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世界会議の前に13

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 二つの魔剣技がぶつかった余波で粉塵が舞い上がり、視界が完全に塞がれる。
 上空で何かがぶつかり合うような音が聞こえ、落下音も聞こえてくるが……アインに見えているのは目の前に立つ、よく知る背中だけだ。

「お前、どうして此処に」
「嫌な予感がしたんだ」
「どうやって」
「ツヴァイの馬鹿に頼んだ」

 返ってくる身も蓋も無い答えに、アインは力なく笑う。
 そう、この男は……カインは、そういう男なのだ。
 だからこそ、問う。

「何があったか、聞かないのか」
「上にアルヴァがいた。たぶん、原因はそれだろ」
「それでいいのか。お前を騙しているかもしれんぞ?」
「信じる」
「損をする選択だ」
「それでいいさ」

 粉塵は、少しずつ晴れていく。
 その先にいる男を見据えたまま、カインは背後のアインへと告げる。

「僕がアインを信じてる。今僕が戦う理由は、それだけでいいんだ」
「……ふざけるなよ」

 そして、粉塵が晴れた先。
 その先にいるトールが、怒りに染まった顔でカインを睨みつける。

「お前、あの時のカインって奴だな! またその女を庇うのか!」
「お前こそなんだ! 聞いてるぞ、勇者なんだろ! なんでこんな事をするんだ!」
「なんでだと……! そいつが、そいつがキースを殺したんだ!」

 トールの指差す先には、首を斬り飛ばされたキースの死体が転がっている。
 カインはそれにちらりと視線を送ると……すぐにトールを睨み返す。

「そうせざるを得ない理由があったはずだ。アインは理由もなくそんな事はしない! 大体、この場を見て分からないのか!」

 カインの示す先には、先程ツヴァイが落としたと思わしきアルヴァ達の姿。
 殺さない程度に留めたようで、まだ消えては居ない。
 肝心のツヴァイは面倒事になる前に消えたのか、この場には居ないが。

「これだけのアルヴァがいるんだ。そうせざるを得ない状況に追い込んだに決まってる!」
「なんだ、その状況って! 言えるもんなら言ってみろ!」
「……融合だ」

 話し合いの雰囲気になったのを見て取って、アインはそう告げる。

「アルヴァの中には死体に融合する能力を持っている奴が居る。キースはレンファという娘に融合したアルヴァに誘き寄せられ、結果としてアルヴァに憑依された。それが真実だ」
「……融合?」
「ああ。機密事項なので人類国家では特定の者にしか伝えては居ないが……この状況では仕方なかろう」

 カインはその真実の示す恐ろしさにゴクリと唾を飲み……しかし、トールは納得いかないという表情で剣を握る手に力を込める。

「……そんなのを、信じろってのかよ」
「アインは、嘘は言わない」
「信じられるかよ……俺は、俺は……俺は、見たんだ! そいつがキースの首を……首をっ! そいつがっ! キースを殺したんだ!」

 振りぬく剣を、カインが止める。
 トールの渾身の剣をカインは正面から受け止め、叫ぶ。

「この分からず屋……! なんでそんなに頑固なんだっ!」
「キースが言ってたんだ。情報は如何様にでも歪められる。だから、自分の見たものを信じろって……アルヴァが此処にいるのは分かった! 何かも企んでたんだろうさ! だが、融合だかなんだかってのまで信じられるかっ!」

 トールの剣を握る腕に力が篭り、カインの剣を押し返す。

「その融合ってのが真実なら、もっと世界は無茶苦茶になってるはずだ……でも、なってない!」

 ギイン、という音が響きカインは押し返される。
 だが、それでも背後のアインを庇い……それ以上は下がるまいという強い意志を込めてトールを睨みつける。

「どうしてもソイツを庇うのかよ」
「どうしてもアインを殺す気かよ」
「殺しはしないさ。でも、知ってることは全部吐かせる」

 その答えを聞いて、カインはすっと目を細める。
 剣を構えなおし、トールへと向き直る。

「そうかい。なら僕は……お前を倒さなきゃいけない」
「勝てる気か? 俺は勇者だぞ」
「……勇者だったら、なんだってんだ」

 カインの目には、一切の迷いは無い。
 ただ、トールを正面から見据えて。ゆっくりと……問いかける。

「自分の目で見た事を信じるってのは正しいさ。でも、お前に何が分かるんだ」
「……あ?」
「世界はこんなにも複雑で、表も裏も迷路みたいに入り乱れているっていうのに。異邦人気分の抜けてないお前に、一体何が見えるんだ」

 カインの言い始めたことの真意が分からず、トールは剣の構えを解かないままに疑問符を浮かべる。

「お前、何を言って……」
「勇者だなんて看板を誇らしげに掲げてるうちは、お前には絶対に何も見えない。僕だって、この世界に10年以上生きていても見えないものがたくさんあるっていうのに」
「ワケ分かんねえ事言って誤魔化す気か……? そうはさせねえぞ!」

 トールの振るった剣を、カインは再び弾く。
 その動きには、その心の内を示すが如く淀みは無い。

「難しいことなんて、何も言ってない」

 カインはそう告げると、剣を構えてトールへと突っ込んでいく。

「その人の言った事の真意も理解できてないバカが偉そうにモノ言うなって言ったんだよ、このバカ勇者ァ!」
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