勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
513 / 681
連載

神よ、何故私達を見捨てたのですか2

しおりを挟む

「……ダグラス様。貴方は私の疑問に答えてくださると仰いましたね」

 レルスアレナを後ろに隠すように進み出たイクスラースが、ヴェルムドールの背後から声をあげる。
 それに合わせるようにヴェルムドールもすっと体をどけ、イクスラースとダグラスは向き合う。
 そのイクスラースの小さな身体を一瞥すると、ダグラスは頷いてみせる。

「ああ、確かに言った」
「ならばお答えください。貴方が干渉する事で、世界のバランスが崩れると仰いました。しかし、実際には神々による様々な干渉があります。勇者、神殿騎士……そこのサンクリードが今持っているダークソードだってそうです。それに……貴方は次元の狭間にいらっしゃいました。なのに、世界は」
「変わらぬように見える、と」

 静かなダグラスの言葉に、イクスラースは思わず口を噤む。
 ダグラスの鋭い視線がイクスラースを射抜き、しかしすぐにダグラスは視線を外し上へと向ける。

「そうだな、そうだろう。せめてそうでなくては、誰も救われぬ」
「それは、どういう……」
「変わっているのだ」
「え?」

 イクスラースへと視線を戻したダグラスは、イクスラースの疑問を塗りつぶすかのように語る。

「この世界は今も変わり続けている。常にバランスは崩れようとしていて、それを俺達が調整し続けている。それが最善であると信じてな」
「そのバランスとはなんだ。崩れたら何が起こる」

 遠回りな言葉の連続に我慢の限界がきたのかヴェルムドールが口を出すと、ダグラスはふっと小さく笑う。

「ウィルムとライドルグは言わなかったか? モンスターとはそもそも、「それ」によって生まれたモノだ」

 モンスター。
 人類の常識では、人類に敵対する生命体の総称。
 魔族の常識でいえば、「魔族に進化する可能性のある」生命体の総称。
 たとえば、レッドウルフという赤い狼のような生物がいる。
 これは人類の分類では「モンスター」だが、魔族の常識では単なる野生生物である。
 同じように「モンスターのエレメント」は便宜上人類も魔族もそう呼んでいるが、これは生命体かどうかがそもそも怪しい「現在は人類側の定義でモンスターと呼んだほうが通りがいい」ものであったりする。
 しかしながら、この「魔族」という定義も結構曖昧なものであったりする。
 そもそも「魔族」とは魔人や魔獣、魔樹に魔操鎧、果ては魔絵画など幅広い種族の総称である。
 最終的に魔人に進化するものが多いが、それとは別に最初から「魔人」である者もいる。
 そこに「モンスターから進化する」魔族も加わってはいるが、なるほど。
 その始まりを意識した魔族は居ないだろう。
 そもそも魔族という種の始まりからして記憶している者はいないのだから。

「それは……魔族が世界のバランスが崩れたことによって生まれたものだ、ということか?」
「違う」

 ヴェルムドールの言葉を、ダグラスは即座に否定する。

「モンスターとは、世界を害する為に生まれた生命……だったものだ。それをフィリアが命の流れを調整し、魔族という流れへと接続しなおした。それが現在この世界でモンスターと呼ばれるものの正体だ」
「……どういう意味だ」
「おかしいと思わんのか。本来命とは多様な方向性を持っているはず。それがどうして魔族は皆「魔人」へと進化する。元が鳥であろうと木であろうと、示し合わせたように魔人となる。そこがその種の最も優れた形態というわけでもなかろうに」

 ……なるほど、確かにそれはその通りだ。
 魔族の最終的な形は、総じて「魔人」である。
 誰もがそうであると自然に考え、力を蓄え魔人となる。
 ヴェルムドール自身、それに疑問を抱いた事などなかった。
 だが確かに、生物として「人型」は汎用性は高いが最も優れた形態という訳でもない。
 ラクター自身、「竜人化ドラグレッド」などという今までにない生物の形を生み出していたし、マーロゥの「狂転身カオスロウ」も記憶に新しい。
 生物としては、むしろそちらの方が強力であるのは疑いようも無い。
 ならば、何故そうならないのか。

「魔族は、種の本能として「魔王」への強烈な憧憬がある。それ故に、魔族は皆本能的に魔王と同じ人型への進化を果たすのだ……まあ、これはフィリアの奴の受け売りだがな」
「……つまり、こういうことか。モンスターと呼ばれる連中を「魔族」に組み込むことで「より凶悪な進化」をするのを抑え、その存在目的を「世界を害する事」から「憧れの魔王に近づく」にすり替えた、と」
「そういうことだ」
「迷惑な話だ。そんなことをするくらいならば誕生を抑えればよかろう」

 ヴェルムドールの台詞にダグラスは「無理だ」と答える。
 命の神フィリアは命の流れを管理するものではあるが、それとて限界はある。
 あまり強力に干渉し過ぎると、世界のバランスを崩してしまうのだ。

「……ならば、イクスラースの質問の話に戻ろう。神殿騎士や勇者といった存在はどうなる。あれの存在は世界を崩さんのか」
「あれは妥協のようなものだ。我々が直接干渉できんから代行者を送る。そうして世界への影響を最小限に抑えようとした結果だ。実際、ウィルムが産み出した代行者もウィルムがその分を考慮に入れ調整をしているはずだ……そして、勇者だが」

 そこで、ダグラスは言葉を切ってヴェルムドールを見つめる。

「アレは魔神を参考にした世界の調整者だ。故に人を超えた力を持つ事を許容されたのだ」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。