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連載
世界会議の前に4
しおりを挟むキースと別れたトール達は、その日の予定の半分が潰れた事で何をするでもなく街をブラブラと歩き……一通り満足した所で、集合場所の喫茶店に入っていた。
キースがこの街に来た時の行きつけだというその店は分かりやすく大通りにあり、しかし流行っているというわけではないのか昼時になっても満席になってはいなかった。
その理由は、「何か軽いもの。出来れば少し甘めのお茶請けになるやつ」と頼んでドッサリと大皿に載った、小さく刻んだパンを揚げて砂糖をまぶしたものを持ってくる店主のセンスにあるのかもしれない。
しかしながら砂糖とて決して安いものではない事を考えれば、上客と歓迎してくれているのかもしれないが。
ともかく、出てきたお茶は決して不味くは無い。
その味にクゥエリアが一息ついていると、トールがぼうっとしながら街を行く人々を眺めているのが目に入った。
「トール様、何か気になるものでもございましたか?」
「んー? いや、なんていうか……栄えてるよな」
「……そうですね。世界会議も控えておりますし、今が一番活気があるでしょう」
クゥエリアがそう返すと、トールは再度口を開きかけ……しかし、何かを見つけて「おっ」と呟く。
「お、きたきた! おーいキース、こっちだぞー!」
先程までぼうっとしていたトールは、キースを見つけると元気に大きく手を振る。
前に一緒に居た騎士二人が常に一歩引いた態度を崩さなかったのと比べると、キースは「友達」のような感覚なのだろうか。
それはクゥエリアには出来ない事なだけに、少しばかり悔しくも思うが……態度には出せない。
トールが頼んだ「刻みパンの砂糖まぶし」とも言えるものをフォークでツンツンとつついていたクゥエリアも振り返り、柔らかく微笑んで手を振ってみせる。
しかしキースと……その後ろにすっぽり隠れていたレンファは、トール達の側に来ても椅子に座ろうとしない。
「おつかれ、キース。その子も連れてきたんだ?」
「ああ、まあな」
「そういや、さっきは自己紹介もしてなかったよな。俺はトール。よろしくな」
「私はクゥエリア・ルイステイルです。よろしくお願いしますね」
「え、あ、はい。よろしく、おおお、お願いします」
キースの背後から出てきて頭を下げたレンファはそのままキースの背後に少しずつ移動して隠れてしまい……その様子を見て溜息をついたキースが、後ろ頭を搔きながらトールへと視線を向ける。
「確かこの街での予定だけどよ、世界会議までの間は暇してるんだったよな?」
「え、あ、おう……だよな、クゥ?」
「正確には、この街での調査やソードマスターとの再度の会談の予定もありますが……まあ、基本的に荒事はありませんね」
そして、このドークドーンの街中は世界会議を前に路地裏にまで巡回の目が光っている。
つまり「護衛」としてのキースの役割は無いに等しい。
勇者パーティの一員であるならば同行したほうがいいのだが、キースはそこに明確な一線を引いていた。
「ひょっとして……何かあるのかキース?」
真面目な顔で立ち上がろうとするトールを、キースは手を振って押し留める。
「お前が出張るような事は何もねぇよ。ただ、ちっと手間がかかりそうでな。俺が本格的に手を貸せるか予定を確認しておきたかったんだ」
「そっか。別にいいよな、クゥ」
「そうですね」
頷きあう二人にキースは「そうかい」と答えると、背後のレンファを自分の後ろから引っ張り出す。
「こいつの事も、後でしっかり紹介するが……まあ、そうと決まれば急ぐんでな。終わり次第宿のほうに戻っからよ」
「ああ」
レンファを連れて身を翻すキースの背中を見ていたトールは、キースが歩き出す前に立ち上がり、その背に声をかける。
「……聞くけどさ、俺が手を貸せるような事はあるのか?」
真剣なその声に、キースが振り返ると二カッと笑う。
「なんだぁ? 心配性かお前は。言ったろ? お前が出張るような事は何もねえよ」
「……そうか」
そのまま遠ざかっていくキースをじっと見ているトールを眺めながら、クゥエリアは少し冷めた茶を口に含む。
キースを雇った時には本当にいいのかと心配ではあったが、こうして結果から言えばトールはキースと出会って大きく変化した。
トールの言うようにキースが「渋い大人」かどうかはさておいて、トールはそういう風にあろうと物事をしっかりと考えるようになった。
それは「神殿」にとっては必ずしも良いことばかりとはいえないが、クゥエリア個人としては好ましい変化だった。
「なあ、クゥ」
「なんでしょう、トール様」
トールはキース達が歩いていった方向から目を離さないまま、クゥエリアへと抑えた声で語りかける。
「……さっきのキース、なんか変じゃなかったか?」
「変、と一言で言われても判断致しかねますわ」
強いて言うならば隠し事をしていたようにクゥエリアには見えたが、本人が何もないと言う以上は関わる必要はないと考えていた。
「なんていうか……俺に関わらせたくないっていうか、そんな感じの空気を感じたんだよな」
「誰しも個人的な事情には触れられたくないものです。キースとあの子の間には、私達も知らない絆があるようですし。そういった事情なのではないでしょうか?」
「そう、かな……」
トールはそう呟いて……キース達の歩いていった方向から、目を離そうとしなかった。
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