勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
559 / 681
連載

アルム、頑張る6

しおりを挟む

 魔王城に入ると、そこは大広間である。
 広々としたその空間にはずらりと鎧が並んでおり、その威容を感じさせる。
 装飾としても中々に美しい鎧達ではあるが、その全ては魔操鎧達である。
 中身が空っぽの「動く鎧」である魔操鎧達は微動だにしない状況であれば普通の鎧と見た目は変わりなく、しかしいったん動き出せばフル装備の騎士となんら変わりない。
 魔操鎧達はアルム達が入ってきても何の反応も見せず、そこに飾り物のように立っているだけだ。
 そこからは一切の気配は感じられず、まるで本物の置物のようである。
 この辺りは「幻想系」と呼ばれる特殊な魔族の本領発揮であるが、そうでなくてはこんな警備の仕方は無理であるだろう。

「相変わらずのガッチガチ警備じゃのう」
「仕方ないですよー。魔王城ですから……あ」

 モカは言いながら、ふと空中へと視線をさまよわせる。
 何かを追うようなその視線の動きは、部屋の隅で止まり……そこでキラリと光る「何か」を見つけて、モカの目もキラリと光る。

「おや……おやおやあ?」

 抜き足差し足でその場所へと歩いていったモカは、その「何か」に覆いかぶさるように飛び掛る。

「みーつけたあっ!」
「きゃー! 見つかりましたぁ!?」

 小さな少女が入った水晶珠……としか表現しようのないモノを捕まえて戻ってきたモカは、嬉しそうな顔でアルム達のもとへと戻ってくる。
 ジタバタと水晶珠の中で暴れる少女を幸せそうに眺めているモカと、その手の中の水晶珠の少女を交互に見つめてアルムは不思議そうな顔をする。
 オルエルはすでに「いつものこと」なのでどうでも良さげだが、アルムはこの水晶珠に入っているように見える少女……サシャとは初対面なのである。

「……なんじゃ、それ。新しい魔族かえ?」
「違いますよー。ちっちゃくて可愛いサシャちゃんです。こう見えて人類なんだそうですよ? なんかこう、守ってあげなきゃって気になりますよね」
「はなしてー!」

 ジタバタと暴れるサシャをしっかりと押さえているモカを見ながら、アルムは「そういうものかのう……」と呟く。
 どう見ても嫌がられているが、モカも他の魔族に負けず劣らず自分本位主義の魔族だ。
 その穏やかな性格からあまり露見しないが、サシャという弱々しい存在を目の前にすることでそうした部分が大爆発しているようだ。
 まあ、その結果が「守ってあげたい」ならば、サシャにとってはある意味で幸運……なのかもしれない。
 まあ、見る限りでは「構われすぎて迷惑」なようにしか見えないのだが。

「サシャちゃん。私達これから魔王様のところに行くんです。一緒に行きません?」
「はーなーしー……え、王様のとこですか?」

 魔王様、という単語を聞くなりサシャは暴れるのをやめ、考え込むように腕を組む。
 時折自分を捕まえているモカをちらちらと見上げているのは、色々なものと天秤にかけているのだろう。

 そんなサシャの様子を見て、アルムは心の中だけでふむ、と頷く。
 人類のことならば、アルムもある程度学んではいる。
 シュタイア大陸に存在する人類は身体の一部に獣の特徴を持つ「獣人」、耳の長い「シルフィド」、身体の小さい「メタリオ」、そして言わずと知れた「人間」の四種だ。
 このサシャという妙な小さいものはどの特長にも当てはまりはしないが……人類だというのは、恐らく真実だろう。
 モカはそんなつまらない嘘はつかないし、モカが「こう見えて人類なんだそうですよ」と言っていたことが重要である。
 つまり誰かからそうであると伝え聞いたということだが、サシャが人類でありながら魔王城に滞在していることを考えるに、恐らくそれを彼女に伝えたのは相当立場が上……それこそイチカや魔王ヴェルムドールのような存在であると推測できる。
 勿論サシャが自己紹介でそう言ったという可能性もあるが、あの嫌われっぷりを見るに自己紹介を和やかにする関係だとも思えない。
 ……だが、そうなるとサシャは「未知の人類」ということになるが、ヴェルムドールはそれを探るつもりでサシャを側に置いているのだろうか?
 そんなことをアルムが考えていると、目の前にサシャの入った水晶珠がふわふわと浮かんでいるのが見えてアルムはギョッとした顔で後ろへ数歩下がる。

「ご気分、悪いんですか? なんかぼーっとされてましたけど」
「んん? ああ、いや。ちょっと考え事をしていてのう」

 考え事、と聞いてサシャは納得したような顔でポンと手を打つ。

「あー、分かります! 王様もよくむずかしー顔で動かなくなることありますもの!」

 言いながらサシャは「こうですよ、こう!」と指で両目を吊り上げながらヴェルムドールの顔真似をしてみせる。
 それがはたして似ているかどうかはアルムには判断できないが、ヴェルムドールがサシャに気に入られていることくらいは理解できた。

「まあ、ええか。とにかく魔王様のところ……へ……」

 言いながら背後のオルエルへと振り返ったアルムは、相変わらずどうでも良さそうな顔をしているオルエルの背後にイチカが立っているのに気付く。
 黒い髪に黒いメイド服、纏う銀色の鎧に背負った盾と完全に戦闘態勢だが……薄く光る赤い目は怒りの証明だろうか?
 何も言うなとばかりに見つめられれば、アルムとしても唾を飲み込むほかは無い。
 そのアルムの表情に気付いたオルエルが視線の先を追って振り返ると同時に、オルエルの顔はイチカによって鷲掴みにされる。

「ぐおっ……い、いつの間にっ……いだっ、いだだだだあ!」
「オルエル。貴方に少しばかりお話があります。裏庭まで来ていただきましょうか」

 必死でイチカの手を剥がそうと暴れるオルエルだが、先程のモカに対するサシャの抵抗が子供同士のじゃれ合いにしか見えない必死さと壮絶さである。
 打撃も蹴りもイチカの僅かな動作で全て無効化され、オルエルの顔面はイチカの手により圧縮処理されかけているかのようである。

「おごが……死ぬ、死ぬっ! おいアルム、フォロー! フォローを!」
「え? あ、ああ。あのー、イチカ様?」
「却下します」

 オルエルの顔面を掴んだまま何処かへと引きずっていくオルエルにそれ以上アルムが出来ることがあるはずも無く、手をひらひらと振って見送る。
 まあ、いつものことなので「おしおき」程度で済むだろう。

「あー……行こうかの?」

 先程までの不仲もどこへやら、震えて抱き合って……というよりもモカがサシャを抱えこんでいるようにも見えるが、ともかく共通の恐怖を前に少しだけ溝が埋まったような二人に、アルムはそう呼びかける。

「そ、そうですね。行きましょう!」
「あの黒い女の人、超怖いのです!」

 オルエルの代わりに、なにげに恐れ知らずな事を叫ぶサシャを連れてアルム達はヴェルムドールの執務室へと足早に向かっていった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。