548 / 681
連載
会議終了後2
しおりを挟む「まあ、いいわ。そこのソレに伝言があるのよ」
「ソレ……? ああ、これか」
「ええ、ソレよ」
どうやっているのか頑固にヴェルムドールの胸元に張り付いているサシャを剥がすのを諦めたヴェルムドールが、コツンと珠の部分を叩く。
珠の中にいるサシャもヴェルムドールに張り付くようにしていて、イクスラースから見ると背を向けているが……イクスラースは気にせずテラスの奥へと歩いてくる。
そしてそのままサシャの入った珠をコンコンとノックするように叩く。
「貴女にモカから伝言よ。「仕事があるから帰るね。脅かしてごめん」だそうよ」
「ふへ?」
イクスラースの言葉にサシャの注意がいった隙を狙って、ヴェルムドールはサシャを剥がし……その瞬間、横にいたニノがヴェルムドールの手からサシャをさっと奪い取り、両手で抱えてヴェルムドールの膝に乗る。
「……おい、ニノ」
そっぽを向いて知らん振りをするニノを見て、退く気がなさそうなのをヴェルムドールは悟る。
こうなってしまうとニノは妙に頑固であるし、まあしばらくこのままでも問題は無いだろうと結論付けヴェルムドールはニノの手の中でバタバタとしているサシャへとニノの肩越しに視線を向ける。
「で、王妃がどうのと言っていたが……何の話だ」
「王妃……? ああ、さっきのはそういうことね」
ニノがヴェルムドールの膝に座ったことで空いた椅子にイクスラースが座り、盤上の駒を並べなおす。
そのままファイネルと視線を交し合うと対戦が始まるが……ゲームが始まると黙ってしまったヴェルムドールとは違い、大分余裕があるようだ。
なんとかニノの手を抜け出してヴェルムドールの頭の上に乗ったサシャは、ニノを視線で威嚇しながらも「えーと」と言葉を選ぶように喋りだす。
「一階の大広間に綺麗な女の人の絵が置いてありまして。で、王妃様の絵かなーって思ったんですけど考えてみれば王妃様を見たことないですし。ということはもう王妃様は居なくて、新しい王妃様を迎える為に絵を捨てる決意をですね?」
「……そうか。全然分からん。いつの間に俺は妻帯者になっていたんだ」
ヴェルムドールが溜息をつく横で、イクスラースが駒をスイスイと動かしていく。
ゲームの展開としてはまだ序盤だが……ヴェルムドールと同じ駒を使っているはずなのに、不思議とファイネルと拮抗している。
盤上を見ていたゴーディが熱心に頷いているが、その様子を見る限り「王妃」話には全く興味がないようだ。
「まあ、未婚の王なんてものは新興国でもなければ普通はありえないもの。貴方に王妃がいるかも、とかいう考えに至るのは普通じゃないのかしら?」
たとえば人類国家の話になるが、王とは基本的に妻帯者である。
これは慣習とかそういう話ではなく、単純に「王子」であった頃に身を固めるという話である。
というのも、「王権の継承」というものが基本的に王子がそれなりの年齢になってからのものだというのが大きい。
何故ならば「王」というものには任期がなく、基本的に王は自分が政務に耐えられぬと感じるまでは王で在り続けるからだ。
これは古今東西どの国でも変わりはなく、過去には「王の崩御」が新たな王の即位の時期であったことすらもある。
その長い期間の間、次の権力者である「王子」が独身のまま放っておかれるなどという事は絶対にない。
大抵の親は自分の娘を王子に嫁がせることを望み、それゆえに幼い頃に婚約が決まっているなどということすら珍しくは無い。
こうならないパターンは前述した「新興国の王」だが、それとて優良物件とばかりに山のように見合い話が舞い込んでくる。
「つまり、世界的に見れば貴方が極めて珍しいパターン……あ、その手は待ってくれないかしら」
「ダメだ。勝負の世界は非情なんだ」
「何よ、ケチね」
ファイネルの一手により途中でイクスラースの台詞は終わってしまったが、なるほど確かにヴェルムドールの現状は「珍しい」といえるだろう。
しかしまあ、それはザダーク王国の魔族達がヴェルムドールを尊敬し崇めている為に「王妃になろう」などという夢を抱く者が出てこないという国内事情も絡んでいる。
まあ、いたところでヴェルムドールに近づけるとも思えないのだが……それはさておき。
国外的な話でいえば、ジオル森王国以外では未だ「魔王」というものに対する「恐ろしいイメージ」が先行しているが故にそんな国の王妃になりたいなどという「夢見る乙女」が存在しないし、何より「そんな国に嫁がせたい」という親が存在しない事情もある。
「……俺の嫁事情はどうでもいいだろう。結局どういうことなんだ」
「モカが絵に化けて脅かしたんでしょ。あとは全部その子の妄想よ」
「えうっ」
イクスラースの指摘にサシャが呻き、ヴェルムドールがふむと頷く。
納得がいけばもう興味はないらしく、少しイクスラースが押され気味の盤上に目を向けるが、頭上のサシャから声が降ってくる。
「えっと……じゃあ王様って、王妃様はいないんですか?」
「そうなる。おい、イクスラース。なんでその魔操鎧を前進させるんだ」
「あとで説明してあげるから黙ってなさいな」
イクスラースに邪険にされるヴェルムドールを頭上から見下ろして、サシャは「そうですか……」と頷いて。
「……捨てるよ?」
下から「邪悪な緑」に見上げられて、「ひえっ」と叫んでヴェルムドールの後ろに隠れるのだった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。