勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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しあわせですよ6

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「あれ、なんかありますよ! お……シオンさん!」

 行く先に木の柵を見つけたサシャが、ヴェルムドールの手の中でジタバタと暴れだす。
 そう、木の柵である。魔族からしてみれば無いも同然のものではあるが、防御目的ではなく「境界線の主張」と「周囲からの視線の遮断」の為のものである。
 では何故そんなものが必要なのかというと……此処が、いわゆるイベント提供型の記念館だからである。
 体験を売るタイプの商売では、こうした処理もどうしても必要になってくるし……何より、その体験にその場で熱中させることが重要である。
 その為には、その場がある種の周囲から隔離された空間であることが望ましいのだ。
 だから、だろう。木の柵には木の板が貼り付けられ、周囲の視線を完全に遮断してしまっている。
 壁といってしまうには少々乱雑にすぎるので誰もが柵と呼ぶが、まあ仕方ない。
 なにしろこれを造ったのはノルムではなくゴブリン達なのだから。

「此処は少しにぎやかですねー」
「中心部が少し近いからな」

 正確にはアークヴェルムの中心部からは少し外れているのだが、商業区画の端にこの場所は位置している。
 中々場所を確保しにくいこの辺りに広い場所を確保しているのは、元あった場所から移転させた都合も含まれている。

「此処が例の場所だ」
「おお、此処が例の……!」

 例の場所、とか言っているのは名前を覚えていないせいだが、看板に書いてある「魔王様降臨記念館」とかいう文字を読みたくないからでもある。
 サシャはその看板に気付いているのかいないのか、それとも「例の場所」というフレーズが気に入ったのか、やはりその記念館名を読み上げる様子はない。

「まあ、そういうことだ。ずっと柵を見ていても仕方ないしな……中に行こう」
「壁じゃないんですか?」
「こんなものは柵だ」
「ほへー」

 サシャを持ったままヴェルムドールは簡単な門になっている入り口へと向かう。
 開館時間はずっと開いているこの門だが、その両側にゴブリンが木の棒を持って立っている。
 いかにも警戒してますよと言わんばかりの様子だが、金属武器が安い価格でより取り見取りの現在に木の枝では如何にも滑稽だ。
 サシャもどう反応していいのか分からないのか、「ふへー」と変な声を出してしまっている。
 だがそのゴブリン達はヴェルムドール達を見つけると、途端に笑顔になってお辞儀をする。
 下手な警戒顔よりもそっちの笑顔の方が恐ろしかったのか、サシャが「ひえっ」という声をあげるがゴブリン達は気にした様子もない。

「いらっしゃい、お客様。入場料は大銅貨七枚だ」
「お客さんは運がいい。もうすぐ劇が始まる」

 ヴェルムドールが頷き大銅貨を一四枚手渡すと、ゴブリン達は顔を見合わせる。

「なんか多いぞ」
「レグゥは知ってるぞ。七枚は十枚より少ないんだ」
「ラグゥのほうが知っている。これは一四枚あるんだ」

 ゴブリン達……レグゥとラグゥは手の中の大銅貨をじっと見た後、再度顔を見合わせる。

「これはつまり、ラグゥに対する貢物?」
「それはおかしい。レグゥのほうが真面目だ」
「それは二人分だ」

 ヴェルムドールがサシャを掲げると、水晶珠の中のサシャが「こんにちはー」と笑って手を振る。
 それを見てゴブリン達はどんな反応を示すかと思えば……再び顔を見合わせた後に、笑顔でお辞儀をする。

「ラグゥ、理解した。どうぞ中へ」
「レグゥのほうが早く理解した。どうぞ中へ」
「ああ、そうしよう」

 ヴェルムドールがサシャを抱えたまま中に入っていくと、そこには黎明期のような獣の革のテントがぽつぽつと点在している。
 少し視線を横に向けると、やはり木の柵で隠された石の建物があったりするのだが……それを見て、サシャが再度「ほへー」と呟く。

「あのー……さっきの人達、なんで木の枝持ってたんですか?」
「ああ、あれか。雰囲気作りだろうな」

 ヴェルムドールが暗黒大陸に現れたばかりの頃は、ゴブリンは暗黒大陸の不動の最下層であった。
 何しろ、武器といえばその辺で拾ってきた木の枝だったのだ。
 今ではどんなゴブリンでもしっかりと金属の武器を使うが、つまりはそうした雰囲気を再現したものなのだろう。

「木の枝……」
「頭があまり良いほうではなかったんだ。今でもあまりいいとは言えないがな」

 だがまあ、こんな場所を造ろうと考えられるだけの頭はあるのだ。
 問題は教育の機会であったのだろう。
 たとえどんなに頭が良くとも正しい知識を得る機会が無ければ意味が無いが、どんなに頭が残念でも正しい知識を得る機会があればそれなりになんとかなるものだ。

「まあ、それはいい。で、此処だが……俺と最初に出会ったゴブリン達が、その集落を再現したものだ」
「再現ですか?」
「ああ。本当の「その場所」には今石碑が建っている」

 所謂区画整理というものだが、まあ、場所的に魔王城のすぐ近くなので仕方のないことであろう。

「つまり、此処はだな……」
「ほうほう?」

 ヴェルムドールが説明しようとしたその矢先……低く大きい、角笛のような音が園内に響き渡った。
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