勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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世界会議の前に3

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「……マジかよ」
「は、はい」

 トール達と別れたキースは適当な物陰に入り、屋台で買ったジュースをレンファに渡しながら聞きだした話に溜息をついた。

 事の起こりは、数日前。
 このドークドーンから比較的近い鉱山に繋がる道で土砂崩れが起こり、不通になったのだという。
 鉱山には必ず鉱夫達が寝泊りする頑丈な建物があり、そこには充分な水も食料もある。
 更に、どうやら土砂崩れは限定的な範囲に収まっているようだった。
 すぐにどうにかなるものでもあるまいということで、道の無い場所を辿って様子見の者を行かせながら復旧工事が始まる事になった。
 しかし、二日たっても様子見に行った者が戻ってこない。
 思ったよりも時間がかかっているのを不審に思い、今度は腕に覚えのある者を「偵察」に行かせた。
 すると、偵察の者は一日たってから傷だらけで戻ってきた。
 ゴブリンが出た、と……そう言い残して、偵察の者は事切れた。

「ゴブリンだぁ? ビスティアでもオウガでもなくて、ゴブリンか?」
「は、はい。ゴブリンだと言っていたそうです」

 間違いはないです、と繰り返すレンファにキースは「うーむ」と唸る。
 正直に言って、簡単には信じられない。
 ゴブリンは繁殖力が高いが、個々の実力は高くない。
 集落規模に成長したゴブリンを倒しきるとなれば手間はかかるが、偵察に徹していた腕利きのメタリオが死んでしまう程とは思えない。
 その腕利きが「自称」とか「その場にいた中では」という可能性を差し引いたとしても、同じことだ。
 とはいえ、ゴブリンと他の何かを見間違えたというのも有り得ない話だろう。
 となると……ゴブリンアサシンの可能性も考慮せねばならない。

「うーむ……しかしそうなると、騎士団の出番だな。よし、そこまで付き合ってやらあ」
「あ、ま、まってくださいっ」
「んだよ」

 物陰から出ようとするキースの服の裾をレンファが掴んで止める。

「騎士団は、もう、その、出てるんです。でも安全の為ってことで、その」
「あー……道を開通させてからってことか」

 こくりと首を縦に振って頷くレンファに、キースはふうと息を吐く。
 まあ、当然だ。
 相手がただのゴブリンであれば、建物の中でじっとしているだけで安全は保たれる。
 殺された偵察の男に関しても、「余程無茶をしたのだろう」という判断になるだろう。
 そうではない恐ろしい可能性であったとして、ならば尚更騎士団が無茶をするわけにはいかなくなる。
 そうした可能性があるのならば、万全の体制で挑み確実に解決しなければ後がなくなるからだ。

「……なるほどなあ」
「だ、だから」
「冒険者ギルドへの依頼はどうした? そういう小回りのきく仕事なら出番だろう」
「う……そ、それが。腕のいい人は皆、出払って……るそうです」

 それを聞いて、キースは舌打ちする。
 確かに、今の時期は冒険者ギルドは輸送の警備や個人の護衛など「ある程度の長期」になるが稼げる仕事が選り取り見取りだろう。
 当然指名依頼も入るだろうし、そうなると残っているのは……まあ、あまり腕に自信の無い連中か新人かということになるから、わざわざそんな危険かもしれない依頼は受けないだろう。

「……そりゃどうしようもねえな。騎士団に任せておけよ」
「で、でも。レインちゃんのお父さんが鉱夫で」
「誰だよレインちゃんて……まあ、いい。お前はそのレインちゃんとやらから話を聞いたってわけだ」

 となると鉱夫の家族にはすでに話がいっていて、冒険者ギルド関連の話も鉱夫の家族が行動した結果と考えていいだろう。
 それからどの程度の時間がたっているか分からないが、今も状況は然程変わっていないと考えていいだろう。

「アゾートの婆はどうしたよ。お前の頼みなら聞いてくれるんじゃねえか?」
「あ、アゾートおばさんは、その。最近はずっとお城で、会えなくて……」
「あー、そうかい」

 言いながら、キースはレンファの腰に視線を送る。
 そこにはシンプルなデザインの剣が差してあり、一見レンファが持っていても違和感の無い程度のものに見える。
 しかしながらレンファの先程からの話と態度を総合すれば、一つの可能性しか思い浮かびはしない。

「……お前、自分が行く気だな?」
「え、あ、そ、その」

 顔を背け目を逸らそうとするレンファの顔を、キースのごつごつとした手が掴んで正面を向かせる。

「あ、え、あ」
「引っ込み思案のお前が「そうしよう」って思えたのは立派だがよ。ロクに実戦経験もないくせにやれると思ったか? それともゴブリン相手だからってナメてんのか?」
「そ、それは」

 チッとキースが舌打ちすると、レンファはビクリと震える。
 しかし、本当に「ゴブリン相手だから」と油断して逆に殺される冒険者は後を絶たない。
 たとえ一体一体が弱くても数が集まれば充分すぎる程に脅威だということを分かっていない者が多すぎる。
 ましてや、若い女の子ともなれば「それだけではすまない」かもしれないのだ。

「……で、でも」
「なんだよ」
「動くべき時に動かない奴は、一生そのままだって……」
「アゾートの婆だな、そんな事言いやがんのは。そういうのはテメェでなんでも解決できる奴の常套文句だ」

 再び黙り込んでしまうレンファを、キースはじっと見つめる。
 このまま家に帰す事も出来るが、この様子だと隙を見てまた現場に向かおうとするだろう。
 レンファは引っ込み思案ではあるが、意外に意志が強い。
 ならば、どうするか。

「……ったく、仕方ねえなあ!」

 キースは忌々しそうに叫ぶと、青い空を見上げ深い溜息をついた。
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