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連載
副長を決めよう3
しおりを挟む「アルムのところに……か」
「ええ。なんなら今からでも」
「今から……か」
一言呟く度に「嫌だ」という感情が漏れ出るかのようなファイネルだが、「行くことが必要だ」という理解もある為に口には出さない。
しかし、誰が見ても嫌がっているその様子にフーリィが疑問符を浮かべる。
ルモンやルルガルはともかくフーリィはアルムと関わりがあるわけでもないから当然の反応なのだが……「自分だけ分かっていない」というのは少しばかり悔しくも感じるようだ。
ルモンを横目でチラチラ見るフーリィの視線に気付き、ルモンは苦笑しながら「アルムさんというのはですね……」と説明を始める。
アルム。
その名前を聞けば、ザダーク王国ではおおよそ二人の人物が連想されるだろう。
一人は「爆炎のアルム」と呼ばれる赤いローブを纏う老齢の魔族。
その名のとおり爆炎を発生させる魔法を好み、敵を周囲の地形ごと粉砕する魔法使いであり……前魔王グラムフィアの参謀でもあった。
勇者リューヤが暗黒大陸へとやってくるよりも大分前にグラムフィアの元を離れてはいるが、その当時から生き残っている魔族には「爆炎のアルム」の名前は得意魔法であった「爆炎珠」と共に畏怖すべき名前として伝わっている。
そして、もう一人は青い髪をツインテールに纏めた小柄な少女。
小さな身体に似合わぬ行動力を持ち、吟遊詩人とかいう人類領域の文化の真似事をしている東方軍所属の魔族だ。
明るく元気で、少しバカなところもある……と、酒場に来れば盛り上がる事間違いなしの人気者である。
今となってはアルムといえば青髪の少女の方だが、実は両方とも同一人物であると知っている者は驚くほど少ない。
それこそヴェルムドールやファイネル、ルモン達くらいなものだ。
しかしながら、何故それほどまでに二人が同一人物であると気付かれないのか。
それは単純なことで、アメイヴァの魔人などというものが非常にレアなケースであるからだ。
そもそもアメイヴァとは魔族の中でも特殊で、ドロドロの液体のような身体を持つ生物だ。
たいした知性も持っていないと言われており、しかし物理攻撃がほとんど意味を成さない上に小さな一欠けらからでもやがては復活すると言われる厄介な相手でもある。
しかしながら、前述したとおり知性がほとんど無いが故に自らを高めるという意識すらもなく魔人に至ることなど無いと言われている。
アルムはその「有り得ない」実例であり、しかも高い知能を兼ね備えた超特殊例である。
……だが、それでも「魔人化」とはそれを為した時点で姿が固定される。
故に、全くの別人になることなど出来はしない。
この辺りが二人の「アルム」が別人と判定される理由だ。
ならば、アルムはどうしてそれを為しえているのか?
「どうしてだと思います?」
「いや……分からん。如何に不定形のアメイヴァであろうと、そんなものは関係ないだろう?」
「うん、その通り。でも理由はアルムさんが「アメイヴァだから」という一点に尽きるんです」
そう、不定形であろうとなんだろうと関係はない。
だが……アメイヴァの再生能力にこそカラクリはある。
そもそも再生とは「元通り」という意味だが、失われたものがそのまま戻ってくることなど有り得ない。
全体として前のものに似通っているというだけでそれは別のモノだ。
そして、アメイヴァは元々不定形だ。
「こうあるべき」という形も性別も何もかもがアメイヴァには存在しない。
故に、吹き飛ばされたアメイヴァの「色」が変わっているという噂話も存在するほどだが……恐ろしい事に、そうしたアメイヴァに関する噂話のほとんどが「単なる噂話」ではなく「実話」であったりする。
故に、小さな一欠けらから「再生」したアメイヴァは「別人」であると言っても差し支えない。
再生というよりは言わば「新生」であり、しかし不定形故に誰もそれに気付かない。
そして完全に作り変えられた肉体から行われる魔人化はつまり「魔人化のやりなおし」であり、それ故にアルムは性別すらも変えられる。
そして、そんな非常識な事が出来るなどと誰も思わない。
しかし、出来てしまうのだ。
それ故にアルムは望むならば幾らでも自分の体を作り変えられる。
年齢性別体格、あらゆる全てが自由自在。
ある意味で「不老不死」にもっとも近い生物は今のアルムであるとすら言えるだろう。
「……それは。その、最強なんじゃないか?」
「そうとも言えませんよ。だって、東方最強を決める戦いで結局アルムさんはファイネル様に敗れていますしね」
話を振られたファイネルは当時を思い出しながら「ああ」と頷く。
そう、再生だの新生だのと言ったところで即時復活というわけにはいかない。
実際、ザダーク王国建国前の戦いでファイネルの電撃砲で吹き飛ばされたアルムは再度ファイネルの前に現れるまで相当の時間を要している。
アルムのねっちょりと擬音が出そうな程しつこい性格からすれば再生と同時にやってくるはずということを考えれば、再生にそれだけの時間がかかったと考えるのが適当だ。
どうやら欠損した記憶や知識も相当量あることを考えると「中々死なないから最強」とは言いがたい。
「……まあ、奴の事に関する話はもう充分だろう。とにかく、奴のところに行かねばならん。悪いが、これを借りるぞ?」
そう言うと、ファイネルは二人の側からルモンを引き剥がして転移魔法を起動する。
「あ、そういうわけなんですみません。出来るだけ早めに帰るんで残務のフォローお願いします」
申し訳なさそうな笑顔を浮かべるルモンを連れて転移するファイネルの姿が消えた後、ルルガルとフーリィは顔を見合わせ……互いに同時に目をそらし、全く同じタイミングで舌打ちをする。
その直後、より「役に立っている」アピールの出来る仕事の取り合いになるが……まあ、それはルモンの知る由もないことだ。
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