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連載
会議終了後
しおりを挟む魔王城の二階のテラス。
曇天の暗黒大陸では日当たりなど関係はないが開放感のあるその場所で、ヴェルムドールとファイネルは「魔王軍大演習」のボードを挟んで向かい合っていた。
そのボードを別の席からゴーディがじっと見ているが……開始間もないというのにすでにヴェルムドールが「詰み」直前である。
噂以上のファイネルの実力に軽く戦慄しているゴーディとは逆に、ヴェルムドールの隣に椅子を持ってきて座っているニノは退屈そうだ。
すでに会議はつつがなく終わり、四方将もイチカ達もそれぞれの必要な準備の為に解散したのだが……ファイネルだけはこの後も話があるとヴェルムドールが残したのだ。
そのついでにと魔王軍大演習のボードを引っ張り出してきたのだが、そうするとゴーディが「是非見たい」とついてきて、ニノが「ズルい」とついてくる。
そしてこの状況なわけだが……明らかに手加減をされて尚、ヴェルムドールの劣勢である。
軽くゲームをしながら話をするつもりが、ヴェルムドールは「むう」と唸ってしまっている。
そもそもこの「魔王軍大演習」はザダーク王国の魔族向けに提供した娯楽だったのだが、駒を自分で選択して自陣を彩れることからロクナの手により「経済を回す」為のコレクション要素を加えたものだ。
その結果魔族に予想以上に広まり、ヴェルムドールの知らないところで大会も開かれている程に成長した。
幹部で一番ハマっているファイネルはその大会の優勝者であるのだが……魔王城でゴーディと並んで最弱のヴェルムドールでは予想以上に相手にならないようだった。
これは単純に弱いというよりは娯楽に時間を割かないが故の経験の浅さとも言えるのだが……まあ、それでも弱い事に変わりは無い。
「では、これで魔王様の魔鎧騎士を撃破……と。詰みですね」
「ぬ、ぬぬ……何故だ。今回は防御を固めたはずだぞ……?」
「魔操鎧で組むなら魔鎧将を入れねば脆いですよ、魔王様。攻撃の方が疎かになります」
実にアッサリと負けたヴェルムドールにニノが寄りかかり、憂鬱そうに呟く。
「仕事の話だっていうからニノ黙ってたのに、ズルい」
「む、そうだったな」
盤上の駒を動かして感想の言い合いを始めたヴェルムドールは駒から手を離すと、軽く咳払いをする。
「ファイネル。会議でも言ったが連合軍におけるザダーク王国の代表はお前だ」
「はい」
話題を変えたヴェルムドールに合わせ、ファイネルもその雰囲気を真面目なものに変える。
「実際にお前につける軍だが……各軍から選抜した者を今回の遠征用の「魔王軍」として編成し、お前の配下として一時的に組み込む予定だ」
「え……私はてっきり東方軍を連れて行くものと思っていましたが」
「それでもいいのだがな。せっかく堂々と軍を出せるんだ。各軍に経験を積ませておくのは悪いことじゃない」
そう、今回の次元の狭間への遠征は魔王軍の初の軍事作戦である。
個人主義に走りがちな魔族の貴重な団体行動の実践の機会は出来るだけ大事にしていきたいが、そうした行動が本当に根付いているかを確認するにも、平等に経験を積ませるにも各軍から選抜した部隊を作るというのは大事なことなのだ。
「はあ。まあ、私はそれでも構いませんが」
「で、だ。ここからが本題になるんだが……まずはお前に」
「たすけてー!」
ヴェルムドール目掛けて飛んできた水晶玉をニノが腕を伸ばして素早くキャッチすると、もう片方の手でしっかりと押さえつける。
「きゃー、邪悪な緑に捕まった!?」
「魔王様、五月蝿いの捕まえた。捨てていい?」
「捨てられるー!?」
ジタバタとニノの手の中で暴れる水晶玉……ではなくサシャをヴェルムドールが溜息をつきながら受け取ると、サシャはそのままヴェルムドールの胸元に体当たりしてくる。
「……あー、どうした」
「お、王妃様が絵から飛び出て!」
王妃。
聞きなれない言葉にヴェルムドールが疑問符を浮かべ、ゴーディとニノが驚いたような顔でヴェルムドールを見る。
「魔王様、嫁をとられる気になったので……?」
「何処の誰。追い返すから教えて」
「いや、待て。何の話だ」
当然だが、ヴェルムドールに王妃など居ない。
故に、王妃などと言われても意味不明だ。
しかも絵から飛び出てきたとか、更に意味不明である。
最初から説明させねばならぬと自分の胸元にゴリゴリとすがり付いている水晶玉……もといサシャを剥がそうとするが、中々離れない。
「あ、此処にいたのね」
「む?」
「ふむ」
「ぬ」
テラスの入り口から聞こえてきた声に三人が視線を向けると、そこにはいつもの紫色のドレスを纏ったイクスラースの姿があった。
普段はこの時間だとイチカお手製のメイド服を着ていたはずだが……イチカがサボりを許容するとも思えないので、今日は非番なのだろう。
「なるほど……しかし魔王様、態度はともかく色々と足りていないような気もしますが」
「魔王様、アレは性格悪いからダメだと思う」
「ちょっと、何でいきなりケンカ売られてるのよ。というか態度だの性格だのであんた等に言われる筋合いないのだけれども」
いきなり言いたい放題のゴーディとニノにイクスラースは思わず口元をヒクつかせる。
そのイクスラースの視線が向いている先はヴェルムドール……ではなく、その胸元にいるサシャであった。
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