勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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世界会議の前に14

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 カインの振りおろした剣をトールは正面から受け止め、カインを睨みつける。
 避ける事も出来たが、カインの放った台詞からも逃げるようで……そんなプライドが「避ける」ことを良しとしなかったのだ。
 故にトールはカインの剣を受け止め押し返そうとしながら、カインと正面から相対する。

「真意だと……!?」
「そうだ! 見て判断しろっていうのが「見たものをそのまま事実と思え」って事だとでも思ってるのかよ!」

 そんなわけがない。
 トールとて、そのくらいを理解する頭はあるつもりだ。
 実際に見て、考えて判断しろ……と。そう言われているのだということくらい、充分に理解している。
 だからこそ、トールは叫ぶ。

「そんなわけが……ねえだろっ!」

 渾身の力を込め、トールはカインの剣を弾く。
 圧倒的な力で押し返されたカインはそのまま後ろへと飛ばされていき……それでも倒れずに、土に跡をつけながらも踏みとどまる。
 
「俺だって色んな企みがあることくらい分かってる! だからあちこちを巡って、色んなものを見てきた! 色んな事を解決してきた! お前に何が分かる!」

 トールの手の上に生まれた火撃アタックファイアがカインに向かって放たれ、同時にトールは走り出す。

「火よぉ!」

 トールの剣を覆うのは、火の魔力。
 火撃アタックファイア魔法障壁マジックガードで防ごうと思えば剣は防げず、かといって物理障壁アタックガードでは魔法は防げない。
 対処する基本的な方法としては……まず火撃アタックファイア水の魔法障壁マジックガード・アクアで防いだ上でコンマ程の短い間に水の魔法剣辺りを展開するか、あるいはどちらかの攻撃を回避することを選ぶことが重要だが……回避など、トールはさせるつもりもない。

「……分かるさ。お前が考えてるだろうことは、全部分かる」

 だが、カインは慌てずに剣を構え水の魔法剣を発動する。
 そうして、まず最初に 火撃アタックファイアを切り裂き……そのまま、トールへと突っ込んでいく。
 そう、「実力が同じか勝る場合」に限り、このカインの対応が正解となる。
 魔法剣は物理攻撃と魔法攻撃の両方の性質を備えた魔法剣だ。
 故に相手の攻撃に込められた魔力を上回りさえすれば魔法だって斬れる。
 
「くっ、お前……!」

 カインの剣を再び受ける格好になり、トールは悔しさで歯噛みする。
 迷わずこの方法をとったカインは「トールより実力が上だ」と宣言しているも同然であり……それが、トールの勇者としてのプライドを傷つけるのだ。

「色んな人を助けたんだろ? 時には力で、時には言葉で。そうして、最後には感謝されてきた」
「そうだ! そうして俺は学んできたんだ!」

 カインの剣をトールの剣が押し返し、互いの剣の纏った魔力が打ち消しあう。
 それもまたトールの方が優勢に思えたが……カインの瞳は、全く揺らがない。

「……お前の敵が悪だった保証なんて、何処にあるんだ?」

 カインの言葉に、トールの力が一瞬弱まる。
 それは痛いところを突かれたというよりは、何を言っているか分からないというほうが大きかっただろう。
 悪だから誰かが泣いているのだし、話を聞けば怒りが燃え上がった。
 そうして成敗して、あるいは解決に力を貸した。
 自分一人ではどうにもならないものは仲間にも知恵を借りたし、力も借りた。
 そうして、色々な人達から感謝されてきた。
 それの何が悪いというのか、さっぱり理解できなかったのだ。

 ……だが、その一瞬の力の緩みはカインがトールを押し返すには充分すぎた。
 激しい金属のぶつかり合う音と共にカインの剣がトールの剣を弾き、今度はトールが後ずさる。

「……何言ってやがる。悪だから誰かを苦しめるんだろ」
「違う」

 カインとトールは、互いに剣を構えながら距離をはかる。
 隙はないように見える。力自体もほぼ互角。
 だからこそ、この奇妙な均衡が出来上がっているのだ。

「互いの正義がぶつかるから、誰かが苦しむんだ」

 悪人、と一言でくくるのは簡単だ。
 だがそれは一方からの見方に過ぎない。
 俗に言う「悪人」とは本人以外の多数から「善ではない」と判断されたが故の相対評価であり、「悪人」から見れば自分が「悪人」であるという自負のある者など少数だろう。
 むしろ、彼等からしてみれば自分に仇なす者達こそが「悪人」なのである。
 そして大抵、悪人とは「絶対的な個人」ではない。
 故にそれの「退治」は別の涙を生む。だが、それが「正義」や「被害者」側に省みられることはないのだ。
 では、そのどちらが悪人かの決着をつける審判の鎌は、誰が振り下ろす権利を持つというのだろうか?

「お前は、本当に「見た」のか?」

 だからこそ、カインはトールに問う。
 地方貴族の息子として生まれたが故に、カインにはそうした問題の両面が理解できる。
 それぞれにそれぞれの事情があり、それぞれの正義がある。
 それは、事情を知らない誰かが簡単に裁いていいようなものではない。
 けれど、事情を知っている者が簡単に裁けるようなものでもない。
 ……決して、簡単に断罪していいようなものではないのだ。
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