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しあわせですよ5
しおりを挟む「はぁー……」
見下ろしたサシャがヴェルムドールを見上げる目はしかし、ヴェルムドールの予想とは異なり輝いていた。
まるで尊敬の目にも似たそれにヴェルムドールが首を傾げると、サシャは手をぶんぶんと振り回しながら興奮したように叫ぶ。
「凄いです! シオンさ……ええっと、王様の記念館なんですね!?」
「あ、ああ。正確には一般的にこの国の始まりとされている事項に関連する……というだけだがな」
「凄いです! 行きたいです! うわあ、楽しみです!」
楽しそうにヴェルムドールの周りを飛び回るサシャに、ヴェルムドールは多少困惑しながら頬を軽く搔く。
何がそんなに楽しいのかは分からないが、まあ本人が納得しているならいいか……と思いなおす。
「なら、早速行くとするか。転移……」
「歩いていきましょう!」
転移魔法を使うぞ、と言おうとしたヴェルムドールの言葉を、サシャの声が遮る。
ヴェルムドールがサシャを見つめると、先程と同様にキラキラと輝く目でベルムドールを見つめ返している。
「一気にびゅーんと行くのも楽しかったですけど、一緒に歩くのも楽しいですよっ」
胸の前で手を組んだサシャはそう言って、それから「あ、私は飛んでましたね」と恥ずかしそうに笑う。
しかし、なるほど。
確かに外を出歩くという滅多にない機会を時間短縮とはいえ転移魔法で省略するのは、風情に欠けると言わざるを得ないだろう。
「……ふむ、それもそうだな。元はといえばお前を街に連れて行くのも目的だったか。少し遠いが、歩いていくとしよう」
「はい!」
頷くサシャを捕まえると、ヴェルムドールはその手の上に乗せてポンと軽く叩く。
「ほへ?」
「動き回るお前を気にしながらでは充分に案内できるか分からんからな。嫌か?」
「嬉しいです! えへへ、いいんですか?」
「構わん。行くぞ」
「はーい! きゃー、揺れます! わーい!」
どういう理屈かやはり分からないが、ヴェルムドールが歩く度に水晶珠の中で身体をポンポンと跳ねさせているサシャにチラリと視線を向け、すぐにヴェルムドールは辺りへと視線を巡らせる。
「先程も言ったが、この辺りは古いからな。使っている石材も相応に古い」
「はー、そうなんですか」
「ああ。だから……歪だろう?」
言われてサシャが壁を見ると、確かに表面がデコボコしていたり微妙に角に隙間があったり欠けていたりするものが多い。
色も、白い石の隣に茶色い石を配置したり、かと思えば黒い石が混ざっていたりと微妙に統一感に欠けている。
そういうデザインと言う事も出来るだろうが、どちらかというと足りない部分に仕方なく違う石を嵌め込んだ……という感じだろうか。
「言われてみると……そんな気もするような気も……うーん」
「まだ技術力の半端だった頃だからな。輸送力も今ほどでは無かったし、妥協している部分も随分とある」
今ならば作り直す事も容易だが、「これはこれで味がある」と住んでいる本人達が納得してしまっているのでそのままになっている事情がある。
今ではノルム達がキッチリと四角く平らに石を切り出すので、こういうデコボコした表面の石材はわざとそうしなければ出来ない。
しかもそうしたらそうしたで、中々「味のある」仕上がりにはならないのだという。
「難しいんですねえ……」
「お前の故郷は石の家はないのか?」
「うーん……記憶が曖昧なのでよく覚えてないんですけど、木の家だった気がします」
「ふむ、なるほどな」
シュタイア大陸でも木の家というものは少なく、小さな村でも石の家が主流である。
この辺りは重要な文化の違いではあるだろうか。
「でも、本当に人がいませんねえ」
「そうだな」
人と出会わないままにヴェルムドール達は道を進み、適当な会話を交わしながら歩いていくが……その最中、サシャがじっと空を見上げているのにヴェルムドールは気がついた。
「そういえば……この国って、お空がいつでも暗いですよねえ」
「……そうだな」
そう、サシャの言うとおりザダーク王国……暗黒大陸はいつも曇天だ。
この国に住む者は慣れてしまっているが、やはり知らぬ者から見れば不思議に映るのだろう。
調べてはいるが、別に困っていないので優先度も低く何も分かっていないに等しい。
「王様は、青いお空は好きですか?」
「……どうだろうな。美しいとは思うが、この曇天にも愛着がある」
むしろ今となっては、青い空に違和感すらある。
「私は好きですよー! 本物の海はいつも荒れてますし怖い魔力で満ちてますけど、お空には綺麗な海が広がってますから!」
「ほう?」
「ずーっとずーっと……誰も知らないくらいずうぅぅっと昔は、本物の海も青いお空みたいに綺麗だったそうなんです。だから私は、青いお空を見上げるのが大好きでした!」
青い空のように美しい青色をした海。
そんなものは、ヴェルムドールにはとても想像が出来ない。
僅かにヴェルムドールの中に残る「リョウ」の欠片からも、やはりそんな光景は出てこなかった。
だが、海が今の最果ての海となる前……水の歪神が封じられる前は、あるいはそんな光景が広がっていたのかもしれない。
「青い海、か。それは美しいだろうな」
「はい! きっと凄く……すっごぉく綺麗ですよ!」
それを叶える為には水の歪神を滅ぼすしかない。
だが、そんな現実を語る事など無粋以外の何物でもない。
「ああ、そうだな」
だから、ヴェルムドールは優しくサシャを撫でて歩みを再開した。
************************************************
ここしばらくのドロドロ成分を洗い流すかのように、もう少しサシャのターンが続きます。
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