきっと一生後悔してた。だから、助けられたのは良かった。だが……やろうと思えば、ああなる前に助けられたはずなんだ」
「でも、それは」
「そのくらい出来なきゃいけないんだ。俺が、俺の望む俺になる為には」

 その真剣な眼差しに「誰か」を思い出しそうになって、しかし小さな頭痛と共にリアの記憶から「誰か」の姿は深い霧の向こうに消えてしまう。
 忘れてはいけない「誰か」のことを思い出そうとして……出来ないままにアルの声がリアの思考を中断させる。

「なあ、リア。俺と一緒に、王都に行かないか」
「……え?」

 王都エディウスといえば、こんな辺境の開拓村でも知らぬ者の居ない場所だ。
 煌びやかな人々と建物。見たことも無い不思議なものが溢れていると行商人から何度も聞いた事がある。
 誰もが「いつか一度は」と夢見るその場所への誘いに、リアは思わず目を瞬かせる。
 何故自分が、と。そんな想いが頭の中を駆け巡る。
 冗談だろうかと思いつつも、アルの真剣な瞳がそれを否定する。

「結論から言うぞ。お前が好きだ、リア。だからお前にも俺の事を好きになって欲しい。一緒に王都に来て、俺の事をもっと知ってほしいんだ」
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