勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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副長を決めよう4

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 東方軍本部、ファイネルの執務室。
 ファイネル自慢の立派な木のテーブルが置かれた部屋には今、主は居ない。
 つまりこの部屋は無人のはずなのだが……部屋の中は今、無人ではない。
 具体的にはファイネル自慢のテーブルに、一人の少女が寝転がるように……いや、抱きつくようにぺとりと張り付いている。
 纏っているのは東方軍の制服である白服で、青いツインテールがよく映えている。
 綺麗か可愛いかで言えば間違いなく「可愛い」に属する顔はほんのりと赤く染まり時折ほう、と息を吐く。
 その表情は花畑か何処かの中であれば振り返るほどに可愛らしいのだが……机に張り付いているという行動が全てを台無しにしてしまっている。

「ふふふ……ファイネル様の匂いがするのじゃ」

 その小さな身体では「抱きつく」というよりは「身体を投げ出す」といった風だが……まあ、表現としては「抱きつく」のほうが正しいだろう。
 まるで愛しい人を抱きしめるかのような、そんな風であるからだ。
 聞こえてくる声も可愛らしいというよりは、少しばかりねっとりとした感情を感じさせる。
 ちなみに言うまでも無く、この少女こそがアルムである。
 
「……む?」

 恋する……というよりは恍惚に近い表情を浮かべていたアルムが、魔力の動きに気付き部屋の隅を見る。
 すると、そこに転移光が集まっていくのが分かる。
 一人だけにしては多目の転移光だが、少なくとも「誰であるか」は明らかだった。
 何故ならば此処はファイネルの部屋であり、此処に直接転移できるのはファイネルと同格以上の者以外に居ない。
 しかし実際にはそうした者達も指定された場所へ転移する為、此処に直接転移するのは部屋の主であるファイネル以外には居ない。
 だからこそ、アルムは風のような速さで身体を起こし机から降りる。
 やがて転移光が集まりきり、弾けるその瞬間を狙ってアルムは突進する。

「ファイネル様ぁぁぁっ!」

 叫んで、走って。激情に突き動かされるままに抱きつこうとして。
 しかし、その寸前でピタリと停止する。
 ファイネルだけではないことに気付いてしまったからだ。
 いかにも優男風のなよっとした男が隣に居る。
 その事実に気付くと共に、アルムは一気に崩れ落ちる。

「馬鹿な……わしがファイネル様への想いを高めている間に、こんな若造が……」
「……ほらな。居ただろう。絶対いると思ったんだ」

 ファイネルが疲れた顔で横の若造……ルモンへと振り向くと、ルモンは困ったような笑顔を浮かべる。

「はは……そうですね」

 形状自在にして雌雄自在、そして最も不死に近い魔族。
 そんな存在であるアルムの昔からの欠点が偏執的なまでのファイネルに対する執着だったのだが……時を経て姿を変えても、会う度に酷くなっている。
 もはや魂を超えて命の種にでも刻まれているのではないかという執着ぶりだが、ひょっとするとアルムという根幹を支えるのはそこかもしれないのでルモンとしては「どうしようもないのではないか」というのが正直な感想である。

「ファイネル様! こんな若造よりわしをぶぎゅ!」
「うるさい、寄るな。お前こんな所で何をしてる」

 すがりつくアルムにファイネルが蹴りを入れると、蹴りを入れたその足にアルムは息を荒くして頬ずりする。
 すると即座にファイネルの顎蹴りが入るが、仰向けに倒れながらも幸せそうに顔を上気させているのが実に救いがない。

「何と言われましても。ファイネル様の居られない間に残り香を堪能しとっただけですが」

 言い訳のしようもなく気持ち悪い台詞に、ファイネルは蹴ることもせずに距離をとる。
 そうなのだ。アルムは自分の変態的嗜好を全く隠さない。
 アメイヴァとしての欲望に忠実な部分が残っているのか、アルム自身が変態なのかは不明だが……酒場で人気の吟遊詩人をやっているとは思えない暴走ぶりである。

「大体、お前には流通管理部隊の仕事があったはずだが」

 ちなみに流通管理部隊とは食料政策を始めとする業務を手がけていた東方軍の業務の一つになるが、ジオル森王国を通じた輸出入を始めた現在ではそれの管理をも一手に引き受ける一番忙しい部署である。
 アルムを放り込んでおけば変態を発揮する暇も無いだろうというファイネルの策だったのだが……現実はこうである。

「ん? ああ、そんなもん効率化さえ済めば幾らでも時間をひねり出せますからのう。今は休憩時間ですわい」

 そう、アルムは「このままではファイネルに会いにいけない」と気付くと同時に全力で流通管理部隊の業務の効率化を図り無駄な部分を徹底的に削ぎ落としたのだ。
 鬼気迫る、という言葉がピッタリな程に真面目かつ必死に取り組んだアルムによって流通管理部隊は業務に多少の余裕が出来ており、それ故にアルムがこうしている時間を簡単に捻出できてしまっている。
 というよりも、流通管理部隊ではアルムはアイドル扱いである。
 そんなアルムが「敬愛するファイネル様に会いに行く」といえば、「東方軍の鑑だ」と温かい目で見守る者しか居ない。

「……変態じゃなけりゃ普通に目をかけるのに、どうしてお前は変態なんだ……」
「そんなことを言われましてものう」

 溜息をつくファイネルと、飄々とした様子のアルム。
 今となってはアルムとはほとんど関わりのないルモンとしては口も出せず、ただ苦笑するくらいしか出来はしなかった。
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