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連載
そして、これから
しおりを挟むそうして闇が晴れた時……そこは元の祭壇の部屋だった。
光り輝く祭壇にはすでに闇の気配はなく、今は「道」が繋がっていないことを示していた。
「……イチカ」
「なんでしょう、ヴェルムドール様」
「確か試練はお前も乗り越えたはずだな?」
「報酬なら拒否しました。言う前に悟って頂けたのは流石闇の神といったところでしょうか」
そう、イチカは試練の報酬を受け取っていない。
元々の報酬が剣であることを考えると、あとはオマケなのかもしれないが……拒否したと聞いてヴェルムドールは驚く。
「私が唯一欲しいモノを持っているのは別の神ですので」
「お前がそれでいいならいいが」
ひょっとすると、もう一度闇の鍵を使えば行けるのかもしれないが……こうなると、別に今すぐ会わなければならないような用事はない。
このゴーレム祭壇についても、気にはなるが放置しておいてもとりあえず害は無さそうだ。
「気になるのでしたら、一つくらい持って行ってもいいですよ。どうせ私以外は祈る者もいません」
「如何しますか、ヴェルムドール様」
レルスアレナとイチカに問われ、ヴェルムドールは目を瞑ってふむと頷く。
この祭壇にある物品は既存のゴーレムという常識からは離れた品々だ。
そしてそういう「新しい発想」というものは、しばしば技術に革命をもたらす。
ザダーク王国に持って帰れば、ノルム達が狂喜乱舞するのが目に見えるようだ。
しかし同時に、ザダーク王国でこうした物品がまともに動作するのかという懸念もある。
何しろ、野菜が魔力異常で空を飛んだりする土地柄なのだ。
魔族ではないゴーレムを持ち込んだ際にどのような事になるか分かったものではない……が。
「まあ、やってみなければ分からんか。何か適当に……そうだな、無くなっても困らないものか予備のあるものを貰うことにしよう」
「……妙な気の使い方をするのですね」
言いながら、レルスアレナは祭壇の部屋を動き回り……やがて部屋の壁から、金属の平たい皿のようなものを外して持ってくる。
「なんだこれは……此処に書かれているのは……この町の風景か?」
「ええ。特に必要のないものですし……同じものが幾つもあるので、一つ持っていくといいでしょう」
そう言ってレルスアレナが皿をヴェルムドールに手渡すと、皿は突然猛然と襲ってくる……というような事はなく、そのままごろんとヴェルムドールの手の中に転がる。
皿と表現してはいるが、どちらかといえば風景画に属するものだろう。
レルスアレナの言うとおり、祭壇にはどちらかといえば不要なアイテムといえるだろう。
飾っていたのは、なんとなく華やかだからとか……まあ、その程度の理由であろう。
「これも、ゴーレム……なんだよな?」
「ええ」
「……そうか。ありがたく頂こう」
静かに進み出たイチカがヴェルムドールから皿を受け取るのを見ると、レルスアレナは頷いて部屋の出口へと向けて歩いていく。
だが、出口の横に立つイクスラースの姿に一瞬足を止め……しかし、気にせず歩いていく。
「レルスアレナ。これからどうするの?」
「何も変わりはしません。この場所のこれからを見定めて……それからの事は、その後で決めます。ですが、まあ……今までと変わりはしないでしょう。世界中に散った「遺産」を回収して回ります」
出口の前で立ち止まったレルスアレナにイクスラースは視線を向け……レルスアレナもまた、イクスラースを見る。
互いの視線が交差し、しかしレルスアレナのほうからすぐに目を背ける。
「もし、それが終わったら」
それでもイクスラースはレルスアレナから視線を外さず問いかける。
まるで、見ていなかったら今すぐにでもレルスアレナが何処かへ行ってしまうのではないかというように。
「……そうしたら、どうするの?」
「さあ。考えたこともありません」
「だったら」
イクスラースは、レルスアレナへと手を差し出す。
「やりたいこと、全部終わったら。ザダーク王国に来ない? 私はいい姉ではなかったけれど……国を救えなかったダメな王だったけれど。それでも、こうして会えた家族だから。二人とも変わってしまったけれど、それでもまだ……私を姉だと思ってくれるなら」
レルスアレナは、再びイクスラースへと視線を向け……その差し出された手を見る。
全ての感情が死滅したかのような顔は変わらないまま……しかし、その体はイクスラースへと向き直り、その手を握り返す。
「……レルスアレナ」
「姉さん。私は貴女を嫌いになった事は一度だってありません。むしろ、その。姉さんのほうが……私を嫌いになっていなければ……よいのですが」
そのレルスアレナの言葉にイクスラースはきょとんとした顔を見せ……薄く笑って、レルスアレナを抱きしめる。
「バカね。世界にたった一人残った、私の妹を……嫌いになれるわけがないわ」
「……姉さん」
抱きしめ合う二人の姉妹をヴェルムドール達は黙って見つめ……そのヴェルムドールの近くに寄ってきたサンクリードが、その耳元でぼそっと呟く。
「身長からすると、イクスラースの方が妹なんだがな」
「……それを言うな。この前結構気にしていたんだからな」
「ちょっと、聞こえてるわよ」
イクスラースに睨まれた男二人はさっと目をそらし、イチカが小さく溜息をつく。
「じゃあ、姉さん。私はこれで」
「ええ。また、ね」
そう言って小さく手を振るイクスラースに、レルスアレナは少し考えた後に同じように手を振る。
「そうですね……そう遠くないうちに、また」
そう言い残して、レルスアレナは去っていく。
その姿をイクスラースは黙って見送り……その姿が完全に見えなくなった後に、パッと振り返る。
「じゃあ、私達も帰りましょうかヴェルムドール!」
「……ああ、そうだな。帰るとしよう。俺達の国へ、な」
そして、ヴェルムドールの起動した転移魔法で全員の姿が祭壇の部屋から消える。
そうして、無人になった祭壇の部屋からは人の気配が消え……完全な静寂が、そこに戻る。
住む者の絶えて久しい街で煌めく祭壇は、これからもきっと訪れる者など無く……しかし、これからも変わらぬ輝きを維持していく。
まるでそれだけが、想いを残していく唯一の方法だというかのように。
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